横浜C―鳥栖で見えた「KING POWER」…喜熨斗勝史氏コラム「Coach’s EYE」

横浜C・三浦知良
横浜C・三浦知良

 国内外のクラブでコーチとして、FW三浦知良のパーソナルコーチとしても経験豊富な喜熨斗(きのし)勝史氏のネット限定コラム「Coach’s EYE」。第2回のテーマは「KING POWER」

 

 プロサッカーチームは、強くなれば強くなるほど試合数が多くなる。日本のJ1クラブの強豪は、通常のリーグとカップ戦(ルヴァン杯)、天皇杯やアジアチャンピオンズリーグを戦う。さらに、日本代表に選ばれた選手は、中断期間なしに試合をこなさなければならない。今年は新型コロナの影響で日程がさらに過密化。こんな厳しい戦いを勝ち抜くには、チームとしての体力、すなわち、コンディショニングや選手層の厚さが問われてくる。

 どのチームもリーグ戦にプライオリティーがあるので、通常カップ戦では、リーグ戦に出場機会がない選手やリハビリ明けの選手を多く起用する。しかし「カップ戦だから負けていい」というわけではない。プロチームとして、全力を尽くして勝利を奪いに行くコンセプトは同じだ。プレーしている選手たちにとっても大事な一戦に変わりはない。そこには真剣勝負の戦いがある。ルヴァン杯の鳥栖―横浜C戦は、まさにそんな一戦になった。

 この試合、前節のリーグ戦から11人を入れ替えて臨んだ横浜C。キャプテンマークを巻いたのは、53歳の三浦知良。試合前から先発出場が取り沙汰され、最年長記録を塗り替える事や密を避けたカズダンスの可能性が話題になった。

 試合は開始から鳥栖がペースを握る。鳥栖は自陣から丁寧につなごうとする横浜CのDFにプレスをかけ、ほとんどの時間を横浜C陣内でプレーする。しかし、横浜FCも4―4―2のブロック作り、鳥栖に決定機を作らせない。試合後の横浜Cの下平監督の言葉通り、カズは献身的にDFに走った。

 横浜Cは守りに時間を取られながらも、10分を過ぎたあたりから、単発ではあるが攻撃のチャンスを作り始める。特に、カズとはグアム合宿からトレーニングを共にしてきたMFの瀬沼はアグレッシブに攻撃に関わるプレーを見せる。昨年末からのグアムキャンプでは常にカズに指導を仰ぎ、プロの何たるかを叩きこまれてきた瀬沼。左足で放ったシュートは、決して「ナイスシュート」ではなかったが、今まで試合に出られなかった思いと、カズの記録更新試合にかける強い思いが前面に出たプレーだった。カズの最大の見せ場は、前半30分。右サイド斎藤からのクロスに、飛び込んでのヘディングシュート。キーパーにキャッチされてしまうが、可能性を感じさせるプレーを見せた。

 試合は0―0のまま後半を迎え、後半18分にカズはベンチに退いた。もう少し、前を向いてアグレッシブに突破するプレーがあっても良かったとは思うが、シンプルに攻撃の起点になるプレーに徹し、チャンスメークに貢献した。

 その後、両チームとも交代で外国人選手を投入するまで、枠を捉えたシュートは、前半のカズのシュートのみとパッとしない展開が続く。しかし、レアンドロ・ドミンゲスとイバを連続投入した横浜Cに、鳥栖のDF陣がやや混乱を見せる。ここで気を吐いたのが、瀬沼だった。後半ロスタイム1分。絶妙な志知のクロスに頭で合わせたゴールで試合を決定づけた。得点後、一目散にベンチで見守るカズのもとに駆け寄って喜びを表現する瀬沼の顔には、この試合にかける思いを結果にした充実感が溢れていた。

 前述したように、カップ戦といえども「負けてもいい」訳ではない。特に連敗が続いているチームにとって、その勝利はチームに力を与えてくれる。11人を入れ替えて臨んだ横浜Cの勝利は、今日プレーした選手のモチベーションを上げ、リーグ戦に出場しているメンバーに危機感を与える絶好の薬になったはずだ。その効果は、下平監督の試合後のコメント「今日のメンバーがリーグ戦に絡んでくる」にも表れている。この1勝を転機に、リーグ戦での勝利を目指してほしい。

 多分、自分が10歳くらいの時だったと思う。小さなブラウン管のテレビで観る、三菱ダイヤモンドサッカーを楽しみにしていたのを覚えている。ちょうどその頃、TOSHIBAのKING POWERという電池があった。CMのキャッチフレーズは「長持ちする乾電池。KING POWER」。子供ながらに、その電池のパワーに心を動かされたのを覚えている。横浜Cには「KING POWER」がある。キャプテンマークを巻き、試合後には自分の記録更新よりも、チームの勝利に対する「責任」を口にする電池だ。そのパワーを保つための努力は、並大抵ではない。サボることなく練習し、よく休んでまた練習する。まさに放電と充電を50年以上繰り返し続けている。彼のパワーは、時に人に伝わり、今日のようにチームにパワーを与える。科学的に証明するのは難しいが、今日の横浜Cの勝利に、そのパワーが影響しているのは確かだと思う。「長持ちする乾電池KING POWER」。どこまで長持ちするか、楽しみだ。

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