継続は力なり― 日本ハム・杉谷拳士の歌声が生み出した変化

試合前、大声を出し国歌斉唱する杉谷拳士(右から2人目)
試合前、大声を出し国歌斉唱する杉谷拳士(右から2人目)

 プレーボールへの熱気が徐々に高まるグラウンドに、伸びやかな歌声が響いていく。声の主は、日本ハム・杉谷拳士内野手(29)だ。国歌斉唱のアナウンスの後、ベンチ前へ出てスッと背筋を伸ばす。中堅方向を見つめて、大きく息を吸い込んで歌い出す。歌声は、三塁側ベンチ横のカメラマン席まではっきりと聞こえるほどだと言う。プロ野球界では、ここまでしっかりと歌う選手は少ないので、インターネット上でも話題になっている。

 そこに至った過程には、オフシーズンの自主トレを過ごす豪州での経験が関係している。「オーストラリアに行った時、試合前には選手全員オーストラリアの国歌を歌っていた。『歌わないのは日本だけなんだな』と思いながら、僕も歌っていました。だけど、日本に帰ってきたら歌わなくなってしまった。そういうのは良くないなと思って」。異国の地での体験が、考えるきっかけになった。

 今季の開幕へ向かう期間で、思い切って周囲に相談した。昨季、米大リーグ・レンジャーズにコーチ留学していた矢野外野守備コーチ兼打撃コーチ補佐からは「歌ってないのは日本だけ。お前が行け」と背中を押された。同様に大リーグへのコーチ留学経験があり、侍ジャパンではヘッド兼打撃コーチを務める金子野手総合コーチも同じ意見だった。「ジャパン(日本代表)も歌っている。歌いなよ」。迷いは消え、気持ちは固まった。

 継続は力なり―。今季、記者はその過程を目の前で見せられているように思う。昨季、杉谷への取材の中で、プロボクサーであった父・満さんの教えが自身の根底にあると教えてくれた。「父親もアスリートだったから、習慣にはうるさかった。『継続しなさい』とずっと言われていた。朝起きてランニングに行ったり、夜寝る時間もほとんど同じ。朝のランニングは必ず欠かさずやった。それが普通だと思って育ってきた」。それは今回のケースにも共通していた。周囲の反応に関係なく、背番号2は試合前の熱唱を続けた。

 人を動かすのは人―。その歌声は、周囲に変化をもたらし始めた。4日の西武戦(札幌D)では、左隣に立つ清宮が歌い始めた。その様子を見ていて驚いた。それが杉谷の予言通りだったからだ。8月上旬、練習を終えてこう語っていた。「そろそろ幸太郎(清宮)が歌い始めるんじゃないかな。まだ恥ずかしがっている」。その通りになったのは、背番号2の姿に清宮が心動かされたからなのだと思う。

 大きな話題を呼んでいる、試合前の熱唱。だが、杉谷の胸の内には、もっと大きな狙いがあるようだ。「シーズンが終わる頃になったら、僕より下の若い選手は全員歌うようになっていると思いますよ」。リップサービスではない。本心からそう思っていることが、力強い言葉から読み取れた。「継続する力」が生み出す影響力の大きさを、杉谷は知っている。多くのファンから愛される秘密が、また1つ分かった気がした。(日本ハム担当・小島 和之)

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