池井戸潤氏、半沢直樹の魅力は「ちょっと悪いところ」…6年ぶり新作「半沢直樹 アルルカンと道化師」

小説は集中もできて散漫にもなれる仕事場で書いているという池井戸潤さん
小説は集中もできて散漫にもなれる仕事場で書いているという池井戸潤さん

 作家・池井戸潤さん(57)による「半沢直樹」シリーズの第5作「半沢直樹 アルルカンと道化師」(講談社、1760円)が17日に発売された。同シリーズ6年ぶりとなる待望の新作は、第1作「半沢直樹1 オレたちバブル入行組」の前日譚(たん)が描かれている。新作に込めた思いや、原作者からみた現在放送中のTBS系ドラマ「半沢直樹」の魅力、イチ押しのキャラクターを聞いた。(奥津 友希乃)

 「アルルカン―」は、意外にも最初は半沢が主人公の物語ではなかった。

 「(シリーズ)第3作以降、戦う相手が大物政治家や銀行本体など大きくなりすぎて、銀行員目線からちょっと離れてしまった。色々設定を考え、半沢の同期の渡真利を主人公にして書いてみたのですが、結局ボツにして、半沢を主人公に書き直したのが本作です」

 舞台は半沢の原点、東京中央銀行大阪西支店。一枚の絵に秘められた謎と、人間模様が描かれている。

 「今回は原点に立ち戻り、中小企業を取引先とする銀行員の卑近な戦いを描きました。融資絡みから、登場人物の人生を探っていくことができたのは、身近な物語にした成果の一つです」

 平成ドラマ最高視聴率をたたき出した「半沢直樹」の7年ぶりの新作が現在放送中。今作も、第8話で令和のドラマ最高視聴率25・6%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録するなど話題作だ。

 「(ドラマの)続編はないと思っていました。今回も高視聴率ですが、ドラマは原作者のものじゃない。制作サイドの手柄、彼らの功績です。一視聴者として日曜夜9時を楽しみにしています」

 ドラマ続編の原作では登場しない、香川照之演じる大和田が前作に引き続き出演している。

 「ドラマの続編をやるなら、香川さんが出てこないと皆さん納得しないですよね(笑)。『おしまいです(Death)』などのアドリブは、香川さんがいたから生まれた名言。結果的に成功だったと思います」

 イチ押しの登場人物を問うと、片岡愛之助が演じるオネエ言葉の金融庁検査官・黒崎を挙げた。

 「本当に当たり役だと思います。以前、ご招待を受けて愛之助さんの歌舞伎を観に行ったんです。そうしたら後ろに座っていたご婦人方が、『あ!黒崎だわ』って。かなり浸透していると思いますが、いいか悪いか分かりませんね(笑)」

 出演陣の熱演ゆえに、「ドラマの世界=銀行業界の現実」と捉えられることに、はがゆい思いもある。

 「リアルだと思って見ている人がいっぱいいるようで。黒崎というキャラは、フィクションの象徴として書いたんですよ。あんな検査官いるわけないですよね」

 「でも、ドラマで黒崎が出た時に『こんな検査官はけしからん!』と金融庁にクレームの電話が来たという噂を聞いて。ちょっと困りました(苦笑い)」

 生みの親として、半沢直樹の魅力を「ちょっと悪いところ」と分析する。

 「あんまり正義の味方にしないのが重要です。半沢は、目的のためなら色々な手段を使い、徹底的に相手を追い詰めるあくどさを持っている。そこがいいところじゃないかな」

 数々のベストセラーを輩出する人気作家ゆえの悩みを、冗談交じりに明かす。

 「最近は、気を遣ってか、大して面白くないだろうに『とても面白い』って答える編集者もいますからね(笑)。でも、小説については僕の方が遙かに厳しいので」

 一冊にかける情熱とぬかりのなさは半沢顔負けだ。

 「例えば『ノーサイド・ゲーム』では、600枚をボツにして書き直しました。やっぱり本は出したら言い訳できないですから。『読者がついてるから、なにを書いても売れる』と思って本を出したら、あっという間に読者はいなくなる。だから絶対に最後の最後まで、もうこれ以上直せないってところまで直しますね」

 新長編は、会社舞台から離れたものを構想する。

 「半沢シリーズは続けますが、銀行ものは他はやらないかもしれないですね。田舎小説とかもいいかな(笑)。エンタメですから、僕自身が『これ面白いな』と思える世界観をテーマにすべきだと思っています」

 ◆池井戸 潤(いけいど・じゅん)1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。98年『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、11年『下町ロケット』で直木賞を受賞。主な著書に「半沢直樹」シリーズ、「下町ロケット」シリーズ、「花咲舞」シリーズ、『空飛ぶタイヤ』『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『陸王』『民王』『アキラとあきら』『ノーサイド・ゲーム』などがある。最新刊は『半沢直樹 アルルカンと道化師』。

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