【川崎】中村憲剛、前向き時々曇り…家族に支えられた約10か月ぶりの復帰

川崎―清水戦 後半、シュートを放つ川崎・中村憲剛(カメラ・宮崎 亮太)
川崎―清水戦 後半、シュートを放つ川崎・中村憲剛(カメラ・宮崎 亮太)

◆明治安田生命J1リーグ 第13節 川崎5―0清水(8月29日・等々力陸上競技場)

 J1川崎のMF中村憲剛(39)が29日、第13節のホーム・清水戦に後半32分から途中出場し、左膝の前十字靭帯損傷および外側半月板損傷から約10か月ぶりの公式戦復帰を果たした。後半40分には左足でループシュートを決め、J1歴代2位となる16年連続得点を記録した。 

 幸運にも、私は等々力陸上競技場でその瞬間を目撃することができた。2008年から3シーズン川崎を担当し、担当クラブ、部署が変わっても、憲剛とのつき合いは続き、12年になる。昨年11月2日、負傷した等々力での広島戦も観戦していた。39歳。選手生命にも影響を及ぼしかねないサッカー人生初めての大けがだった。どうしても復帰を見たかった。川崎の過密日程を考えると、中2日が続く清水戦になるような気がして、1か月前からスケジュールを調整した。

 後半、ベンチ前で黄色いビブスを脱ぎ、背番号「14」が見えた時から、スタジアムの雰囲気は変わり始めた。寺田周平コーチから戦術ボードで指示をされながらピッチ脇に進み、小林悠と並んだ。コロナ禍で入場制限があり、観衆は4798人だったが、万雷の拍手に包まれた感動的な途中出場だった。小林に右足のシュートを当てたファーストタッチ。大島僚太とのワンツーパスからの右足シュート。相手DFに当たったが、ゴールのにおいはしていた。悔しがる姿も含め、サッカーを楽しんでいるように見えた。試合後のヒーローインタビュー。大型スクリーンに映った憲剛の顔は、いい顔をしていた。

 10か月前。広島戦は39歳になって3日目の試合だった。負傷退場し、病院施設に直行した。午後7時ごろMRI検査を受けた。ロッカールームでの触診で「前十字かもしれない」と言われており、覚悟はできていた。とはいえ、39歳で、初めて経験する大けが。最低でも8か月は離脱しなければいけない。選手生命に関わるかもしれない。左膝前十字靭帯損傷および外側半月板損傷。そんな診断結果を聞いた憲剛の第一声に、この男のすごさを感じた。

 「先生、髪の毛切っていいですか?」。

 髪の毛が伸びてきており、入院するならさっぱりしたいなと思ったそうだ。憲剛と接していると、ピッチ内と普段が似ていると気づく。視野の広さ、判断力もそう。自分の置かれている状況、切り替える必要性、そして、どうするか。単に過去を振り返ることはしない。必ず先を見据える。前十字靭帯損傷を嘆くより、受け入れて、どうすべきかを考えたのだろう。「自分で驚くぐらい切り替えていた。落ち込んだけどね」。診断結果を聞いた2時間後、そう振り返っていた。「前向き」とは、こういうことを言うのだろうと思った。

 負傷した当日、こうも言っていた。

 「ルヴァン杯をとって(優勝して)、39歳になって最初の試合で、このけが。試練を与えてくれたのかな。この年齢になって復帰するのも意味があると思う。燃えてきた」 

 強がりも含め、本音だったと思う。そう言わせたのは家族だった。自宅に戻り、家族皆で話をした。長男の龍剛くん(当時11歳)は、サッカーをやっており、プロというものも理解している。契約の心配をしてくれたそうだ。長女の桂奈ちゃん(当時9歳)から「命は大丈夫なんでしょ?」と聞かれ、「それは大丈夫」と答えたら、「あー良かった」と言ってくれた。次女の里衣那ちゃん(当時3歳)の笑顔に癒やされた。最大の理解者、加奈子夫人(当時39歳)は「起きてしまったことはしょうがないから、その中でもポジティブな要素を拾いつつやっていくしかないよねっていう話をしたかな」と記憶している。父親として、夫として、頑張らないといけないと思わせてくれた。

 昨年11月22日に手術を受け、復帰へのプログラムが始まった。ずっと順調だったわけではない。コロナ禍で、緊急事態宣言が発令され、クラブハウスでの治療、リハビリができなくなった。感染拡大のニュースに心を痛め、モチベーションが著しく低下した時もあった。そんな時はいつも家族に救われた。背中を押してくれた。

 清水戦後、ヒーローインタビューで「やっぱり一人じゃここまでやってこられなかったなっていうのは、この10か月強く感じました。本当に感謝しかない。うれしいし、サッカーは楽しいなと。等々力って最高だなっていうのを改めてかみしめられた」と、家族をはじめ、クラブ、医療関係者、サポーターらに礼を言った。そして、「ここに戻ってくることがゴールじゃなくて、チームに貢献することがスタートラインだと思っていたので、点を取れたことは良かった。でもミスもありましたし、運動量もまだまだ上げていかなければならない。鬼さん(鬼木達監督)のチョイスに入れるよう、日々の練習からアピールしていきたいと思います」と続けた。憲剛が、中村家が、この経験をどう「前向きに」生かしていくのか、楽しみである。(羽田 智之)

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