天国と地獄をジェットコースターのように行き来しながら、野球選手として成長してきたのが、高梨だ。
その名が球界にとどろいたのは、早大3年だった13年4月。東大戦で、1925年の東京六大学野球創設以来、リーグ史上3人目となる完全試合を達成した。埼玉の私立・川越東から大学野球の名門・早大に進学。1年春から登板し、1年秋に5勝、2年春に4勝を挙げるなど、チームの中心選手に成長し、完全試合まで成し遂げた。
だが、その後は苦しい時期が続いた。完全試合後は、左肩痛などがあり、まさかの白星なし。3年秋以降は、1勝も挙げることができなかった。同学年の有原(現日本ハム)、中村(現ロッテ)がドラフト1位でプロ入りし、1学年下の茂木(現楽天)、重信(現巨人)らも成長していくのを横目に、プロ入りを諦めて、社会人のJX―ENEOSに進んだ。
その後も試合にすら出られない状況が続いた。試合の時の定位置はスタンド。ベンチに入れず、ビデオ係を務めた。野手への転向を噂された。そこで2016年6月に「何か変えないと」とサイドスロー転向を決断。目立った成績を残せなかったが、楽天・後関スカウトの目に留まり、同年にドラフト9位で楽天入りした。
プロ入り後は再び上昇気流に乗った。1年目は開幕1軍入りすると、4月6日に12球団のルーキーで初勝利一番乗り。柳田(ソフトバンク)、秋山(西武―レッズ)、森(西武)、大谷(日本ハム―エンゼルス)近藤(日本ハム)、吉田正(オリックス)らを相手に、左キラーとしてブルペンに欠かせない存在になった。18年には70試合に登板。シーズン終了後には日米野球で侍ジャパンにも選出された。
グラウンドを離れれば、おしゃれな男。部屋にはワインセラーが置かれ、常に赤白多くのワインがコレクションされている。独身プロ野球選手とは思えないほど、調理器具を買いそろえており、料理はお手の物。今年4月にはYouTubeチャンネル「たかなし きっちん」を開設し、料理動画をアップしている。そのクオリティーの高さは、動画を見れば一目瞭然だ。
17年の入寮時には「ずっと好きだった」という、タレント・平愛梨の直筆サインを持参。長友との結婚発表直後だったが、一途な愛を訴えて、報道陣を笑わせた。昨年までリリーフだった松井とは同じ左腕ということもあって仲良し。兄弟にようにキャッチボールやトレーニングを一緒に行って、いつでも野球談義が尽きなかった。
イケメンながら独身。13日に28歳の誕生日を迎えたばかり。明るい性格で頭も切れ、ファンからの人気は高かった。強打者を抑えて、G党からもすぐに愛される存在になることは間違いないだろう。(2017、18年楽天担当・安藤 宏太)
◆高梨 雄平(たかなし・ゆうへい)1992年7月13日、埼玉・川越市生まれ。28歳。川越東高から早大に進学し、3年春の東大戦で完全試合を達成した。JX―ENEOSを経て、16年ドラフト9位で楽天に入団。プロ3年間で通算164試合に登板し、4勝5敗1セーブ、防御率1・90。175センチ、81キロ。左投左打。年俸4800万円。