古市憲寿さん、ワイドショーの続きの物語…最新小説に込めた“現実的な”メッセージ

「明日の予定は?」との問いに、大容量のルンバを買いたいと答えた古市憲寿さん
「明日の予定は?」との問いに、大容量のルンバを買いたいと答えた古市憲寿さん
古市さん著書「アスク・ミー・ホワイ」(マガジンハウス提供)
古市さん著書「アスク・ミー・ホワイ」(マガジンハウス提供)

 社会学者としても活動する古市憲寿さん(35)の最新小説「アスク・ミー・ホワイ」(マガジンハウス、1540円)には同性愛とドラッグが描かれている。芥川賞候補になった過去の2作品は純文学として読まれたが、今作はツイッター上に投稿した小説を書籍化したもの。淡く透明感のある文章で紡がれた物語から伝わってくるのは、解釈次第で過去は変えることができるという古市さんらしい“現実的な”メッセージと、文芸ジャンルにもとらわれないフラットな考え方だ。(瀬戸 花音)

 「ニュースにはいつも続きがない」の一文から始まる物語。そこに込められていたものはマスコミへの批判でも、ただの好奇心でもなかった。

 「実際ニュースになった当事者からしたら、一生引きずっていくことも多いと思うんですけど、ワイドショーとかでは第一報しか伝えないことが多い。なんかそれって不思議だなあって」

 自身も連日ワイドショーに出演している身だからこそ、報道される当事者へ思いをはせる。ノンフィクションであるニュースで壊れたものを、フィクションである物語で救える可能性を考えた。

 「物語って名誉回復のツールになるのかなあと思うんです。ニュースではこう報じられて、人々にもこう信じられているけど、でも実はこういう見方もできるよねっていうのを提示するのが一個の物語の役割なんじゃないかなあっていうのは思ってますね」

 薬物使用疑惑を報道され、ゲイのうわさがネット上を飛び交い、芸能界を引退した俳優・港くん。そこに明確なモデルはいない。

 「でも、やっぱり芸能界からいろんな理由で去った人っているじゃないですか。そういう人が幸せだといいなって思いながら書いた部分ってのはあります」

 この物語は本になる前にツイッターに全文が公開されている。ステイホーム期間に日々少しずつ投稿されたもの。小説家としては斬新な試みとも取れる。

 「みんなが面白がってくれる表現を増やしてみたりだとか、感想は読むようにしてました。テレビとかラジオで出したものってすぐに反応がくるので、そういうふうに反応がくるってこと自体は逆に僕にとってはすごく自然でしたね」

 テレビ朝日系「中居正広のニュースな会」(土曜・正午)で共演する中居正広(48)や劇団ひとり(43)、ジャーナリストの柳澤秀夫氏(66)からの「俺たちも出してよ」という頼みに応えた遊び心もある。

 「なんかそれっぽい人物を入れました。どうでもいいシーンで(笑い)」

 古市さんの小説は、フラットに時代を反映している。過去には安楽死、閉じ込め症候群。今回は同性愛、ドラッグ。いずれも変わらないテーマがある。

 「どれも白黒つけられないことだと思うんです。同性愛と異性愛とか、はっきり二分法で分けられがち。でも本当はグラデーションがある。エッセーや論文でもグラデーションがあるってことは言えるんだけど、具体的な感情の変化を表現するのは小説の方が向いてると思うんです」

 全体を通して“救い”がある物語は、コロナ禍で不安がまん延する今だからこそ生まれたものだという。

 「物語っていうのは世の中の雰囲気とのバランスだと思っていて。だから五輪が行われる明るい2020年だったら、もっと悲しい話になっていたかな。先行きの見えないコロナっていう全然違う2020年がやってきたので、結果的に明るい優しい話になりましたね。人は今ここにないものを物語に求めると思うんで」

 港くんは言う。「過去はね、変えられるはずなんだよ。もしかしたら、未来よりもずっと簡単に」。物語の中、変わろうと思った人の人生は確実に変わっていく。古市さんの前向きな思考が反映されているのだろうか。

 「前向きっていうか、現実的っていうか。できないことは諦める。でも、できること、まだ間に合うこと、変わることに関してはちゃんと手を尽くす。港くんにもしゃべらせてますけど、解釈だけで世界は変わることってあると思うんで」

 ◆あらすじ はじまりは寒い2月のアムステルダム。日本料理店で働く青年ヤマトが出会ったのは写真週刊誌のスキャンダル報道で芸能界から去った元俳優・「港くん」。薬物報道、飛び交うゲイのうわさ。報道と現実。港くんとの出会いから、彼女と別れたばかりのヤマトの平凡な日常は色づき、変わってゆく。

 ◆古市 憲寿(ふるいち・のりとし)1985年1月14日、東京都生まれ。35歳。慶大環境情報学部卒、東大大学院修了。慶大SFC研究所上席所員。若者論をつづった「絶望の国の幸福な若者たち」で注目される。若手起業家の研究、IT戦略立案など多分野で活躍。2018年の文壇デビュー作「平成くん、さようなら」、19年の2作目「百の夜は跳ねて」がそれぞれ芥川賞候補に。

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