【王手報知】好きな言葉は「孤高」 藤井聡太2冠と同学年の現役最年少棋士・伊藤匠四段が語る足跡と素顔

スポーツ報知
現役最年少棋士・伊藤匠四段。約3か月先に誕生した同学年・藤井聡太2冠の背中を追う

 将棋の棋士養成機関「奨励会」三段リーグで優勝した伊藤匠三段(18)は10月1日付で正式に新四段となり、同学年の藤井聡太2冠(18)=王位、棋聖=に代わる現役最年少棋士になった。小学生時代に藤井から勝利を挙げた過去を持つ若者の足跡と素顔に迫った。(北野 新太)

 長い旅を始める18歳の顔に、無邪気な高揚はない。伊藤はデビューを待つ思いをささやくように語った。「普段とそんなに変わらないですよ。もう三段リーグを戦わなくていい、とホッとする思いはありますけど」

 四段(棋士)への最終関門である三段リーグは、昇段できるかどうかが全ての戦場。ところが、5期を戦った2年半の月日を「早く上がらなくてはならないと常に思っていましたけど、上がれないかもしれないと思ったことはないです」と振り返る。「年齢を重ねれば重ねるほど棋士になってからの期待値が落ちていくので」。厳然たる事実を語っている。

 保育園年中の冬、両親にもらったクリスマスプレゼントが「匠の道」を歩む運命を決めた。廉価版の盤駒に夢中になった。「正確な記憶はないんですけど、のめり込んでいった感覚は残っているんです」。上達の支えになったのは驚異的な記憶力。全世界の国旗から何から何まで丸暗記した。「恐竜図鑑は何ページに何が載っているかとかまで覚えてたみたいです」。普通の子が平仮名を1つずつ覚える時期に漢字検定の難題を片っ端から書けるようになった。「今でもリーグ表で次に誰が誰と対戦するかを覚えてて驚かれたりします」

 棋士になると小学校低学年で決めていた。「将棋指し以外の道に進むイメージを持ったことがないんです。昔も今も他にやりたいことは何もないです」。小3の時、藤井と子供大会の準決勝で激突して勝利を飾り、後の2冠が大泣きして悔しがったことは広く知られている。「横歩取りの将棋をうまく指せて…私のアマチュア棋歴のピークです(笑)。でも勝てたことより覚えているのは、3位決定戦を泣きながら指して完勝した藤井さんの姿なんです」

 藤井の四段昇段から1年半後の三段リーグ参戦は、高校入学と重なった。入学間もない日曜日のこと。VS(練習対局)の途中に学校のことが浮かんでしまい「辞めよう」と決めた。自宅に戻って両親に思いを伝え、月曜日には退学の手続きをした。「高い入学金を払ってもらったので申し訳ないと思いましたけど…」。挑むべき世界は別にある。未練はなかった。

 戦い始める舞台には藤井がいる。同時代を生きることからは逃れられない。「正直、器が違い過ぎますが、私も3年くらいでタイトル戦に出られるようになりたいと思っています」。AIとの共存期を生きることを藤井は「盤上の物語は不変であるという価値を伝えたい」と語ったが、伊藤の誓いは少しだけ趣が異なる。「人がどれだけ正確に指していけるかを表現することが理想です」

 十代らしい横顔を見せるのは、中日ドラゴンズについて語る時くらいかもしれない。「DAZN(動画配信サービス)で毎試合見ています…。2011年のリーグ優勝試合もハマスタで見たんですよ。今シーズンは大野雄大投手が頼もしいなあ…と思いますけど、好きな選手は特にいなくて、それぞれが最善の仕事をしてほしいと思って見ています」

 好きな言葉は「孤高」。穏やかな人柄だが、きっと伊藤は緩やかに群れたりはしない。棋士らしい魂を持った18歳は静かに戦いの時を待っている。

 ◆伊藤 匠(いとう・たくみ)2002年10月10日、東京都世田谷区生まれ。18歳。5歳の時、父に教わり将棋を始める。後の師匠・宮田利男八段が席主を務める「三軒茶屋将棋倶楽部」で腕を磨き、2013年に奨励会入会。居飛車党で得意戦法は相掛かり。目標とする棋士は藤井聡太2冠。両親が名古屋市出身で、好物はみそカツ。

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