2代目・山の神にも予想できない声援自粛の箱根駅伝…文化放送が挑むコロナ禍での実況中継

今年の箱根駅伝でスタートを切る1区の選手たち。来年はまったく新しい生活様式の元での開催となる
今年の箱根駅伝でスタートを切る1区の選手たち。来年はまったく新しい生活様式の元での開催となる
沿道での応援自粛という新しい形の箱根駅伝中継にナビゲーターとして参加する柏原竜二さん
沿道での応援自粛という新しい形の箱根駅伝中継にナビゲーターとして参加する柏原竜二さん

 来年の年明け早々、新型コロナとの闘いの中、まったく新しい箱根駅伝が行われる。今月5日、主催の関東学生陸上競技連盟は例年通り来年1月2、3日に第97回大会を開催することを発表。コロナウイルス感染拡大の影響を受け、慎重に協議を重ねた末の決定だった。

 ただし、今後の状況の変化などによっては中止の可能性があるとし、駅伝ファンに向けてはテレビなどを通しての応援を呼びかけた。歴史と伝統を誇る大会は史上初めて“無観客”での開催となる。

 例年、社を挙げて、この日本スポーツ界有数の大イベントを生中継してきたラジオ局は今、何を思っているのか―。そんな疑問とともに17日、東京・浜松町の文化放送で開かれた上口宏社長の定例会見に出席した。

 来年も「大学駅伝ラジオ独り占め」をキャッチフレーズに箱根駅伝の往路・復路を午前7時半から午後2時半まで、たっぷり実況中継する同局だが、沿道での声援自粛という“新様式”の中での駅伝中継への挑戦となる。

 上口社長は今回の中継について、まず「箱根駅伝が実際に実施できるかどうか正直、心配致しましたが、予定通りとなりました。ただ、観戦は…ということで、いろいろな取り組みが街道沿いであるかも知れませんが、それでも実施されるというのは、うれしいニュース」と率直に話した。

 その上で「選手たちがいかに個々の素晴らしい実力を大舞台で発揮できるか。そんな選手たちの姿、熱い思いこそが共感と感動を呼ぶということで、我々が、なぜ長く箱根駅伝を放送してきたかという意味が、そこにあると思います」と熱く語り「今回、街道を埋め尽くすのが難しい中、どんなドラマが生まれ、展開されるのか。ふだん見たり聞いたりできないことを各大学の事前の取材を広く進める形で、現場は伊勢駅伝の頃から動いている。ぜひ、お聞きいただきたいと思います」と続けた。

 次に「普段は街頭に出て応援している人も、ぜひ、ラジオで迫力ある実況をお楽しみいただきたいと思っています」と話した衣笠聖也編成部長に聞いてみた。

 「沿道での応援自粛の中での中継はまったく新しい挑戦となると思うが、どんな工夫を? デメリットを感じる点はあるか?」―。

 「スタッフの各大学への取材が、普段は練習をこの目で見て、その直後に相対してインタビューしたり、取材ができたんですが、今年はその辺がリモートになっていたり、中々難しいと聞いております」と衣笠氏。続けて「当日の中継自体にはそれほど大きな影響はないと思っております。(音声収録など含め)デメリットはないと考えています」と話した。

 駅伝中継の老舗としての自信をのぞかせた幹部の会見後、ゲストとして登場したのが、昨年から同局の「箱根駅伝への道」(火~金曜・後6時33分頃)でナビゲーターを務めている柏原竜二さん(31)=富士通=だった。

 東洋大在学時の2009年から12年まで箱根駅伝5区で4年連続区間賞を獲得し「2代目・山の神」と言われた。そんな箱根のレジェンドは、まず優勝予想について「今回は分からないです」と正直にポツリ。

 「例年以上にトラックレースもないし、ロードレース、ハーフマラソンも軒並み中止で情報が少ない。判断材料がない中、20キロの練習会などをやっている中で判断していくしかないので、より一層、選手たちの声っていうのが大事になってくるかなと。ほとんど対面で取材できず、電話取材で顔色をうかがえないので、声色の質とかだけで『調子いいんだろうな』とか『何か触れられたくないんだろうな』とかを察していかなければならない。例年以上に優勝予想が厳しいなと思っております」と明かした上で「ただ、監督さんたちの声を聞いていると、みんな楽しそうなんです。レースを迎えられる喜び、レースに向かっていく気持ちが現れていて、そんな声を聞くと、勝負の世界なんで絶対にあり得ないんですけど、みんなに優勝して欲しいなと思ったりもします」と笑顔で続けた。

 元スターランナーならではの中身のたっぷり詰まった言葉が聞けたのは、この後だった。沿道からの声援がない点について聞かれると、「少なからずテンションという部分には関わってくると思います。でも、今はいろいろな形で選手に声援を届けようという形がある。応援にいけない分、SNSなどで頑張って下さいという声は届いていくと思う。目では体感できないけれども、応援してくれる人が全国にいるんだよというのは、選手に伝わっていると思います。今まで感じ切れなかった応援の声もコロナ禍の影響で、より感じ取れているのではというのが、メリットとしてはあります」と独自の視点で答えた。

 「後は当日、スタートラインに立った選手が感じることだと思うので、後で選手に『どうだった?』と聞いてみたいと思います」とナビゲーターの立場に戻ると、「やはり、スポーツは現場だよねと思わせてくれるのか、現場でなくても伝わるものがあったよねと思うのかは分からないので、ある意味、楽しみでもあり、それこそ(観戦自粛で)真剣勝負を静かに見られるのは良さでもあるかと思います」と話した。

 さらに「沿道の声援っていうのは、実はほぼほぼ聞こえないんです。みんなが『頑張れー』と言ってくれる声は一つの音でしかないんですが…」と明かすと、「先頭とのタイム差を伝える選手もいたり、僕の時は寒い山の中に、走れなかった、メンバーになれなかった選手がポツンと待ってくれているんです、分かりやすいように。それが僕は力になっていたので、『あっ、こんな所にいてくれたんだ』というのと、いてくれたからこそ、キツくてももう少し(頑張ろう)という気持ちになっていたので、それが今回(自粛で)できないというのは、選手のモチベーションも違ってくるのかなと。キツい所に知った顔がいてくれると、めちゃくちゃ頑張ろうと思います。それができないのは、ちょっと、どうかな?と思いました」と熱く答えてくれた。

 記憶に新しい柏原さんの激走は、まだ8年前のこと。自身が現役だった時を振り返った箱根のスーパースターの言葉の数々が教えてくれたのは、新しい生活様式の中での駅伝中継はピンチではあるけれども、また大きなチャンスでもあるということだった。

 コロナなんて吹っ飛ばせ! あくまで前向きな柏原さんの言葉と、真剣そのものの姿勢でコロナ下の生中継に挑むスタッフたちの心意気。正月の風物詩・箱根駅伝の熱いドラマを生み出すのは、10区間217・1キロを走り抜く選手たちだけでは、決してない。(記者コラム・中村 健吾)

今年の箱根駅伝でスタートを切る1区の選手たち。来年はまったく新しい生活様式の元での開催となる
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