陸上界が迎えた真夏のシーズンイン 聞こえたのはたくさんの「ありがとう」

東京選手権のスタッフがスターティングブロックを消毒
東京選手権のスタッフがスターティングブロックを消毒

 これまでの日常がどれだけありがたかったのか、痛感した3か月だった。何もかもが様変わり。一方で、今まで当たり前だったことを見直す機会が増えた。

 真夏のシーズンインを迎えた陸上界。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発令後は、6月末までの競技会が全て延期や中止となった。日本陸連は競技会再開のガイドラインを策定。7月4日に開幕したホクレンディスタンスチャレンジシリーズ(北海道)から、本格的に再出発した。

 初戦となったホクレン士別大会を取材した。無観客の試合は、今までの競技経験でもなかった。記者席として開放されたスタンドには、トラックを駆ける選手たちの足音が驚くほど響いた。いつもなら声援にかき消されて聞こえないはずの息づかいまでも、耳に届きそうな、不思議な感覚。だが、走り終えた選手たちの第一声は「開催していただいてありがとうございます」だった。

 1戦1戦の大事さを再認識した選手たちは、その後のレースでも好記録が続出した。昨秋のドーハ世界陸上女子5000メートル代表の田中希実(20)=豊田自動織機TC=が3000メートルで日本新をマークしたほか、自己記録を更新する選手も多かった。1人1人の緊張感、集中力の高さが結果に表れ、続くランナーたちにも好影響を及ぼした。俗に言う「いい雰囲気」を報道陣も感じていた。

 レースに飢えていたのは、トップ選手ばかりではない。全国中学校選手権やインターハイが中止。各地で代替試合が開催されつつある。23日から4日間にわたって行われた東京選手権もその1つ。小学生から高校生までの部門も設けて、パフォーマンスの場を作った。無観客ではあったが、ライブ配信も実施。同じように開催したホクレンシリーズが良い手本になっていた。

 だが、ホクレンシリーズとは異なって、中長距離種目以外も実施する東京選手権では、運営にも独自の工夫が必要だった。報道陣にはフェイスシールドを配布。競技会中のタイムスケジュールを記入して、どこで選手と接触したかを報告するシステムになっていた。選手たちも導線が厳しく設定され、接触を避けるために基本的に一方通行となっていたため、忘れ物をしても遠回りしなくてはならない。不慣れな点に戸惑う場面もあったが、現場やSNS上でも、やはり「ありがとうございます」があふれていた。

 運営側も苦労を重ねていた。マスク、ゴム手袋を着用。短距離種目の際に使用されるスターティングブロックは、1レース毎に消毒した。招集所やゴール後のミックスゾーンも密を防ぐために誘導するなど、細部までこだわった。

 大会は開催するために手を尽くしたスタッフたちによって成り立つ。結果として中止という判断を下すとしても、「どうしたら試合ができるだろうか」と選手たちのために舞台を作ろうとしている。男子800メートル前日本記録保持者の横田真人氏(TWOLAPS)らが発起人となって行われている、中高生によるバーチャルレース「バーチャレ」も、知恵と工夫はもちろん、「表現の場を作りたい」という思いがあって初めて実現したものだと感じている。

 これまで通りとはいかないが、多くの人の熱意と努力によって1歩を踏み出した陸上界。日常が、ほんの少し戻った。(陸上・マラソン担当 太田 涼)

コラムでHo!とは?
 スポーツ報知のwebサイト限定コラムです。最前線で取材する記者が、紙面では書き切れなかった裏話や、今話題となっている旬な出来事を深く掘り下げてお届けします。皆さんを「ほーっ!」とうならせるようなコラムを目指して日々配信しますので、どうぞお楽しみください。

スポーツ

NEWS読売・報知 モバイルGIANTS ショップ報知 マガジン報知 バックナンバー申し込み 個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真販売 法人向け紙面・写真使用申請