1年は短いようで長い。特にベテランと呼ばれる年齢に達している選手にとっては、長い。東京五輪の延期を受け、引退を選んだ選手もいれば、指導者を代え心機一転した選手もいる。手術に懸けた選手もいた。
レスリング女子76キロ級で代表を決めている皆川博恵は、6月下旬に右膝半月板の手術を受けた。2年前から慢性的に痛みを抱えていた箇所は、3月に入り悪化。「五輪が8月だし、手術するわけにいかないと思っていた」。1年の猶予ができたことで決断した。ベストな自分で夢舞台に臨むために、思い切った。
19日に33歳を迎える皆川は、東京大会が初の五輪になる。寡黙で実直。「遅咲き」「苦労人」のワードがピタリとはまる。16年リオデジャネイロ五輪の代表選考が懸かった15年世界選手権の3週間前に左膝の前十字じん帯を断裂し、出場がかなわなかった。引退試合のつもりで臨んだ17年の世界選手権で初の銅メダルを獲得し、東京五輪を目指すことを決意した。
銀メダルを手にした昨年の世界選手権では、決勝進出で東京五輪代表を決めるとうれし涙を流した。「ずっと夢だったので、五輪に出ることが。それだけの練習をしてきたつもり」。世界のパワーに対抗するために、肉体改造にも取り組んだ。苦しいことを苦しいと思うことなく、強くなるための過程を歩んできた。
年齢を心配する声にも動じることはない。「1年延びたからといって体力や技術が落ちる感覚もない。まだまだ精神的にも体力的にも向上していくような感覚がある。1年後に、去年の世界選手権以上にいいレスリングを見せられるんじゃないかと思う」。現在はリハビリと、上半身のトレーニングに励む日々。日本女子初の最重量級金メダルへ、想定外の1年を進化の時に変える。
◆高木 恵(たかぎ・めぐみ)北海道・士別市出身。1998年、報知新聞社入社。紙面レイアウト担当、ゴルフ担当を経て、2015年から五輪競技を担当。16年リオ五輪、18年平昌五輪を取材。
コラムでHo!とは?
スポーツ報知のwebサイト限定コラムです。最前線で取材する記者が、紙面では書き切れなかった裏話や、今話題となっている旬な出来事を深く掘り下げてお届けします。皆さんを「ほーっ!」とうならせるようなコラムを目指して日々配信しますので、どうぞお楽しみください。