サンキュータツオ、「これやこの」で喜多八、左談次両師匠との“別れ”を書いた理由

「これやこの サンキュータツオ随筆集」を出版したサンキュータツオ(カメラ・橘田 あかり)
「これやこの サンキュータツオ随筆集」を出版したサンキュータツオ(カメラ・橘田 あかり)

 お笑いコンビ「米粒写経」のサンキュータツオ(44)が「これやこの サンキュータツオ随筆集」(角川書店、1540円)を出版した。自身がキュレーターを務める「渋谷らくご」(ユーロライブ)で出会い、深く関わった柳家喜多八師匠、立川左談次師匠との“別れ”を独特のタッチで描いた。その他にも子供の頃から経験した周りの人の死について表現した全17編の随筆集。「死に至るプロセスを書き残したかった」と語る著者の思いを聞いた。(高柳 義人)

 淡々と理路整然とした口ぶりでサンキュータツオは言葉を選ぶ。「もともとは水道橋博士さんから『メルマガに何か書きなさい』と“メルマハラスメント”を受けまして。お笑いのこととかを書いていたけれどネタが尽きた」。締め切りに追われ、書きたいものに向き合った。「同世代の人と話していると、身内の死を経験したことがない人が多い。おじいさんやおばあさんと同居していなくて、死にゆくさまを見たことがない。ボクは小さい頃から周りの人が死んでいて、いまだに思い出すんですが、死は生きている人に必ず影響を与える。そのたまったものを出したいと…。心の便秘解消ですね」

 メルマガを加筆修正し書き下ろしも加えて出版した。その中でも、スペースを割いたのが、2016年に亡くなった柳家喜多八師匠と、18年に亡くなった立川左談次師匠の2人の落語家とのエピソードだ。サンキュータツオはキュレーターとして初心者向けの落語会「渋谷らくご」を14年に始めた。2人が、がんという病気と闘い、余命が短いことを知りながら最後まで高座に上がり挑み続けた姿を淡々と描いている。珠玉のエピソードをちりばめながら、どこかで俯瞰(ふかん)し、それでいて内に秘めた尊敬の念が行間から漂う。

  • 小学2年の時に父親を亡くしたサンキュータツオ

    小学2年の時に父親を亡くしたサンキュータツオ

 2人は落語通ならば間違いなく知っているが、万人が知っているという存在ではない。「50年後の落語の教科書には(古今亭)志ん朝師匠、(立川)談志師匠は載ると思う。(2人は)そこにたどり着く前に亡くなってしまった。本来であれば、あと10年で黄金期を迎えてキャリアの締めくくりをする方々。どの時代にもこれからという時に亡くなる方はいる。同じ時代に生まれて同じ空間を共有した人が語らないと、あっという間に忘れられてしまうという危機感があって、死に至るまでのプロセスを書きとどめておきたいと思いました」

 今でも高座に上がる姿が目に浮かぶ。「体力が限られて人前に出るのもはばかられる姿になっても、笑わせる自信があるという。死を意識してからも光り輝いた。それはそれまで積み上げてきたキャリアがあるからできることで、ずっと落語のことを考え続けた師匠方だった。最後まで光り輝き続けていましたね」

 サンキュータツオは小学2年の時に父親をがんで亡くしている。「死に方が良かったというか、ちゃんと苦しんでひからびて死んでいった。苦しんだ父親を見て、人はこうしてリアルに死んでいくんだというのが分かった。死に至るプロセスを見届けるのも残された側の務めだと思うんです」

 今では核家族化も進み、3世代同居の家庭は数少なくなり、医療の発達もあり死を見届けることが減っている。「死に対して鈍感になると、人の痛みに対して鈍感になる。SNSで『死ね』と有名人を誹謗(ひぼう)中傷するのも鈍感な人。社会全体がそうなっている」と危惧する。

 身近な人が亡くなることで残された人はどうするべきか。「『あの時、何で言わなかったんだ』といった後悔って悪いことでないと思うんです。人は亡くした『心の穴』を埋めようとするんですが、それは無駄な抵抗でしかない。穴はふさがらないし、地面に雨が降ってしみ込んでいくようなもの。心の穴と後悔を抱えて生きていくのが運命だと思うんです」

 サンキュータツオが紡ぎ出した随筆は死をテーマにしながら不思議と悲壮感はない。収められた「鈍色の夏」では京都アニメーション放火殺人事件に大きなショックを受けながらも、元DeNAで社会人野球JFE東日本に進み都市対抗で神がかった投球を見せた須田幸太に救われた様子をつづっている。「須田のピッチングで生きる希望がわいた。躍動する姿を見て元気になった」という。

 生と死は隣り合わせでもある。「この本を読んで亡くした誰かのことを思い出してくれればいい」。サンキュータツオは静かに語っている。

 ◆サンキュータツオ 1976年6月21日、東京都生まれ。44歳。早大第一文学部卒業後、早大大学院文学研究科日本語日本文化専攻博士課程後期課程修了。文学修士。早大落語研究会の先輩・居島一平(おりしま・いっぺい)とお笑いコンビ「米粒写経」を結成。2018年にオフィス北野からFA宣言し、ワタナベエンターテインメントに移籍。ボーイズ・バラエティー協会、落語協会に所属し寄席にも出演。一橋大、早大、成城大で非常勤講師を務める。著書に「もっとヘンな論文」など。

 ◆「渋谷らくご」は有観客有料配信中

 サンキュータツオがキュレーターを務める「渋谷らくご」は東京・渋谷のユーロライブで毎月第2金曜日から5日間、行われている。「初心者向け」として、二ツ目がトリを取ったり、既存の概念にとらわれない試みでファンを獲得してきた。コロナ禍の状況でもいち早く有料配信に挑戦。現在は観客を入れた中で有料配信も行う「ハイブリッド」を取り入れている。「演芸の面白さは多様性を共有することだと思う。本当に好きな人は、より好みをしないと思う」と語っている。

「これやこの サンキュータツオ随筆集」を出版したサンキュータツオ(カメラ・橘田 あかり)
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