クラスターにめげず!セントルイスの奇跡にも注目

喜ぶカージナルス・ナイン(AP)
喜ぶカージナルス・ナイン(AP)

 「この困難を乗り越えたことだけでも十分なのに、みんなが解決策を見い出しポストシーズン進出を果たしてくれた」と、カージナルスのマイク・シルト監督は選手たちをねぎらった。60試合に短縮されたレギュラーシーズン最終日、ブルワーズを破ったあとに行われた会見。通常のシーズンであれば、本拠地セントルイスのブッシュ・スタジアムはチームカラーである真っ赤に染まり、選手たちはグラウンドに出てファンと喜びを分かち合っていたはずだ。しかし、現実はスタンドに観客の姿はなく、選手たちにも恒例のシャンパンファイトがなく「クラブハウスでソーシャルディスタンスを保ちながら喜びを共有していた」(ジョン・モゼリアック編成総責任者)という。

 開催さえ危ぶまれたコロナ禍の異例ずくめのシーズン。進出10チームを16に拡大して現地9月29日から開幕したポストシーズンがどんな展開になろうとも、カージナルスが2020シーズンの象徴として、あるいは奇跡として記憶されるに違いない。

 クラスター(集団感染)は開幕5試合を消化した時点で起こった。瞬く間に名捕手ヤディア・モリーナら10選手、球団スタッフ8人が感染。試合は7月31日から8月14日まで延期が繰り返された。その再開に際しても、感染予防のために移動手段を飛行機から車に代え、41台のレンタカーに分乗してシカゴに向かった。所要時間、約5時間。それでも翌日のダブルヘッダーに連勝するのである。

 「試合が2週間もできない間、一体いつ、どんな形でプレーできるようになるのか。そんなことばかり考えていた」と、主砲ポール・ゴールドシュミットはいう。

 タフなスケジュールが待っていた。再開から最終日まで44日間で53試合。7イニング制の特別ルールが採用されているとはいえ、ダブルヘッダーが11回も組まれていた。打線の不調がチームを苦しめた。実際、チーム打率・234はリーグ11位、ホームラン51本はリーグ最少だ。それでも投手陣の頑張りで粘り強く戦った。

 39歳の大ベテラン、アダム・ウエインライトは再開初戦、今季最長となる4連敗後のマウンドに立ち、いずれも勝利投手になり、依然としてチームの大黒柱であることを証明した。

 そして、閉幕日を迎える。この試合に勝てば無条件で進出。負けた場合には競り合うジャイアンツなどの勝敗次第で、消化しきれなかった2試合を翌日デトロイトに移動してタイガースとダブルヘッダーを戦わなければならない。

 大一番で大活躍したのは、先制点に絡む三塁打、ダメ押しとなるホームランを打った26歳のハリソン・ベイダー。チームのムードメーカーであり、そのファイト溢れるプレーで地元の人気者だ。「ここまでやってこられたことを考えたら、オレたちに失うものなんて何もない」という。

 第5シードのカージナルスは、サンディエゴで第4シードのパドレスと戦う。売り出し中のフェルナンド・タティス・ジュニアを始め能力の高い選手が揃う好チームだ。しかも、勢いがある。これに対して、カージナルスは経験豊富な選手を揃えた試合巧者。面白い対決になるが、戦前の予想はパドレス有利。ワイルドカードシリーズ突破も厳しいとみられているチームが頂点に立つことは考えづらいけれど、もちろん可能性がゼロではない。状況は全く違うが、2011年のワールドシリーズでは第6戦にレンジャーズにリードされ、あとストライクひとつで万事休すという場面に2度も追い詰められながらも逆転サヨナラ勝ち。そして、第7戦に勝利をつかんで通算11回目の頂点に立ったという奇跡の歴史を持つチームだ。

 初の2戦先勝シリーズから始まるポストシーズン。今まで見ることのなかった戦術、戦略が展開されるかもしれない。スリルに満ちた10月に新たな奇跡は起こるだろうか。出村義和(スポーツ・ジャーナリスト)

出村 義和
 (でむら・よしかず)1971年、ドジャースタジアムでMLB初観戦。ベースボールマガジン社でアメリカ総局勤務、週刊ベースボール編集長などを務める。独立後、ニューヨークをフランチャイズに19年間MLBを中心に多岐にわたるジャンルで取材、執筆を行う。帰国後、JスポーツでMLB中継の解説者も務める。

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