【追悼・木内幸男さん】「いつもの桑田じゃねえ」…84年夏決勝 取手二VSPL〈5〉

スポーツ報知
7回、PL学園・桑田(手前)から2ランを放った取手二・吉田(後方)

 真夏の雨が絶え間なく降り注ぐ。

 決勝は33分遅れで午後1時3分、プレーボール。

 この日が3連投。中指のまめが潰れていた桑田真澄はもう一度、心を整えた。ぬかるむマウンド。ロージンバッグに手をやる。

 痛い―。

 桑田「雨でボールが滑るから、ロージンバッグをつけなきゃいけない。でもザラザラする感じが痛くて、どうしようもなかったです」

 1番の主将・吉田剛は三ゴロに倒れたが、ベンチに戻ると大声で言った。

 「いつもの桑田じゃねえ。きょうは打てるぞ」

 監督の木内幸男もナインを鼓舞した。

 「きょうはスピードも切れもない。おめえら、2年生に負けてたまっか」

 取手二のベンチ入り15人は全員3年生。2か月前の練習試合では1安打完封され、0―13で完敗。地元で生き恥をさらしたばかりだった。

 木内は負けん気に火をつけ、桑田攻略は可能だとナインを“洗脳”したのだ。

 桑田の中指からは出血し、白球が赤く染まった。初回2死二塁。桑原淳也の中前安打を鈴木英之が後逸してしまう。外野の芝生は水を含み、滑りやすくなっていた。桑原は激走し、一気に本塁へ生還。取手二が2点を先制した。

 桑田「練習試合の時とは別のチームだなあ、と。あの時は全然、打球が前に飛ばなかったですから。決勝ではセカンドゴロでも『前に飛ばせたぞ!』、外野フライなら『ヨシ!』って盛り上がっているんです。当時は失敗しても笑顔で野球をするなんて、考えられなかった。木内さんも『大丈夫、大丈夫』と笑っている。選手の力を最大限に発揮させてあげられるような監督さんに見えました。違う野球―のびのび野球を見たという感じでしたね」

 3回から次第に、青空が見え始めた。

 6回、失策絡みで1点を失った取手二だが、7回には吉田の左越え2ランで3点差に突き放した。

 しかし“逆転のPL”と呼ばれた王者はしたたかだった。8回には先頭・清原和博の左前安打を契機に、エラーにも乗じて2点を返す。取手二が1点リードのまま、9回に突入した。

 大優勝旗までアウト3つ―。

 エース・石田文樹に焦りが芽生えた。先頭の1番・清水哲への直球が甘く入った。打球は左翼席に着弾。同点だ。

 正捕手の中島彰一が振り返る。

 「早く終わらせたいという、高校生の若さが出ちゃいましたね」

 放心状態のまま、続く松本康宏には死球を与えた。

 顔面蒼白の背番号1。ここで木内が動く。石田を右翼に回し、サイド左腕の柏葉勝己をマウンドに送り込んだ。

 ワンポイントリリーフ―。

 木内の魔術に、聖地がどよめいた。(加藤弘士)=敬称略=

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