史上2人目の2冠王となったEVIL…有観客で大会再開・新日本プロレスの主役に躍り出た男の魅力とは

11日のNJC決勝でオカダ・カズチカに急所攻撃。ダーティーなファイトで初優勝を飾ったEVIL(新日本プロレス提供)
11日のNJC決勝でオカダ・カズチカに急所攻撃。ダーティーなファイトで初優勝を飾ったEVIL(新日本プロレス提供)
12日の2冠戦で内藤哲也を撃破、IWGPヘビー、インターコンチネンタルの2つのベルトを掲げるEVIL(右はマスクを着けたディック東郷=新日本プロレス提供)
12日の2冠戦で内藤哲也を撃破、IWGPヘビー、インターコンチネンタルの2つのベルトを掲げるEVIL(右はマスクを着けたディック東郷=新日本プロレス提供)

 身長178センチ、体重106キロ。「EVIL(邪悪)」というリングネームを持つ巨漢レスラーが「ウイズ・コロナ」での大会再開の道を選んだ新日本プロレスの主役の座に躍り出た。

 新型コロナウイルスの感染再拡大の中、6月15日から無観客、会場非公表での大会再開を選んだ新日が11、12日の両日、ついに西の格闘技の殿堂・大阪城ホールでの有観客試合に踏み切った。

 2月26日の沖縄大会以来136日ぶりの観客を入れての興行。観客は入場時に消毒を徹底。チケットの半券には住所、名前の書き込みが義務づけられた。入り口で「大阪コロナ追跡システム」のQRコードも会場に掲示し、自身のメールアドレスを登録する形に。座席もソーシャル・ディスタンス確保のため、前後左右に1メートルの間隔を空け、1人おきの着席。大声での声援も自粛を促され、拍手での応援に。場内には「不要な移動はお控え下さい」というアナウンスが再三、流された。

 11日は同ホールのキャパシティー1万6000人の21%弱の3318人、12日は同じく24%弱の3898人の観客の前で展開されたのが、一人の中堅レスラーの下克上のドラマだった。

 「キング・オブ・ダークネス」の異名を持つEVIL(33)は、これまで内藤哲也(38)率いる大人気ユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」(LIJ)の4番手に甘んじてきた。

 ユニット内にIWGPヘビーとインターコンチネンタルの2冠王の内藤、スター性抜群の実力者・SANADA(32)、NEVER無差別級王者・鷹木信悟(37)が君臨。昨年12月に首骨折による1年4か月の長期離脱から復帰、IWGPジュニアヘビー級王座を奪還した高橋ヒロム(30)にまで追い上げられる“尻に火がついた”状態だった。

 新日生え抜きでパワーは抜群。スピードも兼ね備え、以前から周囲の期待も高かった男が、無観客で開幕した最強決定トーナメント「NEW JAPAN CUP2020」(NJC)」で完全に一皮むけた。

 「勝つためにはなんでもやる。何がなんでも優勝する」との言葉の通り、場外乱闘、凶器攻撃、急所攻撃と、なんでもありの汚な過ぎるファイトを展開。NJC準決勝でともにIWGPタッグ王座に輝いた歴史を持つSANADAを急所攻撃で粉砕。11日の決勝でも、オカダ・カズチカ(32)を乱入してきた「バレット・クラブ」(BC)の外道(51)と高橋裕二郎(39)の加勢を受けた上、急所攻撃で撃破。初優勝を飾った。

 その直後には15年10月から所属してきたLIJのリーダー・内藤をリング上に呼び寄せ、だまし討ちでKO。倒れ伏した内藤に向かって、「おまえとロス・インゴは腐り切っている。虫ずが走るんだ。明日、リング上で大の字になっているのは、おまえだ」とLIJと決別してのBC入りを宣言した。

 そして、12日のメインイベントとして迎えた王者・内藤との2冠戦。入場してきた、その姿に観客は息を飲んだ。

 後ろでまとめていた髪を下ろしたルックスはまるで落ち武者。新入場曲に新コスチュームの生まれ変わった姿で登場すると、場外乱闘にパイプイスでの攻撃と内藤の古傷・左ヒザを徹底的に破壊。かねてから自身の素質に目をかけてくれていた解説席のミラノコレクションA.T.さん(43)まで挑発し、場外でボコボコにしてしまった。

 最後にはBUSHIのマスクをかぶった謎の男として登場したディック東郷(50)の加勢も受け、内藤にも急所攻撃。必殺のEVIL(変型大外刈り)で3カウントを奪い、内藤に次ぐ新日史上2人目の2冠王の座を奪取した。

