小松菜奈 感情異なるナナ色の涙 映画「糸」ヒロイン熱演

スポーツ報知
インタビューに応じた小松菜奈

 女優の小松菜奈(24)が菅田将暉(27)とダブル主演する映画「糸」(瀬々敬久監督)が21日から公開される。中島みゆきの同名の曲をモチーフにし、13歳の時に初めて恋をした高橋漣(菅田)と園田葵(小松)の人生模様を描いた作品だ。養父から虐待を受けながらも、たくましく生きるヒロインを演じた小松は「台本を読んだら涙のシーンが多くて、葵を弱い女性にしたくなかった」と振り返った。菅田とは3度目の共演で「信頼関係があるので、やりやすかった」とも。18歳で「渇き。」で衝撃デビューを果たし「沈黙―サイレンス―」でハリウッド進出。女優としての原点や苦悩、プライベートも聞いた。

 映画は中学で出会った漣と葵が恋心を抱きながらも引き離され、互いの人生を歩みながらも再び巡り逢うという、約20年にわたる2人の愛の軌跡だ。小松は天涯孤独になりながら自らの人生を切り開いていく葵を演じるに当たり、心に留めることがあったという。

 「台本を読んだ時にとにかく涙のシーンが多くて、なんか葵が弱くなってしまうという不安がちょっとありました。ただ弱い女の人にはなってほしくないから、そこはプロデューサーさんとお話しさせていただきました。辛いことがあっても這い上がっていく心の強さ、そういう経験をバネにして前に進む一人の女性というか、葵をちゃんと自立している女性として描けたらいいなって意識してました」

 葵が単身でシンガポールに渡り、ネイリストの派遣会社を起業し成功を納める姿に共感したそうだ。

 「シンガポールに出ていくのは、世界に出て行くことじゃないですか。私もそこにとどまっているだけじゃなくて、いろんな所に行って挑戦したいし、葵にもそういう気持ちを感じていたので、その部分がちゃんと出せたらいいなと思っていました。自分で扉を開いて世界にバッと飛び出す。いろんな挑戦をしたり、好奇心旺盛な所は私と葵は似ている部分あると思います」

 劇中で涙の場面が多い。シンガポールで泣きながらカツ丼を食べるシーンと北海道に戻って地元の食堂で号泣する演技は圧巻だ。

 「シンガポールで葵は成功と挫折、人に裏切られたりを一気に食らいます。そこでの撮影の一日一日がとても濃くて、カツ丼のシーンは最後の日に撮ったので感情移入がしやすかったです。いろんなことを経験した、辛かった涙でしたが(北海道の)『子供食堂』はまた違う涙です。涙でもそれぞれ感情は絶対異なるし、それをどう見せられるかなって。地元に帰って来て小さい頃から知っている人がいる、支えてもらった安心感がある中での涙を考えた時に『葵は子供のように声に出して泣くのかな』と。それが正解か分からないんですけど、周りに誰がいてもそれは関係なく、たまってきたモノが出ていく。そうしたい気持ちはありました」

 ―今までで忘れられない食事は。

 「私、食べることが大好きなんです。本当に好きで、グルメロケとか超うれしいんです。いろんな料理が無料で食べられますから(笑い)。忘れられない食事はお母さんの作る料理。すごくおいしいんですよ。『中身のスープ』っていうのがあるんですが、出汁からちゃんと取っていて手間がかかっているんです。愛情というか、自分が(親元を)離れてみて、こんなにも手間がかかるモノを私たちの体のためにちゃんと作ってくれたんだなって思うと、お母さんの食事ってすごい安心でありがたいです。実家に帰って『これ作って』って言うと、お母さんも喜んで『私こんなに食べられない』というぐらい作ってくれるんです。それってすごい幸せで満たされます。お母さんの料理は世界一です」

 菅田とは3度目の共演だ。前2作品はともに暴力シーンが多い作品だった。

 「菅田さんとの最初は『ディストラクション・ベイビーズ』で、現場で『初めまして』とあいさつして、喋ったのは最後の1日ぐらいです。暴力を振るわれたりして嫌いにならなきゃいけない役だったので、実際に叩かれたらリアルなリアクションができるじゃないですか。そこは妥協して欲しくなくて『手加減しないで下さい』ってお願いしました。完全に力は入れていませんがそれはけっこう痛かったです。でも、その痛みで憎しみが増えるんじゃないかなとも思ったんですね。最後にドアをバンバン蹴るシーンとか『むかつく、全部ぶつけてやる。今までの痛み』って。感情が出やすいんじゃないかと思いました」

