2冠奪還・内藤哲也を彩った花火の美しさ…新日21年ぶりの神宮球場大会が見せてくれた真夏の夜の夢

29日の神宮大会のメインイベントで2冠奪還に成功。4710人のファンの前で夜空に向かってマイクパフォーマンスする内藤哲也(カメラ・橘田 あかり)
29日の神宮大会のメインイベントで2冠奪還に成功。4710人のファンの前で夜空に向かってマイクパフォーマンスする内藤哲也(カメラ・橘田 あかり)
東京都による入場制限の中、21年ぶりに行われた新日本プロレスの神宮球場大会
東京都による入場制限の中、21年ぶりに行われた新日本プロレスの神宮球場大会

 その時、午後7時22分。まさに「真夏の夜の夢」のような瞬間が訪れた。

 1999年8月28日以来21年ぶりに東京・神宮球場で行われた新日本プロレス「SUMMER STRUGGLE in JINGU」大会のメインイベント。大人気ユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」(LIJ)のリーダー・内藤哲也(38)が王者・EVIL(33)との激闘を制し、IWGPヘビーとインターコンチネンタルの2冠を奪還。渾身のマイクパフォーマンスを終えた、まさにその瞬間、バックスクリーン上に上がったのが、大きな花火だった。

 日本最大、最強のプロレス団体が数々のハードルを乗り越えてたどり着いた、この日の野外大会の成功を祝福するかのような輝きが、打ち上げられた花火にはあった。

 午後5時の第1試合開始時の気温は33度だったが、レスラーたちにとって最大の敵はリング上の体感温度50度超の猛暑以上に感染再拡大の様相を見せる新型コロナウイルスだった。都の大規模イベント上限5000人までの入場制限要請を守り、この日のスタンドを埋めたのは、同球場の最大収容人数3万7933人のわずか12%の4710人。

 観客はそれぞれ十分な間隔を空けて着席。一人ひとりに入場前に検温、消毒、さらにチケットの半券に住所、氏名、年齢、メールアドレスの書き込みを必須とするなど、懸命の感染症対策を取った上での興行開催となった。

 駆けつけたファンたちも大声での声援、ブーイングは禁止で、あくまで拍手のみ。プロ野球、サッカーなどで採用しているヤマハ開発のリモート応援システムを使って、場内に「ウオー!」という歓声や「ぶー!」というブーイングが流される不自然な形の応援を余儀なくされた。

 それでも、灼熱地獄の中での全6試合、新日のトップレスラーたちは全力投球の試合を見せつけた。

 最大のクライマックスが内藤がロス・インゴを裏切り、「バレット・クラブ」入り。7月の大阪城ホールで反則まみれの戦いで2つのベルトを奪っていった元盟友・EVIL相手に雪辱の白星を挙げた一戦だった。

 ファンからの手拍子での応援を受けた内藤は大技・バレンティアからの必殺のデスティーノで3カウント。26分20秒の文字通りの熱闘の末、2冠を奪還した。

 試合後、マイクを持つと、「21年ぶりの新日本プロレス、神宮球場大会、そして野外で行われた真夏のビッグマッチ、皆様、楽しんでいただけましたでしょうか」と、汗まみれの顔で語りかけると、「今回の神宮大会の成功はテレビの前、インターネットの前で見ていただいた皆様、そして、この暑い中、この神宮球場に足を運んで下さった皆様のおかげです。心から感謝します。グラシャス・アミーゴス(ありがとう、仲間たちよ)」と頭を下げた。

 最後に「まだまだコロナの影響で我慢の日々が続きますが、その我慢の先に明るい日々がきっと待っていると思いますので、一緒に乗り越えていきましょう」と呼びかけると、「皆さん、神宮大会最後の締めはいつものあれ…。でも、今日は皆様と一緒に大合唱はできませんが、ぜひ、心の中で一緒に叫んで下さい。新日本プロレス21年ぶりの神宮大会のフィナーレはもちろん! ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポーン!」と真夏の夜空に向かって絶叫。その瞬間、神宮の夜空に内藤を祝福するように花火が上がったのだ。

 バックステージでも内藤は「もう、レスラーになって、かなりの時間が経つけど、いまだにプロレスファン気質が抜けないからさ。21年前、この神宮球場のレフトスタンドで見ていたこと、あの頃のこと、思い出しながら試合しちゃいましたよ。21年前の俺に改めて言いたいよ。『キミは21年後、この神宮球場大会のメインイベントで試合し、そして勝利して、マイクで締めることになるよ』ってね」と笑顔で振り返った。

 生粋のプロレス少年だったスターレスラーは21年前の神宮球場大会を5000円のチケットを購入して観戦、レフトスタンドでじっと見守った高校生の時の自分に淡々と語りかけた上でファンに向け、「いろいろな困難なことがあるけど、きっとその先に明るい未来が待っているよ。そう信じて、俺はこれからもリングに立つから」と、前を見据えて話した。

 さらに31日にオンラインで行われた二夜明け会見でも、「俺自身、野外のビッグマッチは初めてだったけど、開放的で気持ち良かったですね」と笑顔で振り返ると、カメラに向かって、「見ましたか? 神宮大会。あの広いグラウンド、スタンドに使っていないスペースがめちゃくちゃあった。スタンドも空席だらけ。入場制限があったからしようがないけど、悔しかったし、寂しかった」と、正直な言葉も紡いで見せた。

 「寂しかったからこそ、俺はこのままで終わらせたくないな。また、野外でのビッグマッチがあっていいと思うんです。来年も野外で開催したい。真夏の野外のビッグマッチを恒例にしてほしい」と目を輝かせた内藤。「北海道から沖縄までプロ野球の使用していない野外球場でやってもいいし、毎年、どこでやるのかとワクワクしてもいい。可能性は広がりますよね」と満面の笑みを浮かべた。

 そう、内藤の言葉通り、「可能性」は無限だ。内藤の勝利を祝う花火だけではない。夕日に映える「エース」棚橋弘至(43)の14キロ絞った筋肉。薄暮の中、その場跳びシューティングスタープレスを決めてみせた飯伏幸太(38)の汗の輝き。野外ならではの最高に気持ちいい瞬間を体験できたのは、一記者として内野スタンド最上段の記者席から見守った私も一緒だった。

 先の見えない新型コロナとの闘いの中、大規模スポーツイベントにおける入場制限はまだまだ続くだろう。そんな逆境の中、この日、新日が4710人という採算を度外視した形で決行した野外大会には「ウイズ・コロナ」の時代の中で行われるイベント、エンターテインメントにとって、大きな可能性が秘められていると思う。

 スポーツが生み出す忘れられない感動の瞬間にこそ価値がある。勝利の大合唱を終えた瞬間、内藤が見上げた夜空に広がった大きな花火。あの瞬間の心の震えだけは誰にも止められない。やっぱり、プロレスって、スポーツって素晴らしい。そう思ったのは、神宮を埋めた4710人の観客と私だけではないはずだ。(記者コラム・中村 健吾)

29日の神宮大会のメインイベントで2冠奪還に成功。4710人のファンの前で夜空に向かってマイクパフォーマンスする内藤哲也(カメラ・橘田 あかり)
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