恋心と熱意 巨人と坂本勇人を結んだ“赤い糸” 06年高校生ドラフト秘話…祝2000安打

巨人から高校生ドラフトで1巡目指名を受けた光星学院・坂本(左から2人目)が、(右から)山下スカウト部長、大森スカウトから指名あいさつを受け笑顔で握手。左端は山西校長。左から3人目は金沢監督(肩書は当時)
巨人から高校生ドラフトで1巡目指名を受けた光星学院・坂本(左から2人目)が、(右から)山下スカウト部長、大森スカウトから指名あいさつを受け笑顔で握手。左端は山西校長。左から3人目は金沢監督(肩書は当時)

 高校生ドラフト会議の開始まで、時計の針は残り30分に迫っていた。

 2006年9月25日、新高輪プリンスホテルの会議室。

 原監督以下、集まった巨人のスカウト陣は、指名候補の最終確認作業に臨んでいた。

 1巡目は愛工大名電の堂上直倫で決まり。しかし競合は避けられない。外れた場合は誰で行くのか。

 最有力候補は光星学院の坂本勇人。だが、もう一人の候補を推す声もあった。身体能力に優れたアスリートタイプの投手。打者としても有望で、ショートとして育ててみれば面白い。大化けする可能性は十分にある-。

 東北担当スカウトの大森剛さんはその時、39歳。経験がモノを言うスカウトの世界では若手である。だが、引くわけにはいかなかった。語気を強めて訴えた。

 「外れ1位は絶対に坂本を獲って下さい!」

 チームは二岡に替わる新時代のショートストップを欲していた。確実性が重要視され、大森さんの熱意あふれるプレゼンも実り、外れ1巡目は予定通り坂本に決まった。

 ちなみに「もう一人」は今でも、プロ野球界の第一線で活躍している。

 * * *

 それは“恋心”としか言いようがないものだった。

 「初めて見たのは高校1年の秋。それからずっと気になっていました。躍動感があって、魅せるものがある。特に目に留まったのは、あの独特の打席でのタイミングの取り方でした。2年秋の東北大会は初戦から決勝まで、坂本目当てで全試合を見に行ったぐらいです」

 05年秋の東北大会、光星学院は準優勝でセンバツ切符をつかんだ。春の甲子園での1回戦は好投手・ダースを擁する関西(岡山)。大森さんはもちろん聖地のネット裏から熱視線を送っていた。

 「片思いの彼女に久々に会いに行くような感覚でした。坂本はそこでまた、胸をときめかせてくれるんです」

 第1打席は初回2死二塁のチャンス。初球はカーブだ。三遊間を破り、タイムリーになった。

 「直球を打つタイミングで、左足をためて打った。初めて出た甲子園で、初球のカーブをためて打てる。目の覚めるような当たりじゃなかったけど、きっちり打つところがすごいと思いました」

 打つだけじゃない。この日の坂本は2盗塁を決めた。

 「1つはディレードスチールだったんです。センスを感じました。守備でも強い当たりを体で止めた。4-6で敗れ、報道では坂本はあまり取り上げられていなかったけど、僕にとっては見所満載の試合でした。顔も良く、スタイルもいい“恋人”のことをもっと知りたいと思いましたね」

 “普段着”の坂本勇人を見たい。センバツ後、大森さんはすぐに光星学院のグラウンドを訪ねた。授業が終わる時間が分からず、2時間も早く着いてしまった。しばらく待つと、校舎から選手たちを乗せたバスが到着した。

 大森さんは目を見張った。

 「最初に降りてきたのが坂本だったんです。率先してベンチに走る姿に感心しました。普通、上級生は最後の方で、面倒くさそうに降りるでしょう。人間性や野球への取り組みが確認できたんです」

 * * *

 14年前の秋、「坂本勇人獲り」を熱っぽく主張した大森さんは今、アマチュア選手だけでなく外国人選手、トレードなどを統括するポストに就いている。

 今年のドラフト会議。巨人は育成6位で唐津商の坂本勇人捕手を指名した。

 大森さんは笑う。

 「まさか自分の人生で、2度も坂本勇人を指名することになるとは、思わなかったですよ」

 坂本勇人、2000安打。

 あの時、体を張って主張しなければ…。

 「巨人・坂本勇人」は誕生していなかったかもしれない。

 偉業達成の午後。巨人と坂本を結んだ“赤い糸”にも思いを致し、運命に感謝したい。(デジタル編集デスク・加藤弘士)

コラムでHo!とは?
 スポーツ報知のwebサイト限定コラムです。最前線で取材する記者が、紙面では書き切れなかった裏話や、今話題となっている旬な出来事を深く掘り下げてお届けします。皆さんを「ほーっ!」とうならせるようなコラムを目指して日々配信しますので、どうぞお楽しみください。

巨人

NEWS読売・報知 モバイルGIANTS 個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真 法人向け紙面・写真使用申請