体操・内村航平、今も昔も共通するのは理想と向き合う力…カメラマンがファインダー越しに見た2012年ロンドン五輪

平行棒を演技する内村(カメラ・矢口 亨)
平行棒を演技する内村(カメラ・矢口 亨)

 スポーツ報知のカメラマンが、五輪の名場面を振り返る企画の第6回は2012年ロンドン大会。体操男子個人総合で内村航平は金メダルを獲得したが、満足できない内容に観客に謝った。その姿を撮影したカメラマンは8年後、けがと闘いながら挑戦し続ける姿も見ていた。

  • 体操男子個人総合決勝、最終演技の床運動の演技を終えてスタンドに向かって頭を下げる内村航平(カメラ・矢口 亨)
  • 体操男子個人総合決勝、最終演技の床運動の演技を終えてスタンドに向かって頭を下げる内村航平(カメラ・矢口 亨)

 想定していた渾身(こんしん)のガッツポーズではなかった。体操男子個人総合で、日本人として28年ぶりに金メダルを獲得した内村航平だ。最終種目・床運動の演技を終えると、胸の前で両手を合わせ「申し訳ない」とスタンドに頭を下げた。カメラマンとしては肩透かしを食らった気分だったが、今になって思えば、彼らしいと感じる。

 「回転している間でも会場にいる顔は全部、見えています」。大会直前、内村は自信に満ちた表情でこう話していた。驚異の動体視力が支える空中での平衡感覚と、完璧な着地で無敵の強さを誇った。

 だが、五輪特有の重圧から、予選の鉄棒とあん馬で大きなミスがあり、9位だった。なりふり構わず勝ちにいった決勝は、鉄棒と平行棒の難度を落とした。床運動では回転技の最後に手をつくミスなどがあった。地力の違いで2位に大差をつけて待望のタイトルを手にしたものの、「一番大きな大会で一番いい色のメダルを取っても、満足した感覚がない」と表彰式後は悔しさをにじませた。

 あれから8年。今年9月、全日本シニア選手権(高崎)に出場した内村を撮影した。31歳になった王者。両肩のけがの影響から五輪へは種目別の鉄棒に専念することを決断し、この日も1種目のみの出場だったが、挑戦をやめることはなかった。公式戦で初めてH難度の大技「ブレトシュナイダー(コバチ2回ひねり)」を披露。一度手を離したバーを体の近くで握ったため、滑らかに次の車輪につなげられず、大きく減点されて結果は6位。それでも、競技後の会見では「落ちなかったことが収穫」と笑顔だった。

 五輪で優勝して悔しがり、敗北した国内大会で笑顔を見せる。それは、内村が結果だけではなく、理想の自分と向き合いながら前に進んできた証し。気が付けば、ファインダー越しの私の「頑張れ」は、8年前よりもずっと大きくなっていた。

 ◆Qちゃん認定!? “ベスト”カメラマン 五輪では、過去のメダリストと遭遇する機会も多い。その中でも現地リポーターとしてロンドン入りしていた00年シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんとのやり取りは楽しい思い出だ。

 「おはようございます。そのベスト、すごく似合っていますね」。取材に向かう途中、笑顔であいさつしてくれた。ベストというのは当時の私が着用していた、会場での撮影許可証を兼ねて配られていたもの。機能性を重視した昔ながらのベージュのカメラマンベストで、決して格好よくはなかった。

 うれしくないと微妙な心境を正直に打ち明けると、高橋さんはいたずらっ子のような表情で「私服みたいですよ」と、ちゃめっ気たっぷりに立ち去っていった。次の日、ロンドンの原宿と呼ばれるカムデンタウンの美容室を訪れ、こうオーダーした。「このベストが似合わない、おしゃれな髪形にしてください」―。(矢口 亨)

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