坂田藤十郎さんが7年前の巨人戦始球式後にこぼした一言

2013年3月29日、始球式に登板した坂田藤十郎
2013年3月29日、始球式に登板した坂田藤十郎

 人間国宝の歌舞伎俳優・坂田藤十郎さんが12日、亡くなった。藤十郎さんといえば、あまりにも有名なのが鴈治郎時代の2002年に報じられた50歳年下の舞妓とのホテル密会騒動、一部では「ガウン治郎事件」とも言われた出来事。その後の取材に「まだまだ元気だと証明されてうれしかった」と答え、男を上げた。

 ただ、残念ながら記者は当時、一連の取材に関わっておらず、「ナマの記憶」が無い。直接話を聞き、印象に残っているのが13年3月、東京ドームで行われた巨人の開幕戦で始球式を務めた時のことだ。

 紋付き姿で登場した藤十郎さんは、おもむろにボールを握るとホームベースに向かって投球…したはずだったが、ボールはバッターのはるか手前の地面でバウンド。あとはコロコロと転がってホームベースからずいぶん離れたところで、阿部がキャッチした。歌舞伎界の至宝であり、人間国宝の藤十郎さんに対して言うのは甚だ失礼なのだが、かなり「残念」な失敗投球だった。

 ただ、そこからの態度が藤十郎さん”らしさ”にあふれていた。約4万5000人の観衆を前に堂々とした態度。右手を挙げたり両手を広げて歓声に応えると、ゆっくりとベンチの前に向かい、原監督と固い握手を交わした。感想を聞くと「両手を広げたのは、自然に出ちゃった感じ。お客様に喜んでもらえたのは良かったですね」と満足そうな笑みを浮かべていた。

 「ガウン治郎事件」のことを思い出し、「泰然自若というのは、やっぱり変わっていないんだな」と感心していたのだが、ベンチ裏でつぶやいた一言が「おかしいなあ。練習の時にはちゃんとまっすぐ届いていたのに。何ででしょうねえ…」。実は、藤十郎さんは試合開始前、長男の中村鴈治郎(当時は翫雀)とキャッチボールを繰り返し、念入りに準備をしていたのだ。

 観客の前ではおくびにも出さなかったが、やはり失敗した悔しさがあったのだ。それをポロッと口に出してしまった藤十郎さんに人間味を感じ、私の中で俳優としての魅力がより増したことを、訃報を聞いて思い出した。(高柳 哲人)

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