「クラシコの変化」…喜熨斗勝史氏コラム「Coach’s EYE」

試合後のメッシ(右)とモドリッチ(ロイター)
試合後のメッシ(右)とモドリッチ(ロイター)
2点目を決めて喜ぶRマドリードのセルヒオ・ラモス(ロイター)
2点目を決めて喜ぶRマドリードのセルヒオ・ラモス(ロイター)

 国内外のクラブでコーチとして、FW三浦知良のパーソナルコーチとしても経験豊富な喜熨斗(きのし)勝史氏のネット限定コラム「Coach’s EYE」。第6回のテーマは「クラシコの変化」。

 2019年12月21日、私はバルセロナのカンプノウにいた。年末にかけてのバルセロナ、ロンドンそしてウルバーハンプトン視察の初日だった。満員のスタジアムはクリスマス前のバルセロナを飾り、青と赤の鮮やかなバルセロナカラーが青空に映えた。ここでは人々のサッカーにかける情熱を全身で感じられる。試合はグリーズマン、ビダル、メッシそしてスアレスのゴールでバルセロナ4―1の快勝。試合中には、メッシを崇める「メッシー、メッシー」という、祈るようなポーズの掛け声がスタジアムに響き、日本からはカズ(三浦知良)が電話をかけてくるほど、バルサ独壇場の好ゲームだった。そんなサッカー人にとって至福のひと時を過ごしてから、時は流れて20年10月24日。無人の観客席に囲まれて行われたクラシコことバルセロナ(以下、バルサ)対Rマドリード(以下、レアル)の一戦は、1年前からは予想も出来なかった変化が盛沢山だった。しかし、クラシコはクラシコ。世界トップクラスの試合が行われたことに変わりはない。そんな、新しい生活様式使用のクラシコを少し振り返ってみたい。

変化1 スタジアム

 10万人近くを収容可能なカンプノウスタジアム。試合前から、バルサを後押しするサポーターの存在は大きい。バルサカラーに身を包んだサポーターの応援は、ホームチームを後押しし、アウェーチームにプレッシャーをかけることができる。10万人がブーイングをすれば、一流の審判でさえ気分は良くないだろう。しかし、世界中で6億人を超える視聴者がいるといわれるクラシコでも、この日は無観客。試合の入りは、どちらのチームもいつもとは違う雰囲気だったに違いはない。それを象徴するかのように、前半5分には軽快にパスを回していたバルサのDF陣がミスを犯す。ドリブルで抜けてくるベンゼマにピケが食いついてしまい、空いたスペースに走り込まれたヴァルベルデにゴールを許してしまう。サイドバックのセルジーニョ・デストの絞りも甘かったが、4バックが完全に連携を失ってしまった。しかし、その3分後、今度はレアルが同じようにミスを犯す。ロングボールから簡単にジョルジ・アルバの突破を許し、アンス・ファティに同点弾を許してしまった。この2点をスタジアムの雰囲気のせいにはできないが、世界トップの2チームからすると、序盤の簡単すぎるやられ方に、今までとは違う「緩さ」を感じたことは否めない。

変化2 若手選手

 バルサのフォーメーションはメッシ1トップの4―2―3―1が予想されたが、実際はベーシックな4―4―2で戦った。昨年、メッシ、スアレス、グリーズマンを前線に擁した4―3―3からすると、ややディフェンシブになった感じを受ける。しかし、注目すべきはメンバー構成だ。バルサでメッシとコンビを組むアンス・ファティは17歳、さらに右サイドで上がり目のポジションを取るペドリも17歳、そして、その右サイドでペドリと前後のコンビを組む右SBのセルジーニョ・デストも19歳。レアルのヴィニシウス・ジュニオールも20歳なので、なんと、あのクラシコにU―20の選手が先発で4人も出場している。先制点を取ったヴァルベルデも22歳なのでU―23としたら5人である。スペインいや欧州でプレーする選手たちの目標であり憧れでもある、あのクラシコだが、もはやスタメンの25%はU―23の選手たちなのである。この試合でも、レアルの先制ゴールはヴァルベルデ、そしてバルサが同点に追いついた、記念すべき「クラシコ史上400ゴール目」を決めたのは17歳のアンス・ファティだったことに彼らの実力が表れている。育成大国「日本」などと言われているが、このレベルの選手をどれだけ、このような大舞台に送り出せているか?という点では大きな疑問符が付く。今年のクラシコは、コロナ禍が過ぎた後、しっかりと世代交代ができるように、世界中のサッカー関係者にメッセージを送った形になった。今年は降格の無いJリーグ、マネージメントの真価が問われる数年後を楽しみにしたい。

変化3 変わらないクオリティー

 1年たっても変わらないのは、やはり超一流選手のテクニック、つまり選手としてのクオリティーだ。しかし、変わらないと言っても、本当に「去年のまま」ということではない。しっかりとクオリティーを維持し、昨年の弱点を補強し、さらに進化していくのがプロフェッショナル。時間とともに、進化し変化していくことが出来なければ、トップトップのピッチに立ち続けることはできない。レアルのセルヒオ・ラモスは、まさにそんな選手。バルサが1点にとどまったのには、メッシやコウチーニョの前に立ちはだかった、彼の存在が大きく影響しているはずだ。ことごとくピンチの芽を摘んでいく、世界屈指のCBのプレーは「美しい」と表現するにふさわしいものだった。今年はコロナの影響でチーム全体のトレーニングや個人のコンディショニングまで、かなりの困難を伴ったシーズン。プレーは一瞬だが、34歳のセルヒオ・ラモスがプロフェッショナルとして、その一瞬のために準備をしてきたことには「尊敬」という言葉がぴったり合うのではなかろうか。

 試合の結果は3―1でレアルの勝利。バルサはリードされた後半、立て続けにFWの選手を投入。ギャンブル的に巻き返しを図ったが、バランスを失った後ろのスペースをベテラン、モドリッチにつかれて万事休した。VARの是非やクーマン監督の采配など、話題は尽くことのない、今回のクラシコだが、コロナ禍においても、賢く、大胆に、そして確実に前に進んでいかなければいけないことを教えてくれた一戦になった。次のクラシコ(21年4月12日)には、両チームとも、次なる進化と変化を見せてくれるだろう。その時に、見る側の我々も、負けないくらいの進化をしていたいものだ。

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