新宿の劇場で起きた新型コロナウイルスのクラスター現象に、ブログで怒りをあらわにして注目された歌舞伎俳優・尾上松緑(45)。演劇担当記者の間では、松緑のブログが時々、刺激的な内容になることは、それなりに知られていた。基本的にまっすぐで熱い人間なのだろう。
松緑は、父(初代尾上辰之助、87年没)、祖父(2代目松緑、89年没)を早くに失い、14歳で「劇界の孤児」となった。名門であっても歌舞伎界で生きていくためには後ろ盾は不可欠とされる。計り知れない孤独と闘いながら歩んできた。
2017年のインタビュー。ポツンと「歌舞伎が憎い」と言った。真意を計りかねていると、「(大きな名跡の)松緑という名前は正直、まだ自分にふさわしくないと思うことがある。祖父、父に本当に申し訳ない。親不孝、祖父不幸な役者なんです」と悔しさをにじませ、自分を責めた。
そしてこう続けた。「役者仲間や先輩で『歌舞伎が大好き』と言える人がうらやましいんです」といい、「責任を持つ大変さ、つらさ。僕も歌舞伎は好きです。でもそれと同じくらい憎いんです。でも自分で選んだ道。もがいて、もがいてやっていくしかありません」。
ストレートな表現を活字にするとき、誤解を招きかねないことがある。しかし、こちらの不安を見透かしたかように「そのまま、厳しく好きに書いてもらって構いませんので」とも言った。こういう生き方しかできない人なのかもしれない。今回のブログ発言で「尾上松緑」を知った人もいるだろう。どんな役者なのか。実際の舞台を見てみれば、また違った発見ができるでしょう。(記者コラム)
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