3試合1点ペースでは評価されなかった欧州の現実…ベルギーで覚醒目指すFW中村敬斗の挑戦

シント=トロイデンVVで欧州2年目のシーズンに挑むFW中村(シント=トロイデンVV提供)
シント=トロイデンVVで欧州2年目のシーズンに挑むFW中村(シント=トロイデンVV提供)

 公式戦18試合で6ゴール。昨季オランダ1部・FCトウェンテで、FW中村敬斗(20)が残した結果だ。しかし中村は、2年間の期限付き移籍で加入したトウェンテを1年で退団し、ベルギー1部のシント=トロイデンVV(STVV)に移籍。欧州1年目のシーズンに、3試合に1得点のペースで得点を奪っていた中村が、なぜシーズン途中に出場機会を失い、1年でチームを去ることになったのか。中村にオンラインインタビューを行うと、彼がもまれた欧州の厳しさと現実が浮き彫りになった。(取材・構成 金川誉)

 インタビューを行った7月20日の時点で、すでにSTVVで練習試合にも出場し、新チームへの適応を急いでいる中村の表情は明るかった。

 「トウェンテに残れないとわかってからも、欧州に残りたい気持ちがあった。そこですぐにSTVVが手を挙げてくれて。僕のことを追いかけてくれていたのはうれしかったですし、欧州でステップアップした日本人選手が複数出ていますし、環境もいい。日本人選手も僕の他に4名いますので、なじみやすい感じもあるのかなと思います」

 18年にG大阪でプロデビューを果たし、昨年7月にオランダ1部のトウェンテに2年の期限付き移籍。リーグデビューとなった8月3日のPSV戦で先発すると、前半8分に左サイドから中央を切り込み、右足を振り抜く得意の形でいきなり初ゴールを奪った。好スタートを切ると、12月1日のアヤックス戦でもゴール。リーグ戦はウインターブレークまでの18試合中13試合で先発し、10月のカップ戦でも2ゴールと半年間で計6得点を挙げた。

 「ウインターブレーク前までは、本当に思い描いていたとおりにきていました。いや、思い描いたのはもうちょっと上でしたけど…。欧州の1年目にしては順調だったのかなと感じていて。さあ後半戦、となったときに、試合に出られなくなってしまいました」

 その理由のひとつが、トウェンテが冬の移籍市場で、アヤックスからFWノア・ラング(21)を期限付き移籍で獲得したことだ。オランダの世代別代表に選出されているラングは、名門アヤックスでも将来を嘱望されている逸材。中村はウインターブレークが明けると、ポジションの重なるラングに左FWの位置を奪われる形になった。

 「チームが負け始めていたので、何かを変えるという意味で僕を変えてみたのかな、という気もします。それでも何とかポジションを奪い返そうと、セカンドチームでアピールして、ハットトリックした試合もありました。(セカンドチームでは4試合6得点)。でも、トップチームでの評価にはつながらなかった。後半戦に出場機会が激減したことには納得はしていません」

 ラングはトウェンテ加入後、リーグ戦7試合で1得点。決して目立った成績を残したわけではない。それでもシーズンが中断するまで、常に先発起用された。欧州ではビッグクラブが期待の若手選手をレンタル移籍させる際に、一定数の試合出場を契約に盛り込む、ということがある。ラングがそういった契約を結んでいたかは不明だが、中村は後半戦、ほとんどチャンスを与えられることはなかった。

 そんな中でも、中村は出番を求めてトレーニングに向き合い、アピールを続けた。しかし状況を変えることができないまま、新型コロナウイルスの影響によるシーズン終了が決定。その後、2年間の期限付き移籍で加入していたトウェンテと、1年で契約解除することが決まった。新型コロナウイルスによるクラブの収入減が大きな理由の一つと推察されるが、オランダ紙には中村がチームになじめず、メンタル的に打ちのめされたことが理由、という記事が掲載された。

 「色々な記事を書かれたりもしましたけど、海外にいって日本人が当たると言われる壁はなかったですね。親友と言えるような仲間もできて。チームの雰囲気もよく、選手も仲が良かった。試合に出られないこと以外は、まったくストレスはなかったんです。自分からどうこう言うつもりもなかったですけど、こういう場で質問をもらったので、メンタル的に打ちのめされたというのは否定したいなとは思います」

 日本人が最初にぶつかる壁と言われる欧州の環境には適応し、オランダで一気にブレーク、さらにレベルの高いチームへのステップアップを目指していた中村。自身ではコントロールできない現実の厳しさを味わうこととなったが、一方で選手としての未熟さも痛感していた。

 「フィジカル的な部分です。それは体のごつさ、コンタクトの強さ、といった部分も含めてですけど、それ以上に高強度のプレーを攻守において繰り返すこと。やっぱり僕の中では強度が一つのキーワードかなと思います」

 主にウイングプレーヤーとして、サイドからの仕掛けやフィニッシュを武器にしてきた中村。しかしオランダでは「切り替えが早い中で、強度、体全体のスタミナを高めていく必要はある。技術うんぬんより、ハイインテンシティーの中でプレーする体づくりが必要」と感じたという。

 そして現在は「強度」に重点を置き、STVV移籍後もトレーニングを積んでいる。

 「オランダではいろいろ模索していましたけど、まだ確信は得られていなかった。STVVにきて学んだ高強度のトレーニング方法が、僕に合っているな、と思ったので。すぐにばんと上がるわけではないですけど、3か月後ぐらいには、変わってくるんじゃないかなと」

 成長への糸口は、おぼろげながらも見え始めている。

 オランダでの1年間は、悔しい思いとともに、大きな経験として脳裏に刻まれている。最も印象に残った選手は、アヤックス戦でマッチアップしたモロッコ代表MFハキム・ツィエク(27)。来季はプレミアリーグのチェルシーへ移籍するテクニシャンに衝撃を受けた。

 「体は細いんですけど、ものすごいテクニックとスピードがあって、キックの精度もあった。きゅきゅっというボディーフェイクから、詰める前にパスが出てしまう。ボールに触れなかった。するすると抜けてくるというか、そんな感じでした」。ツィエクの他にも、日本では見たことがないようなフィジカル自慢のDFたちとマッチアップした経験も、確かな糧になっている。

 そして迎えるベルギーでの新シーズンでは「ゴール、アシストともに2桁」という明確な目標を掲げる。「選手は、ゆっくりステップアップというより、どこかで覚醒する時期があると思う。その時期を早めたい。いかに上にいくか。僕はオランダリーグで覚醒するつもりだった。でも、できなかったので。今年こそは、という感じです」。STVVは、8月9日に2020―21シーズンの初戦を迎えた。今度は誰にも文句を言わせない結果を―。そんな思いで、中村は欧州2年目のシーズンに臨む。

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