名古屋・柏戦から見た「費用対効果」…喜熨斗勝史氏コラム「Coach’s EYE」スタート

1日の名古屋戦で決勝ゴールを決め喜ぶ柏・オルンガ(右、左から名古屋・中谷進之介、稲垣祥)
1日の名古屋戦で決勝ゴールを決め喜ぶ柏・オルンガ(右、左から名古屋・中谷進之介、稲垣祥)

 国内外のクラブでコーチとして、FW三浦知良のパーソナルコーチとしても経験豊富な喜熨斗(きのし)勝史氏のネット限定コラム「Coach’s EYE」がスタート。初回のテーマは「費用対効果」

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 互いに3連勝同士の対決となった名古屋と柏の一戦。名古屋は、昨年度の人件費が約40億円でJクラブ全体の2位。対する柏は、約30億円とJ2(昨季)の中では断トツの1位であり、Jクラブ全体でも5位を誇る。今年の予算はまだ公開されていないし、新型コロナウイルスの影響が多かれ少なかれあるはずだ。ただ、推測ではあるが、両チームとも、今年もそれなりの資金を勝ち点獲得のために費やしているはずだ。まさに日本におけるビッククラブ同士の対戦である。

 昨年度の名古屋は37ポイントしか取れず、1勝に3億円以上費やしたにも関わらず、13位と降格争いをしてしまった。優勝した横浜Mが約27億円で70ポイントと約1億円で1勝していたことを考えると、金銭的費用対効果は褒められたものではない。対する柏もJ2では約1億円で1勝することができたが、今年の舞台はJ1。2011年、昇格後の1年目に勝ち点71を奪っての優勝を再現できるか、サポーターにとっては楽しみな年になりそうだ。ちなみにその時の柏の監督は今と同じネルシーニョ。勝ち点1差で優勝を争ったのが、ストイコビッチ監督率いる名古屋だった。ベンチに座ったその戦いを懐かしく思いながら、そんな因縁の試合を見守った。

 試合はホーム、名古屋のキックオフ。お互いに攻撃時は4―2―3―1、守備時は4―4―2とベーシックなシステム同士のミラーゲーム。初めの15分は柏が攻めるも、チャンスを生かせず。名古屋も20分過ぎから相馬、前田、マテウス、金崎が積極的に攻めるがチャンスを決めきれず。人件費と同じく、拮抗したゲーム展開のまま前半を終えた。

 後半になると、徐々に名古屋のアフターチャージが目立ち始める。柏の球回しに徐々に苛立ちが見られるようになってきた。柏は攻守の切替えが早く、ボールを失うと前からプレス、名古屋がプレスをかわすと、8人がボックス内まで即座に戻る徹底した戦術が目を引いた。しかし、0―0のスコア通り内容はほぼ五分。ちょっとしたミスがピンチを招く緊迫した好ゲームになった。試合後のデータでもパス数445対454、オンターゲットショット3対4、ボールポゼッション49%対51%と緊迫した展開だったことがわかる。試合を分けたのは、ほんの一瞬。名古屋のCB丸山がサイドに引き出されたところでCBの中谷とSBの成瀬の間にポジョションを取ったオルンガが難しいクロスを足裏キックで決めて決勝点を奪った。試合はそのまま終わり、柏が勝ち点3を奪って3連敗後の4連勝。前述の金銭的費用対効果を上げることに成功した。名古屋も結果は敗戦だが、ここ4試合での失点は、今節の1点のみと好調であることに変わりはない。1試合少ない名古屋は、現時点で実質上2位の可能性を残している。

 試合を分けるのは、今日のような僅かな違いである。08年にS級ライセンスの海外研修でイングランドに出向いたとき、当時プレミアリーグ中位のフラムの監督、ロイ・ホジソン氏(元イングランド代表監督、今季はクリスタル・パレス監督)が面白いことを言っていた。「私は、プレミアリーグの選手やコーチたちを本当に尊敬しているんだ。なぜなら、もし、安いオンボロ車を買ったら、多少音がしても、警告灯がついても、そこは我慢できるだろ。でも、大金をはたいて高級車を買ったら、ちょっとした音や不具合で、即クレームだろ。要するに、我々プレミアリーグの監督やコーチ、そして選手は費用に対する効果を絶対に出さなければならないんだ。いいものや評価を得るためには、お金がかかる、しかし、かかった分だけの効果を出せなければプロとして失格だ。プレミアの選手やスタッフたちは、一生暮らせるだけのサラリーを1年でもらえるのに、日々に満足せず、ちょっとした事にもこだわって毎日を過ごしている。練習や日々の生活そのものに責任があるからなんだ。そんな、素晴らしい選手たちと仕事ができることは、本当に誇らしい。日本にもそういう時代が来るといいな」。どんな状況でも満足せず、わずかな違いを生み出す大切さを忘れてはいけないということを実感させられた瞬間だった。

 この日の試合は、日本のビッククラブ同士の真剣勝負にふさわしい良い試合だったと思う。ガラガラのスタジアムに響く選手たちの声は真剣そのもの。技術、戦術そして体力的にも、日本のトップレベルを感じさせる展開が90分続いた。サッカーは3―2が面白いというが、コーチ目線で見ると0―1のこの試合は、とても面白く、勉強になる試合だった。しかし、プロとして今年、最も忘れてはいけない費用対効果は、新型コロナの影響でスタジアムに足を運べないサポーターや、サッカーが思うようにできない子供たちに、どれくらいの笑顔と幸せを運べるのかということだ。見ごたえのある試合をした両チームとも、今年のシーズン終了後にどれくらいの費用対効果が出ているか楽しみだ。OBコーチとしても、名古屋には去年の轍は踏んでほしくない。(喜熨斗 勝史)

 ◇喜熨斗 勝史(きのし・かつひと)1964年10月6日、東京都生まれ。55歳。95年に平塚(現・湘南)で指導者のキャリアをスタートさせ、C大阪、浦和、大宮、横浜C、名古屋などで指導。昨季は、中国1部の広州富力で、ストイコビッチ監督の下でコーチを務めた。04年からは、FW三浦知良(横浜C)のパーソナルコーチとしても活躍中。

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