 ―それで今回が純愛映画ですが。

 「次の『溺れるナイフ』でも殴られたり、髪に毛引っ張られたり。それを経てこの王道作品は自分たちにも意味があります。平成の時代を代表する曲の作品を作らせてもらって、私たちだったら『糸』をどう描けるのかなって、純粋に楽しみというか面白いと思いました。互いに役の話しはしませんし、現場に入って『じゃあ、どうしよう』とかもないです。そこはこれまで共演していて『何やっても大丈夫なんだろうな』っていう信頼関係はありますから…。向こうがこう来たら自分はどうするんだろうとか。私がこうしたら、向こうはどうするのかなっていう楽しみはありした。でも変な気持ちです。今まで暴力や激しい作品をやってきて、こんなにも抱きしめ合っていいのかなって(笑い)」

 スカウトでこの世界に入ったが、芸能界には興味はなかったそうだ。

 「12歳の時に原宿の竹下通りでスカウトされてモデルを始めました。それまで(芸能界は)まったく、1ミリも興味はなかったです。テレビっ子ではあったんですが、芸能界としてみたこともなく、テレビって面白いなってぐらい。高校の時に周りの人たちは『大学行きたい』とか『この就職したい』という中、私は『何になりたいのかな』ってずっと考えていて、高校生の時に『渇き。』があったんですが『自分がこれ(女優)でいいのかな』とまだ整理ついていませんでした」

 「渇き。」で女優を初めて体験したが、戸惑うことばかりだったそうだ。

 「映画の世界は楽しくて刺激的なんですが、現場に入ってメイクして『じゃ、お芝居します』って。私って『何も教わってないです』から始まっているので、演技で泣くことの意味も分からず『なんでこの台詞をいってこの感情出るの』みたいな感じでした。本当に何も分からないので助監督の方と喜怒哀楽の練習しました。テンションの上げ方とか。月~金は学校に行って土日はレッスンする感じでしたね。分からないながらもすごいキーになる役なんだというプレッシャーがあって『私がこの映画を台無しにしていないかな』『私が入ったことで大丈夫かな』って。中島(哲也)監督も心の中では確実に不安で『こいつで良かったのかな』って絶対思っていたはずです。でも信じてくれたので『ちゃんとやろう』とついていきました」

 ―中島組は厳しくて有名だが。

 「何にも分からないからヘラヘラした感じでいました。それでなきゃできなかったし、中途半端でいた方が難しかったんだろうなって思います。分からないから監督の言葉を素直に聞けて『こうしよう』とも思えました。でも柔軟性とかはまったくなく『こうして欲しい』といわれても『これしかできない』みたいな。引き出しが全然なくて監督からずっと『お前はこれしかできないのか。面白くないんだよな』って。そんな厳しい中で育てていただき、今は本当に初めてが中島監督で良かったと思います」

 女優の道に進むことを決断したのは意外にも出世作「渇き。」ではなかった。

 「実は『渇き。』の時も、女優は自分の性格と合ってないと思っていてずっと葛藤がありました。監督に『私、何になりたいか、まだ分からないんですよ』って話したら『別に女優にならなくてもいいんだよ』といっていただきました。それからいろんな仕事をいただく中で、WOWOWで『夢を与える』というドラマがありました。初めて感情をむき出しにするお芝居だったんですね。『渇き。』もそうですが、今までは裏で悪い子みたいな役や、おとなしいとか無表情の役ばかりで、やっと人間として扱われるじゃないですけど、そういう役だったんですよ」

