トランジション「切り替え」…喜熨斗勝史氏コラム「Coach’s EYE」

欧州チャンピオンズリーグで優勝し、ミュンヘン空港に降り立つバイエルンGKノイアー(ロイター)
欧州チャンピオンズリーグで優勝し、ミュンヘン空港に降り立つバイエルンGKノイアー(ロイター)

 国内外のクラブでコーチとして、FW三浦知良のパーソナルコーチとしても経験豊富な喜熨斗(きのし)勝史氏のネット限定コラム「Coach’s EYE」。第3回のテーマはトランジション「切り替え」

 どんなに強いチームでもいつかは負ける時が来る。今年の欧州チャンピオンズリーグ決勝(以下CL)は、まさにそんな無敗を誇るチーム同士の戦いになった。バイエルンは直近の公式戦30試合負けなしのブンデスリーガチャンピオン。対するパリSGも12試合負けなしのリーグチャンピオンだ。さらに、バイエルンのレバンドフスキとミュラーのFWコンビとネイマール、エムバペ、ディマリアの3トップの対決も見ものだ。時差の関係で、日本では朝の4時がキックオフだったが、世界のクラブチームの頂点を争う戦いといっても過言ではないこの試合は、サッカーを稼業にする者にとっても必見の価値ある試合になった。

 パリSGのキックオフで始まった試合は、開始から激しさを見せる。バイエルンはゲーゲンプレスという言葉どおり、パリSGのDFにプレッシャーをかけ、高い位置でボールを奪い、早い攻撃を組み立てるプランだ。パリSGはそんなプレッシャーに苦しむが、エムバペ、ネイマールのスピードとテクニックを駆使してチャンスを作り出す。17分にはネイマールが決定的なチャンスを作り出すも、バイエルンは焦らず外側からシュートを打たせ、ノイアーのセーブで事なきを得る。23分にも、早いカウンターアタックからディ・マリアがシュートを放つも枠を捉えられない。バイエルンも21分にレバンドフスキがポストに当てたシュートと30分のヘディングを決めていれば、試合は違った展開になっていただろう。

 しかし、特筆すべきは、両チームの攻守の切り替え、つまり「トランジション」の早さだ。実は、日本の指導現場でも重要視されているこの「トランジション」を完璧に身につけさせるのは非常に難しい。なぜなら、サッカーのトランジションには、ディシプリンが含まれているからだ。攻撃から守備、守備から攻撃、どちらの場合もパニックにならず、素早く、そして的確に動かなければならない。サッカーでは戦術的に正しくトランジションしないと、逆に相手に有利になってしまうこともあるのだ。その点、バイエルンの選手たちは徹底していた。ネイマールとディマリアに突破された後もDFは飛び込まず外側から利き足ではない方の足でシュートを打たせている。あそこでスライディングしていたら、切り替えされて利き足で打たれていただろう。ゲーゲンプレスだけではなく、しっかりとディフェンスディシプリンの指導がなされていることが伺える。

 決勝点はバイエルンの素早いトランジションによって生まれた。パリSGのDFもしっかりと対応しているように見えたが、右から入れられた低いクロスにパリGのCBチアゴ・シウバが食いついてしまい自分のポジションを見失った。結果、サイドバックのケラーがレバンドフスキとコマンの二人を見ることとになり、後方にポジションを取ったコマンにヘディングを許してしまう。その後も、バイエルンの選手は前からプレスをかけ続け、見ごたえのある試合は1―0のまま90分の幕を閉じた。バイエルンは31試合負けなしという、驚異的な記録を伸ばし続け、パリSGは負けなしを12試合で止めた。バイエルンの「負ける日」はまだ当分、来ないだろう。

 実はサッカーでは、ここ、試合後にもトランジションが存在している。敗戦後にどう切り替えるか、大勝利の後にどう切り替えるか。正しくトランジションが行えないと、ズルズルと連敗してしまうことになる。負けた原因を正しく分析しトレーニングで落とし込む、勝った余韻に浸らず冷静に問題点を抽出し、次の試合の準備をする。選手たちは少し息抜きも必要だが、コーチワークに休みはない。

 Jリーグでは、フロンターレがグランパスに敗れ連勝を10試合で止めた。そして3連勝中の横浜C。連勝は伸ばしたが、下平監督は「巻き返さないと」と厳しく引き締めた。Jクラブのオフ・ザ・ピッチの切り替えも楽しみだ。今年のCLは幕を閉じたが、Jリーグはまだ始まったばかり。世界に近づくには「トランジション」も重要なキーワードになりそうだ。

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