楽天・渡辺直人のトレード観「野球界は12社しかない。全てを自分の財産に」必要とされ続けた14年間

楽天の渡辺直人
楽天の渡辺直人
DeNA時代の渡辺直人
DeNA時代の渡辺直人
西武時代の渡辺直人
西武時代の渡辺直人
涙を流して引退会見を行った渡辺直人
涙を流して引退会見を行った渡辺直人
試合前、引退会見を行った渡辺直人(左)は浅村栄斗らから花束を渡され労をねぎらわれた。右は岡島豪郎
試合前、引退会見を行った渡辺直人(左)は浅村栄斗らから花束を渡され労をねぎらわれた。右は岡島豪郎

 男たちの涙の連鎖は、10年経った今でも、忘れられない。

 2010年12月9日、楽天の看板選手だった渡辺直人が金銭トレードで横浜に移籍することが決まった。楽天はそのオフ、松井稼、岩村を補強したばかり。出番が減りそうな俊足巧打の内野手に、機動力野球を目指す尾花ベイが着目。合意に達したのだ。

 直人は会見で泣いた。プロ野球人としての自らを育んだ楽天への思いがあふれ出たようだった。

 すると翌日の契約更改で、主力外野手の鉄平が球団にトレードの経緯について説明を求めた。会見で鉄平は「こういう形で別れるとは思っていなかったので、とても悔しい」と号泣した。続く草野も、嶋も、会見場で泣いた。まさかの「号泣3連発」は直人がいかにチームに愛され、必要とされているかを証明するシーンだった。

* * *

 直人の「旅」は続いた。13年7月7日にはDeNA・長田秀一郎投手との1対1トレードで西武への移籍が決まった。かつて楽天担当だった私は当時、西武番。福岡遠征時に二人でもつ鍋をつつきながら、「トレード観」に話題が及ぶと、よどみなくこう言った。

 「トレードで楽天やDeNAに嫌な思いは、全くないです。恨みなんて全くない。涙はチームメートと離れる寂しさからであって、恨みからくる涙じゃない。周りにはどう思われてもいい。でもやっている本人はトレードに負のイメージはまったくないですよ」

 徐々に変わってきているとはいえ、日本社会は終身雇用制度が維持される。「生え抜き」はプラスの文脈で使われ、トレードは「放出」との見出しで報じられることもある。

 直人は続けた。

 「野球界はどこのチームに行こうが、12社しかない。世の中にはこんなにたくさん会社があるのに、ですよ。みんなつながっているじゃないですか。だから、離れたチームメートと試合をできる楽しみもある。ヘンな思いを抱くより、それを楽しみたい。出会った人とか、すべてを自分の財産にしたいんです」

 9月12日、今季限りの現役引退が発表された。1998年夏、激闘を繰り広げた華やかな“松坂世代”の中で、全国的に無名である茨城の県立高・牛久出身のいぶし銀が「世代最後の野手」になったことは、同郷として誇らしい。

 あの夜、シメのちゃんぽん麺をすすりながら、直人はこうも話してくれた。

 「プロ野球選手の大半は『プロになりたい』って思いながら多分、ずっとやってきたと思う。僕は今まで一度も、そう思ったことがないんです。なぜ野球を続けてきたかというと、中学、高校、大学、社会人とそのチームで、中心にいたかったんです。チームで大切な存在になりたかった。全国区の、街を歩いていて『渡辺直人だ』と言われるぐらい有名になりたいとか、全然ない。ただね、『お前は必要』と思われたいんです」

 渡辺直人の現役生活は、周囲から「お前は必要」と思われ続けた14年間だった。そしてこれからも、彼の野球観や気配り、ベンチから放つ「声」は、チームにとって大きな戦力であり続けるだろう。(09年楽天担当、13年西武担当・加藤弘士)

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涙を流して引退会見を行った渡辺直人
試合前、引退会見を行った渡辺直人(左)は浅村栄斗らから花束を渡され労をねぎらわれた。右は岡島豪郎
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