 ―何が役者として覚醒させたのか。

 「初めて(7分間の)長台詞というのがありました。自分は勝手に『長台詞を経験すること絶対にはないだろうな』って思っていたんですが『え~、来ちゃった』って感じでした。カメラがバーって目の前に並んでいて『ここが勝負だぞ』みたいな。一人で自分の真実を告白するシーンなんですよ。今までのよりもすごい緊張したんですが『この緊張感は何…。これだ!』みたいな。溢れる思いとかやっと人間として出られた部分がすごい刺激的だったんです。自分の中では今まで味わった事がない感情で『面白い』という言葉で終わらせちゃいけないんですが『女優業ってすごいな』って。初めての感覚でもあったので、そこから『いろいろやってみたいかも』って。頑張っていきたいと思えるタイミングでもありました」

 女優としての自覚も生まれてから仕事への向き合い方も変わったという。

 「最初は女優をしたいと思えなかったのが、思えたという心境の変化に自分もびっくりしました。欲が出てきたというか、役に対してのアプローチの仕方とか責任感も昔とは全然違いますね。台本の読み方も。自分が期待に応えられるかの不安もあったんですが、現場現場でちゃんと自分なりに考えて『真面目にやろう』と思えた。その中で柔軟性がなかったら、それも難しくなってきちゃうこともあるでしょうが、それぞれの監督さんの色に染まれたらいいと思えるようになりました」

 「渇き。」で報知映画賞の新人賞を、昨年は『来る』と『閉鎖病棟―それぞれの朝―』で最優秀助演賞を受賞。映画賞では欠かせない存在になっているが…。

 「映画賞をいただくのはうれしいですよ。うれしくない人はいないと思いますよ(笑い)。私、自分の作品を見るのってすごい苦手なんです。自分のお芝居を見るって、今でもすごい嫌で、できれば見たくない。自分の場面を飛ばして人のは見たいんです。じっくりと。でもこういった取材とかで感想とか求められるし自分の作品を見てないと元も子もないので、とりあえず1回は見ます。お芝居って難しくて、やっぱり自信はないです。でもお芝居の中で一瞬、自信を見せないといけない。そこは『自分じゃない』と思ってやっていて、その中で賞とかいただくと、ちょっとだけ自信につながります。次は自分の代表作といえる作品で主演女優を取れたらいいな~とか思いますよ(笑い)。賞を取りたいから頑張ろうではないですけど、背中を押してくれることの一つというか…。うれしいですね。やっぱり賞をいただくと。お母さんも喜んでくれますから。私が映画をやり始めてからお母さんも映画館に行くようになって『この映画よかったよ』とか勧めてくれます。映画で家族で繋がっているのはいいです」

 次の仕事への準備をするためにもリフレッシュの重要性を感じているという。

 「私は自然児なので、公園に行って遊んだりとかドライブしたり山登りとか。海外旅行も一人で行ったり友達といったりとか。そういうのが好きなんです。素に戻れる瞬間があると、次の作品に切り替われるので、そういう時間大事にしていますね。印象に残っているは19歳でオーストラリアに初めて一人で1週間行った時かな。バタバタお仕事していて、自分を見失うじゃないですけど『今すぐどっか行きたい』となってバッと一人で行きました。とりあえず何とかなるでしょみたいな感じで飛び込んでいったんですけど、それもすごく良かった。離れてみると仕事の良さもちゃんと分かるし、こういう時間も大事なんだなってすごい思いました。気合いも変わってくるというか。オンオフというのがちゃんとできたらいろんなことがうまくいくし、自分も気持ちがいいのかなと思います」

 包み隠さずに自分の強さも弱さ、いい顔も悪い顔もさらけ出せる。天賦の才を持つ逸材は世界に誇れる女優になるはずだ。

 (ペン・国分 敦、カメラ・相川 和寛)

 ◆小松 菜奈(こまつ・なな)1996年2月16日、東京都生まれ。24歳。2008年から「ニコ☆プチ」のモデルを務め、14年公開の映画「渇き。」で本格女優デビューし、報知映画賞など各映画賞で新人賞を受賞。16年に「溺れるナイフ」で映画初主演。同年、映画「沈黙―サイレンス―」でハリウッド・デビューを果たす。昨年公開の映画「さよならくちびる」では門脇麦とのギターデュオ「ハルレオ」を演じ、CDデビューも。同年、「来る」「閉鎖病棟―それぞれの朝―」で報知映画賞助演女優賞受賞。趣味はカメラ、特技はダンス。血液型O。

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