芥川賞作品「首里の馬」は春季キャンプで着想…著者の高山羽根子さんは熱狂的野球ファン「野球と小説は同じ」

「羽を広げるようなポーズを」というムチャぶりにも笑顔で応じた高山羽根子さん
「羽を広げるようなポーズを」というムチャぶりにも笑顔で応じた高山羽根子さん

 第163回芥川賞(日本文学振興会主催)を「首里の馬」(新潮社、1375円)で受賞した高山羽根子さん(45)は超のつく野球ファンだ。沖縄を舞台にした受賞作もDeNAなどの春季キャンプを現地まで訪れて見学した際に着想。今後の作家活動について「強肩か好守か俊足か犠打か。特殊な役割で必死にやっていきます」と話している。(北野 新太)

 ニコニコ笑顔の理由は、芥川賞を受賞したことだけではない。高山さんは取材前日(8月25日)の広島戦でDeNA・大和が放ったサヨナラヒットの余韻の中にいた。「ゲッツーゲッツー三振三振の後の5打席目なんですよ! 打った大和さん、代打を出さなかったラミさんにグッと来てしまい…。大和さん、FAで阪神さんから来て、スイッチにもチャレンジしたり…いろいろ考えて感動してました。で、チャンネルを変えたら巨人さんの菅野さんもスゴくて(開幕9連勝)…」。何にでも敬称をつけずにはいられないくらい野球を愛している。「掛布さんが解説の時に『クン』付けするのも大好きです」

 もはや単なる趣味とは言えなくなった。野球は、3度目の候補で芥川賞をもたらした遠因でもある。数年前、DeNAを中心に複数球団の春季キャンプを見学するために沖縄に滞在した際、日程の合間に博物館や図書館などを訪れ、本作を着想した。「野球が好きじゃなければ…キャンプに行ってなければ…というのは思ったりします」

 プロのみならず、高校大学社会人までくまなく野球をチェックするうちに小説との類似性に気がついた。

 「野球は完全なスポーツだと思っています。記録性が高く、スコアブックを読むだけで試合の物語が分かります。ここで球数が多くなったのか、ここで粘ったのか…。記号の組み合わせだけでストーリーを伝えるのは、まさに小説と同じなんです」

 受賞について「プレーボールの合図で試合が始まる時にフィールドの端に立たせていただいた感覚です」と謙虚に表現するが、沖縄という独特の風土を舞台として選び、SFにも通じる奇妙な物語を平易な文体で書き切った手腕は、将来の4番候補の期待を抱かせる。

 「いやいやいやいや! とんでもありません。強肩か好守か俊足か犠打か。特殊な役割で必死にやっていきます。野球も特殊な役割が許されているのが良いところ。頼まれたらできるところで頑張ります」

 となると、期待してしまうのは野球小説ということになる。

 「短編で書いたことはあるんです。野球が滅びた後のハマスタで『なぜか昔は誰かの名前が書かれたタオルを振り回す謎の儀式があったようだ』みたいな物語です。いろんな方が書いてこられましたが、どこを切っても物語があるのが野球なので、頑張らなくちゃいけないな、とは思います」

 写真撮影の合間も、新芥川賞作家が語る野球愛はとどまることを知らなかった。

 「由伸さんが岡本さんを未来の3割30本100打点の打者に育ててから監督を退任されたことを考えると、ものすごく胸が詰まります。あ、それこそキャンプで由伸さんを見たんですよ。ホントにカッコ良くて芸能人みたいでした」

 最近のイチ推しは、当然と言うべきか、大ブレイクしているハマの新主将・佐野である。

 「佐野さん、ドラフト9位ですよ、9位…。たくさん取ってくれました」

 ◆「首里の馬」 沖縄の郷土資料館で中学生の頃から資料整理を手伝っている未名子は、世界中の人々にリモートのオンライン通話でクイズを出題するオペレーターの仕事をしていた。ある台風の夜、幻の宮古馬が庭に迷い込んで来て…。執筆当時に首里城の火災が発生し、発表後にリモートワークの時代が訪れた今日的な作品。

  • 高山羽根子著「首里の馬」

    高山羽根子著「首里の馬」

 ◆高山 羽根子(たかやま・はねこ)1975年5月9日、富山市生まれ。45歳。多摩美術大美術学部絵画学科で日本画を学ぶ。2010年に創元SF短編賞佳作の「うどん キツネつきの」の収録作「原色の想像力」でデビュー。16年に「太陽の側の島」で林芙美子文学賞。19年の「居た場所」と「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」で芥川賞の連続候補に。9月に受賞第1作「暗闇にレンズ」を刊行。夫も大の野球ファン。

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高山羽根子著「首里の馬」
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