フェンシング全日本選手権が開幕…対人の五輪競技で初の主要大会…若きエース上野優佳の活躍に期待

上野優佳
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強化合宿で練習する女子フルーレの上野
強化合宿で練習する女子フルーレの上野
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 フェンシングの全日本選手権が、17日から東京・駒沢体育館などで無観客で開催される。新型コロナウイルスが感染拡大して以降、五輪実施の対人競技で国内主要大会が実施されるのは初となる。日本フェンシング協会の宮脇信介専務理事がスポーツ報知の取材に応じ、大会へのコロナ対策として、検証実験まで行った取り組みについて説明した。(取材・構成=宮下 京香)

 6月に全日本選手権の開催を発表した際、日本協会・太田雄貴会長は「コロナ禍における新しい大会を創造する」と言い切った。フェンシングも他競技と同様、3月の国際大会以降、中断が続いていたが、宮脇専務理事は「今大会は中止にすると考えたことはなく、ずっと開催するつもりで動いてきた」と明かした。73回目の大会へ、徹底したコロナ対策が練られた。

 対人競技ならではの問題点が「飛沫(ひまつ)感染」。試合で得点すると選手は叫ぶことが多い。競技特性とはいえ、コロナ禍では心配な要素になる。実際に他競技では、6月に全日本空手道連盟が試合を含め、気合の声出しをしないように求める指針を発表した。テコンドーでも練習時の気合の声を禁止するなど試行錯誤した。

 ただ宮脇氏は、叫びを禁止することでのパフォーマンス低下を危惧した。マスクの中に透明のフェースカバーを入れるテストをしたが、7月の代表合宿で選手から「息が苦しいし、(カバーが)くもる」などの意見が出た。そこで、昨年から協会理事を務める医師の土肥美智子氏の考案で、全日本選手権に向けて〈1〉飛沫飛散の検証実験〈2〉スマートアンプ法の導入が決まった。

 〈1〉は8月中旬から約2週間かけて現役選手を起用。飛散が付着すると斑点となる感水紙などを用いて、実際に試合を行った。検証結果は、叫びにより飛沫は飛ぶとされた。また、土肥氏は男女各種目5試合ずつ計30試合の映像で、競技が濃厚接触にあたるかどうかを解析。いずれの種目も相手との距離が約1メートル以内になる接近戦は1分30秒未満だった。飛沫はあるものの、濃厚接触の定義「15分」に及ばないとされた。

 さらに選手の安心・安全を担保するのが〈2〉。日本サッカー協会では、既に導入されている。当日の入場時に選手は唾液を採取して検査。結果判明までに通常1~2日かかるPCR検査と比べ、約30分とスピーディーだ。「事前に受けるより感染リスクは少なくなる」という宮脇氏は「PCRより費用も抑えられる」とも言う。土肥氏らは8月18日に予選会場の駒沢体育館、同24日に決勝が行われる東京・ニューピアホールを視察し、会場内の導線を確保。検査で「陰性」の選手のみ参加でき、その後の感染リスクをなくすため、行動範囲は試合開始まで決められた導線に限定される。

 審判や、試合でベンチに入る各選手のコーチについてはフェースガードかマスクの着用を義務づける。また、協会は医療機関「キャピタルメディカ」とアドバイサリー契約を結び、同機関の監修で大会実施のガイドラインを作成した。

 8月9日、スポーツクライミングのリードジャパンカップ(岩手)が緊急事態宣言後、五輪競技では初めて日本選手権クラスの大会として開幕した。感染が懸念される対人競技では、今大会は国内初の開催。宮脇氏は「試合を映像で見せることも含め、コロナ禍における対人競技のニュースタンダードを作りたい」と力説。太田会長が会見で掲げた「With コロナ」の大会を実現させる。

 ◆スマートアンプ法 綿棒を30秒ほど口に含み、唾液を採取。それを検査液に入れると、約30分程度で結果が判明する。PCR検査では新型コロナウイルスを検出するため、加熱と冷却を繰り返す作業が必要だが、スマートアンプ法は一定の温度で、より単純な工程で検出でき、時間短縮につながる。陽性一致率は90%と言われている。

 全日本選手権の女子フルーレでは、世界ランク日本勢最高7位の上野優佳(18)=中大1年=の活躍に期待がかかる。2018年の夏季ユース五輪で日本勢初の金メダルを獲得し、同年シニアに初参戦。東京五輪で日本女子初のメダルを狙う若きエースは、約7か月ぶりの実戦となる大会で初優勝を目指す。

 自国開催の五輪は新型コロナの影響で1年延期が決定。それでも上野は試合中と同様に表情を変えず「フェンシングを広げるためにも東京大会しかない。女子では一番にメダルを取りたい」と決意をにじませた。

 身長159センチと世界で大柄と言えないが、武器はパワーとスピードだ。「男子選手っぽいと言われる」。小学2年で本格的に競技を始めると、父・正昭さんの指導の下、2歳上の兄・優斗と毎日対戦した。「本気でやったら倒せない」と笑うが、女子選手にはない強さを体感し続けた。

 だが、18年に兄が地元・大分から大学進学で上京すると、練習相手がいなくなった。08年北京五輪で代表監督を務めた江村宏二氏に声をかけられ、「五輪を見据えて」と高校2年で埼玉・星槎国際川口高に転校。環境が整い、着実に力をつけた。昨年のアジア選手権は団体で日本初の金メダル、個人では銀メダルを獲得。急成長ぶりにも「シニアや世界で戦うのに慣れてきただけ」と冷静だった。

 コロナ禍で五輪ポイントに関わる国際大会は中断された。ただ、五輪代表入りを確実にしたポイントは維持される。自粛期間、上野は大分に帰り、兄と練習に励んだ。「今以上に力をつける自信はある」。初の「日本一」のタイトルをつかんで、五輪へ成長の糧にする。

 ◆上野 優佳(うえの・ゆうか)2001年11月28日、大分・日田市生まれ。18歳。17年の大分・別府翔青高1年時、高校総体では兄・優斗と兄妹で優勝。2年に上がる時に星槎国際川口高に転校。今春の卒業後、中大に進学。18年世界ジュニア選手権、世界カデ選手権優勝。小学6年で「太田雄貴杯」に出場し、太田氏と写真に納まり「すごさ」を実感。159センチ。家族は両親と兄。

 全日本選手権は17年に太田会長が就任して以降、毎年改革を図ってきた。18年の決勝は演劇などで使われる東京グローブ座に大型LED画面を設置し、選手の心拍数を表示した。昨年の決勝は、東京のコンサートホール「LINE CUBE SHIBUYA」で開催。観客から見えにくい剣先を光らせた演出などでエンタメ化を進め、2日間で3000人以上を動員した。

 今年はコロナ禍で無観客開催となり「映像を通して魅了する」大会を目指す。決勝はインターネット放送「AbemaTV」で生放送される。また、ギフティング制度を導入して大会の開催資金を集め、新たな仕掛けを施す。

 ◆東京五輪代表選考の現状 コロナ禍で国際連盟主管の国際大会が中断し、昨年4月以降の大会成績に基づいた五輪ポイントランクも凍結中。これまでの同ランクで、女子フルーレ団体と今大会に欠場する男子エペの山田優が個人で出場枠獲得を確実にしている。女子フルーレ団体代表は、同ランクの個人で日本勢1番手・上野と同2番手・東晟が濃厚。日本はそれ以外に男女で最大8人の開催国枠があり、同枠で出場の可能性もある。団体戦で出場権を得た場合、団体代表選手は個人戦も出場できる。

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