「いつか大きな舞台で」 藤井聡太七段と小2から切磋琢磨、王位戦第1局記録係を務めた中西悠真三段の夢

王位戦第1局の藤井聡太七段(左)と記録係の中西悠真三段(日本将棋連盟提供)
王位戦第1局の藤井聡太七段(左)と記録係の中西悠真三段(日本将棋連盟提供)

 将棋の藤井聡太七段(17)が木村一基王位(47)に挑戦している第61期王位戦7番勝負の第1局が愛知県豊橋市で行われ、挑戦者が先勝して一夜明けた3日、記録係を務めた中西悠真・奨励会三段(18)が2日間計17時間37分に及ぶ対局の間に抱いた思いを明かした。

 中西三段は藤井の1学年上。藤井七段の地元である愛知の隣県・三重出身でもあり、小学校低学年の頃から子供大会で対戦を重ねてきた。練習将棋を指したり、日本将棋連盟の育成機関「東海研修会」でも切磋琢磨した間柄だ。「小学生の頃から聡太君…いえ、藤井先生と将棋を指してきたので、近い歳なのに目の前でタイトル戦を戦われているわけですから、すごいなあと思います」

 タイトル戦の記録係は、四段(棋士)を目指す最終段階にいる三段が務めるケースが多い。中西三段が第1局の記録係を務めることが決まったのは藤井七段が王位リーグを4戦全勝と走ってきた時。挑戦者になるまでまだ2勝が必要だったが、予感は十分にあった。

 「私もタイトル戦の記録係をさせていただくのは初めてだったのですが、もしかしたらとは思っていました。決まった時はうれしかったですし楽しみにしていましたけど、自分はまだ三段ですから。ふがいなさというか、差が開いていく一方なので自分も頑張らなくちゃと思います」

 記録係は対局中、常に盤側にいて棋譜を記録するだけでなく、持ち時間の管理をして「秒読み」を行ったり、時には空調や飲み物など対局者の要望を聞く役目もある。観戦記者も盤側に座るが、一局の開始から終了まで目の前で勝負を目撃し続ける唯一の存在でもある。今回、2日間にわたる挑戦者の様子とはどのようなものだったのだろう。

 「藤井先生は対局開始時だけ少し緊張されていた様子でしたけど、対局が進むにつれて普段通りに慣れてきて、堂々と指されているなと感じました」

 初めて経験した「封じ手」では、藤井七段が中西三段に視線を注ぐシーンもあった。

 「封じ手開封の時、立会人の谷川浩司先生が私に『ハサミをください』とおっしