【箱根への道】順大・三浦龍司が飛ぶ!デビュー戦3000メートル障害日本歴代2位の怪物1年 本戦6区希望「下りの速さ生かしたい」

スポーツ報知
三浦は3000メートル障害で世界を目指しながら学生駅伝にも挑む

 順大に最強の“お家芸”継承者が現れた。7月のホクレンディスタンスチャレンジ(DC)千歳大会3000メートル障害に出場したルーキー・三浦龍司が8分19秒37の日本歴代2位をマークして優勝。16年リオ五輪代表の塩尻和也(現富士通)ら、同種目で数多くの国際大会代表を輩出する名門から来夏の東京五輪出場を狙う。ロード適性も抜群で、10月の箱根予選会はもちろん、駅伝シーズンでの活躍も目指す18歳に迫った。

 伝統を超える。三浦は大学デビュー戦となったホクレンDCで日本歴代2位&U20日本新、そして最古の学生記録を41年ぶりに破るタイムをマークし、潜在能力の高さを証明した。順大のユニホームに初めて袖を通したレースで輝いたが「正直、あそこまでのタイムは想像していなかったです。(8分)30秒台前半で自己記録が更新できればと考えていたので」と謙虚に振り返った。

 島根・国府小学校1年から地元の陸上クラブに所属し、さまざまな競技に触れた。3000メートル障害、通称“サンショー”への挑戦も、クラブの先生に勧められた。「跳躍や障害にも小さい頃から取り組んでいて、先生から『走れるだけじゃなく、バネもあるから』と背中を押されました」。京都・洛南高に進み、5月には高校総体京都市大会で公式戦デビューし、いきなり9分35秒07をマークして優勝した。

 全てが順調だったわけではない。同種目は高校生以上しか出場できないため、最初は苦労もあった。「展開も分からないまま出ていました。普通のレースより苦しいし、障害を越えられるか不安だった。特に水濠(すいごう)はぶっつけ本番だったので怖かったですね」と苦笑い。だが、レースを重ねる度に記録は上向き、昨年は30年ぶりに高校記録を更新。日本選手権でも5位入賞を果たした。

 ゴールデンルーキーとして注目されながら順大へ進んだ今季。コロナ禍で大学での寮生活はできず、春先は地元で一人、練習した。大学に戻ってからは少しずつ感覚を研ぎ澄ませた。そして迎えた真夏のシーズンイン。「タイムは全く見ていなかった。残り1周の通過タイムが読み上げられても、競っていたキプラガット(愛三工業)から離れないようにとしか考えていなかった」。コロナ禍で、次に同種目のレースが開催される機会があるかどうか分からない状況もあって、高い集中力で驚異の記録をたたき出した。

 サンショーに取り組む上で見据えるのは、来夏へ延期となった東京五輪だ。三浦は「今年開催されたとしても、本気で狙うつもりだった」と決意を明かす。五輪参加標準記録の8分22秒0を突破したが、世界陸連の規定期間外で、12月1日以降に再びクリアする必要がある。長距離種目の日本選手権は箱根駅伝の約1か月前に当たる12月4日に開催予定。過密日程となるが「2週間くらいあれば長い距離とサンショーの体は切り替えられます」と自信を見せる。

 学生オリンピアンになれば、順大では塩尻に続いて2大会連続の輩出。「塩尻さんに憧れて順大を選んだ。これからも追いかけていきたい存在です」と目を輝かせる。10月17日の予選会突破の暁には、本戦で6区を希望。「塩尻さんのような2区の走りはまだイメージできていませんが、下りのスピードで自分の走りを生かしたい」。山下りでチームに貢献するつもりだ。

 ロードへの不安は少なからずあった。洛南高時代は3年連続で都大路に出場したが、1年4区27位、2年1区9位、3年1区21位と満足する結果は出せなかった。だが、指導する長門俊介監督(36)は「本人に苦手意識があるだけで、十分に走れている。心配はしていない」と期待。三浦も「サンショーに初めて取り組んだ時と同じで、ロードで長い距離を走ることにワクワクしている。そこは共通しているというか、新しいことへの挑戦は楽しい」と成長を続けている。

 駅伝との両立の難しさについても理解しているが「何回も障害を飛び越える種目に取り組んだおかげで、ダメージが蓄積される中でも耐えていく粘りがつきました」と前向き。「4年間でサンショーは日本記録(8分18秒93)を更新したい。箱根駅伝は4年生の時に100回大会なので、優勝できたらうれしいですね」。記録も困難も飛び越え続ける。(太田 涼)

 ◆三浦 龍司(みうら・りゅうじ)2002年2月11日、島根・浜田市生まれ。18歳。国府小1年から陸上を始め、浜田東中では全中に3000メートルで出場。京都・洛南高3年時には3000メートル障害で陸上最古の高校記録を破った。順大に進み、デビュー戦となった7月のホクレンディスタンスチャレンジ千歳大会で日本歴代2位、国内日本人最高、U20日本新、学生新となる8分19秒37をマークして優勝。家族は母。趣味は映画観賞。

 ◆3000メートル障害 トラックで3000メートルを走るうちに障害物を28回、水濠(水がたまった池のような部分、最深部の深さが0.7メートル)を7回越える。スタート後、フィニッシュラインを初めて通過してから各周に5個の障害物があり、その4番目が水濠であることがルール。ハードル種目と異なり、障害そのものは倒れない設計のため、日本人選手の多くは障害に足をかけて越える。水濠以外の4つの障害物は移動式で、男子は高さ91.4センチ、女子は76.2センチ。

 ■取材後記 自分の母校の後輩というひいき目をなしにしても、衝撃的なデビュー戦だった。一方で、そんな歴史的なレースだったホクレンDC千歳大会を現地で取材できず、オンラインでしか見ていない悔しさが残った。どうしても生の三浦の走りが見たい。10日の順大競技会に名前を見つけると大学側と調整し、足を運んだ。

 気温29度、湿度70%の午後7時20分。暑さの残る中で5000メートルに出場した三浦は、中盤で先頭に出ると1人でグングンとペースを上げた。残り1000メートルのラップは手元のタイムで2分40秒を上回るほどでまとめ、13分54秒74でゴールした。

 冷静なペース配分はロード適性の高さを証明するものだが、それ以上に目を引いたのはペースの切り替えだ。徐々に上げるのではなく、一気に加速するスパート。ライバルたちを「最後まで一緒にいたら負ける」と精神的にも追い詰める“凶悪な”武器だ。だが、取材では「水泳の授業がオンラインなんですけど、4泳法のスケッチを提出するのが大変で…」と授業の苦労を明るく口にする18歳らしい一面も。“お塩さま”と呼ばれた塩尻に続くサンショーのエースは、ギャップにあふれていた。(箱根駅伝担当・太田 涼)

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