ドラフト指名を待つ独協大・並木秀尊は“サニブラウンに勝った男に勝った男”…プロ注目に躍り出たのは数分の動画がきっかけだった

独協大・並木
独協大・並木

 ドラフト会議というものは、指名されるかもしれない当人よりも周りの方がそわそわするものだ。

 1982年11月25日。市立川口(現川口市立)の斎藤雅樹が巨人の1位指名を受けた時、野球部で同級生だった僕は同じ教室で4時間目の電子計算機の授業を受けていた。

 指名を確実視されていた斎藤はさほど順位を気にしていなかったが、周囲の方が「何位指名か?」と、どきどき、そわそわしていた。

 当時のドラフト会議は午前11時開始で、生中継したのはラジオ関東(現ラジオ日本)だけ。今のようにショーアップされていなければ、テレビの生中継もなし。それに続くお涙ちょうだいの特番なんてもちろんなかった。

 授業中、斎藤はクラスメートから携帯ラジオを借りてこっそりとイヤホンで聞いていた(先生はお見通しだったが)が、1位指名が判明しないうちに中継は終了。授業終了のチャイムが鳴った瞬間、野球部長の望月正先生が「斎藤、巨人1位だぞ」と吉報を持ってきた。

 学校は記者会見をセッティングしていなかったために教室には望月先生に続いてカメラマンと記者がなだれ込み、なし崩し的に取材が始まった。斎藤は中庭でカメラマンのリクエストに応じて何十回と胴上げされ、繰り返される同じような質問に答えているうちに昼食を食べそびれた。

 あの時から38年。息子のような後輩が同校史上5人目のプロ野球選手になる可能性が出てきた。〝サニブラウンに勝った男に勝った男〟として注目されている独協大の俊足外野手・並木秀尊外野手(4年)だ。「指名されるのか?」と高校のOBはそわそわしている。

 僕が並木を初めて見たのは、彼が高校生の時。1年春から捕手でベンチ入りしていたとはいえ、さほど目立つ選手ではなかった。ある日、練習を見にいくと、やたら守備範囲の広い中堅手がいた。それが並木だった。「体にバネがあるし、足が速いからセンターにした」とOBでNTT東日本を率いた当時の長井秀夫監督が教えてくれた。

 ところが、高校の体育祭でアップシューズながら100メートルを11秒4で走った俊足を試合で見たことはなかった。1番打者でありながら、当時は打撃が今ひとつで最高成績は3年夏の3回戦。両親が教員だった影響を受けて某体育系大学のセレクションを受けることも視野に入れていたが、学校の成績もよかったことから指定校推薦で独協大へ進み野球を続けることに。草加市内の自宅から学校にもグラウンドにも通えて、教員免許を取得できることが理由だった。

 高校在学中、大学進学が決まってから始めた週何度かのラーメン店、その後に始めた居酒屋でのアルバイトも続けながら野球部の練習にも出て、授業にもしっかり出席。卒業に必要な単位は4年までにほぼ取得。残すは卒論と教育実習(高校社会公民)くらいだ。

 そんなごく普通の大学生が、わずか数分の動画で突如として注目されることになった。3年の昨年春、秋とベストナインを獲得しながら、首都大学2部とあってスカウトの情報網にはかかっていなかった。その存在を世に知らしめたのは、上田樹マネジャー(4年=学法石川)だった。

 昨秋の大学日本代表候補合宿の選考に際し、各地区大学連盟から加盟校に推薦選手を募る旨のメールが届いた。これに同校の亀田晃広監督(46)と上田マネジャーが反応した。

 「並木の足はずば抜けている。いけるんじゃないか」と話し合い、参考資料となる動画の作成に着手。二塁手正面のゴロを内野安打にしたものや盗塁などスピードをアピールした動画を編集して送付したたところ、選考委員の目に止まって候補選手入り。合宿の50メートル走計測では、中学の全国大会で100メートルの現日本記録保持者のサニブラウンに100メートル、200メートルで勝ったドラフト上位候補の中大・五十幡亮汰の5秒42を上回る5秒32を記録。〝サニブラウンに勝った男〟に勝ったのだ。

 紅白戦でも早大・早川隆久、慶大・木沢尚文といったドラフト1位候補から6打数3安打と打でもアピールした。大学進学後の筋力トレーニングの成果でバットを振り切る力がついて打力もアップ。コロナ禍で中止になったが、今年3月の2次合宿候補にも名を連ねてスカウトの目に止まるようになった。

 「実は並木に知らせず、動画を送ったんです」と舌を出した上田マネジャー。もし動画を作成しなかったら、並木が注目されることはなかったはずだ。

 独協大の初代学長は、野球殿堂入りしている天野貞祐氏。第2代学生野球協会の会長として戦後の学生野球復興と秩序の確立に尽力し、学生野球憲章の制定、学生野球会館の創設など多くの業績を残した。埼玉・越谷市にある中堅・122メートル、両翼100メートルで外野天然芝の専用球場には初代学長の名が冠されているが、これまで独協大からプロ(NPB)入りした選手はいない。

 26日のドラフト会議当日は埼玉・草加市の同校で記者会見が開かれることになったが、初めての経験とあって学校にも部にもノウハウがない。まして、コロナ禍で感染防止にも細心の注意を払わなくてはならない。

 そんな状況下で大学、マスコミとの調整に動き回るのが上田マネジャー。加えて連盟でも2部チーフとして試合運営の重責を担うとあって各所からの問い合わせでスマホは鳴りっぱなしだが、これもうれしい忙しさだ。

 「ぜひ、指名されてほしいですね。学校最初のプロ野球選手が並木だったらうれしいです」と上田マネジャー。ちなみに、スポーツ報知大相撲担当キャップの小沼春彦記者も独協大OB。「ドラフト、どうなりますかね」と当日の11月場所(8日初日・両国国技館)番付発表よりもドラフト会議の行方を注視している。

 並木は指名されるのか。高校、大学のOB、関係者はドキドキ、そわそわしながらその瞬間を待っている。(記者コラム・秋本 正己)

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