「来季につながるサッカー」…喜熨斗勝史氏コラム「Coach’s EYE」

 国内外のクラブでコーチとして、FW三浦知良のパーソナルコーチとしても経験豊富な喜熨斗(きのし)勝史氏のネット限定コラム「Coach’s EYE」。第7回のテーマは「来季につながるサッカー」。

 今年のJリーグは、コロナ禍の中、リーグ自体が成立しなのではないかという懸念もあったが、関係者の努力とサポーターの協力で、何とか順位を確定できそうだ。今日は大分に足元をすくわれたが、川崎の優勝は、ほぼ確実だろう。そんな中、降格の無い今年は、J1、J2共に下位のチームに対して比較的寛容な対応が目立った。「今年は育成する年」とか「来年につなげる年」などと言った言葉が多く聞かれ、通常なら大騒ぎになる選手や監督の移籍マーケットも、静かなまま時が流れた。

 昇格はあるので、来季はJ1、J2とも20チームで戦うことになるわけだが、当然試合数は増え、日程が過密になる。今年以上に、コンディションコントロールやディシプリンコントロール(カードによる出場停止)が重要になることは言うまでもない。しかし、ここで忘れてはならないのは、降格のレギュレーションだろう。

 Jリーグは先日、来季の降格チーム数をJ1、J2ともに4チームと発表した。予想はされていたが、いざ発表されると、その事の重大さに頭を抱える関係者は多いはずだ。昨年は、18チームの中で2チームの自動降格+1チームのプレーオフ(2・5チームの降格)だったが、来季は20チームの中で4チームの降格。すなわち5チームに1チームは降格する、という残留争いの修羅場だ。優勝争いは、勝ち点76―80になり、反対の降格争いは38―45くらいになると予想されるので、15勝分の勝ち点を取るまでは安心できない。今日の時点でのJ1の勝ち点をみると、サンフレッチェ広島(勝ち点46)以下の10チーム前後がいまだに残留争いに巻き込まれていることになる。当該チームのサポーターにとっては、リーグ終盤まで胃が痛むゲームが続くだろう。

 降格しそうなチームにとっては「育成」とか「つなげる」とか「チャンスは作った」などという言い訳は全く通用しない。残留のために、勝ち点3にこだわった戦いが要求されてくる。ここではオフサイド1つ、ハンド1つ、シュートミス1つが、チームや選手の未来を変える。プロとは本来、そういう大きなプレッシャーがかかる中で、やっていいミスと、いけないミスを選別しながらリスクコントロールしてプレーを選択するものだ。降格のない今年でも、常に自分に厳しく、そして自らにプレッシャーをかけ続けてプレーした選手でないと、来年は本当のプレッシャーに押しつぶされてしまうだろう。

 これは、コーチや監督も同じだ。メンバーの選考から交代のタイミングまで。よりシビアな判断が要求される。クラブの方針にもよるが、降格圏に沈んで、抜け出せないでいたら、非情にも、それなりの判断が下されるはずだ。日本ではあまり見かけないが、海外では契約書の中に「4試合連敗したり、6試合勝利がなかったりしたら、違約金なしで契約解除」などと言うものがあるくらいだ。私自信、中国での契約はこのようなものだった。3連敗後の試合にかかるプレッシャーがどれほどのものだったか? 是非、想像してもらいたい(笑)。1―0で勝っているときにさらに攻めるか、守りに入るのか。交代はいつ、誰にするのか。まさに生活をかけた判断が迫られたのを覚えている。

 さらに付け加えると、来季からVAR(ビデオ・アシスタント・レフリー)も導入される。私は中国スーパーリーグで、すでにVARを体験しているが、ここでは人間の目では到底判断することのできない、細かい基準でプレーが判断される。100%の精度を求めるのは難しいが、得点に絡む場面は、ほぼ完璧に判断される。オフサイドはオフサイドだし、ハンドはハンドだ。ペナルティーエリア内で、DFがシャツを引っ張ったり、スライディングした足が少しでも不当に触って相手FWを倒したりすれば、そのままプレーを続行したとしても、アウトプレーになったときに巻き戻してPKが与えられる。得点が取り消されることも日常茶飯事だ。つまり、監督、コーチは選手たちに「正しく守る」「正しく攻める」ことを徹底して指導しなければならない。守備のDFラインをどこまで上げるか、どの状況でラインを止めたり下げたりするのか、ペナルティーエリア内の対応はどうするのか、より一層の細かな指導とその徹底が求められる。「なんとなくここまで」とか「こんな感じで」などと言っていると「バッサリ」いかれてしまうのがVARだ。「ラッキー」とか「お互い様」で済まされていた時代ではなくなるわけだ。

 終盤が近づいてきたJリーグ。今年を「来季に向けた準備」と位置付けたチームや、あくまで「優勝を目指した」チームなど、ある意味楽しめたと思う。しかし、今年を前半、来年を後半と捉えれば、まだまだその是非を判断することはできない。ただ一つ言えることは、今年以上にシビアな戦いが待っている来季に向けて、様々な基準を「緩めた」チームは、かなり覚悟して引き締めていかないと、いきなり「バッサリ」ということになりかねない。もう一度言うが、来季は現時点でも10チーム前後が降格の可能性にさらされているのだ。コロナ禍においても、日本のサッカーをこれ以上停滞させないために、監督、選手、スタッフそしてサポーターが一丸となって、残った数試合を、もう少し厳しい目で見てみてはいかがだろうか。

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