 晴れの有観客再開の大会で迎えた、あまりのバッドエンド。大声禁止のため、控え目な声で「帰れ!」コールとブーイングを浴びせるファンに向かって、「この俺が(NJCの)覇者で王者の3冠王だ! コノヤロー」と絶叫したEVIL。

 内藤の救出に駆けつけた24時間前までのLIJのパレハ(一味)・ヒロムが「おまえが取ったベルト、俺に挑戦させろ」と挑戦表明すると、バックステージで「いいぜ。やってやるよ。いつでも、おまえのこと、つぶしてやるよ」と、即座に、その対戦要求を受諾した。

 そして、オンラインで行われた13日の一夜明け会見でも“EVIL流”は全開となった。真っ黒なサングラスにスーツ姿でドッカリとイスに座って、会見スタート。現在の新日の2枚看板・オカダ、内藤を連破しての2冠獲得について聞かれると、「当然だろう。何が何でも優勝すると言っただろう。このオレがすべて仕組んでやったことだ。バレットクラブは史上最高のチームだ」とニヤリ。

 内藤らLIJの旧友については「あんなヤツら、腐り切っている」とたたき切って決別宣言。鷹木信悟、BUSHI(37)とともに保持するNEVER無差別級6人タッグ王座についても「あんなクソどもと持っているベルトなんていらねえんだよ!」と王座返上も口にした。

 この日、25日の愛知県体育館大会でヒロムとの間で初防衛戦を行うことも正式発表されたが、「おい、ヒロム。おまえ、病み上がりだろ。その首で俺の攻撃、耐えられんのか?」と、一抹の優しさをにじみ出させつつ、挑発する場面も。

 最後に内藤に次ぐ史上2人目の2冠王者となった気持ちを聞かれると、「そんな下らねえ質問には、俺は答えねえんだよ」と、吐き捨てて席を蹴った。

 新日を追いかけ始めて5年目。私は好試合を連発するEVILの魅力こそ認めながらも、オカダや「エース」棚橋弘至(43)、「ゴールデン☆スター」飯伏幸太(38)、そして内藤とのスター性の差に内心、やきもきしてきた。生まれ持ってのルックス、身長など、レスラーは「強さ」以外にも序列付けされる要素が多いのも厳然たる事実だ。

 私も身長191センチのオカダに自身の新日移籍時、現在は米WWEで活躍する中邑真輔(40)から「レスラーにとって、身長1センチあたり1000万円の価値があるんだぞ」と励まされたというエピソードを聞いたことがある。

 だから、EVILの熱い戦いを目にするたびに中々、大きな記事にできないことを申し訳なく思い、こんなにプロレスのうまい、素質にあふれたレスラーがLIJの4番手に甘んじていていいのか? そんなことも感じてきた。

 そんな男が非常事態にある日本マット界で、ついに一皮むけた。

 勝ちを呼び込む方法としてどうかと思う急所攻撃あり、パレハの乱入あり、長年の仲間を裏切ってのユニット乗り換えあり、それこそなんでもありの貪欲さで驚きとともに新日トップの座に登り詰めた33歳を私は断然、支持する。なぜなら、トップへの意欲とライバルへのジェラシーこそがレスラーを強くすると思うから。

 だからこそ、20日の東京・後楽園ホール大会から始まる「ウイズ・コロナ」の環境下での新日のリングをリードするのは、完全に生まれ変わったEVILしかいない。まさに「ダークネス」、独特の「悪の魅力」を振りまくヒールの姿に今、そう確信している。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆EVIL(イービル) 本名・渡辺高章。1987年1月26日、静岡・三島市生まれ。33歳。少年時代から剣道に打ち込み、高校卒業後、プロレスラーを目指し、アニマル浜口レスリング道場に入門。10年2月、入団テストに合格して新日本プロレス入り。11年5月の新宿FACE大会の高橋広夢(現在・ヒロム)戦でデビュー。13年、米国武者修行に出発。14年にはROHに参戦など活躍後、15年10月に凱旋帰国。内藤哲也の「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」にパレハ1号として加入。16年、NEVER無差別級王座、18年にはSANADA(32)とのタッグでIWGPタッグ王座についた。178センチ、106キロ。得意技はEVIL、ダークネスフォールズ。

11日のNJC決勝でオカダ・カズチカに急所攻撃。ダーティーなファイトで初優勝を飾ったEVIL(新日本プロレス提供)
12日の2冠戦で内藤哲也を撃破、IWGPヘビー、インターコンチネンタルの2つのベルトを掲げるEVIL(右はマスクを着けたディック東郷=新日本プロレス提供)
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