「野球だけが全てじゃない」…元メジャーリーガーのマック鈴木氏が“第2のマック”育成に取り組む!

野球教室で子どもたちと向き合うマック鈴木氏(左)
野球教室で子どもたちと向き合うマック鈴木氏(左)

 日本人で初めてNPBを経由せずメジャーリーガーとなったマック鈴木氏(45)が、個性あふれる教育論で“第2のマック”育成に取り組んでいる。英語のみで指導する野球教室や運動教室を主宰。その指導の根底には、16歳で高校を中退し、8か国を渡り歩いた漂流者だからこそ言える「野球だけが全てじゃない」とのポリシーがあった。(企画・構成=長尾 隆広)

 関西独立リーグでプレーした2011年を最後に現役を引退したマック氏は現在、まもなく開幕する米大リーグのテレビ解説や野球の指導者として活躍している。新型コロナウイルスの感染拡大でほとんどの仕事が休止状態となったが、ようやく戻りつつあるという。

 「約2か月間の自粛期間はほとんど仕事が止まっていました。現在はほぼ戻り、履正社スポーツ専門学校(大阪市)で投手コーチとして指導したり、東京で英語野球教室(現在一時休止中)、兵庫で英語運動教室、企業を対象にした英会話教室なども運営しています。メジャーが開幕すれば、解説者として活動させてもらう予定です」

 英語だけで指導する野球教室を始めたきっかけは、日本のプロ野球を経由せずに渡った米国など、8か国で野球をした経験だ。

 「8か国で野球をやりましたが、全て通訳はいなかったんです。メジャーで野球ができたのは素晴らしい経験ですが、何より英語が話せるようになったのが人生の幅と選択肢を広げてくれました。世界に行っても物おじしなくていい。現地の人と直接会話すればフラストレーションもないし、直接話せるのはおもしろいですよ。例えば高3の夏が終わって燃え尽きてしまい、その後何のために生きていくのか分からなくなってしまう子もいる。ベンチに入れず試合に出られない生徒もたくさんいる。その子たちが『野球をやって楽しかった』と思って欲しいし、野球をやってたら自然と英語も話せるようになったらいいなというのがきっかけなんです」

 英語野球教室では技術向上よりもコミュニケーションを重視。子どもの自主性や行動力アップに力点を置く。

 「基本的に教室内では全て英語でコミュニケーションを取る、会話する。体を動かしながら考えることで、積極的な性格になるよう促し、よりその子の自主性を伸ばしていきたいと考えています。ただ、やはり子どもなので感情の起伏が激しいところに難しさは感じます。だからこそ野球がうまくなるならないも大事ですが、それ以上に『何かいつもと違う』とか『機嫌がよくないな』とかを感じ取ろうとはしています。学校で嫌なことがあっても、ここに来たら機嫌よく家に帰られるような場所にもしたい。頭ごなしに怒ることもないし、雰囲気づくりは大事にしています」

 甲子園やNPB、メジャーを志す選手にこそ英語の重要性を説く。

 「それこそ甲子園常連校の練習量は尋常じゃない。甲子園を目指すような子どもたちは『今なんで英語が必要なの?』ってなるはずです。でも例えば中学時代に国際大会のメンバーに選ばれたとか、学校に外国人の先生が来たとかするじゃないですか。そこで会話ができれば少し人生が変わってくる。周りも『野球やってるだけじゃないんや』と思う。そういう子どもたちを、少しでも育てる手伝いができたらと思うんです」

 春のセンバツに出場予定だった高校の交流試合は開催されるが、今夏の甲子園は中止。マック氏は高校球児を思いやりつつも、広い視野を求めた。

 「本当にかわいそうだけど“当たり前が当たり前じゃない”というのが現実になった。もし自分の子どもがそこを目指していたら寂しいなとは思いますが、野球だけがクローズアップされている部分もある。自分の子どもなら『お前だけじゃないよ』と伝えたい。インターハイも他の競技も中止。冷静な判断と平等な目線で、子どもには諭すと思います」

 日本のプロ野球を経験せずメジャーに直行したからこそ見えた日本の良さもある。育成環境だ。

 「Jリーグのように、NPBで少し経験値を上げてからメジャーに挑戦する選手が増えている。いろんな意味で力を蓄えてメジャーに挑戦できる、ステップアップの場になってるのがいいと思います。なぜかと言うと(エンゼルスの)大谷(翔平)君みたいな身体能力を持ってる選手というのはたくさんいる。でも自分の調整方法なんてプロ1年目から分かるわけがないんです。日本は寮に入れて、1年間給料をもらえて、練習できる環境を整えてくれるのがすごく良いこと。花巻東高からすぐメジャーに行っていたら、また違った大谷君が生まれていたとは思いますけど…。高卒で米国に行けば人間力は伸びるけど、野球となると別です。ホームシックやけが、コミュニケーションが取れず、有望視されていても消えていった選手もたくさんいますから」

 米国で経験した野球は、決して華やかな面ばかりではなかった。地をはうような思いでプレーする選手がいたことも、マック氏は率直に伝えている。

 「米国のマイナー選手は一般社会と共存しながら生活していることが多いんです。医療従事者に戻るとか、戦争が始まったら軍隊に行くとか。安い給料でも、家族を持っていたら二重生活。生活していかないといけないからオフの間は働くんですよ。その上で夢を追いかけている。逆に言えば野球がなくなっても、すぐそっちの世界に戻れる。日本は良いところでも悪いとこでもありますが、ずっとチームにいることができる。その生活を5年経験したらもう戻れません。子どもたちには、その時のことを考えながら生活してほしいと伝えています」

 ◆マック鈴木(本名・鈴木誠=すずき・まこと)1975年5月31日、兵庫県生まれ。45歳。滝川二高を中退し、16歳で渡米。93年にマリナーズと契約。96年にNPBを経由しない日本人選手として初のメジャー出場を果たす。02年までに延べ5球団でメジャー通算16勝31敗。03年にドラフト2位でオリックスに入団し、2年間で5勝15敗。その後はメキシコ、台湾、ドミニカ共和国などでプレーした。現在は東京、神戸での野球教室や、淡路島のスポーツジム「サンライズマックジム」の顧問などを務める。

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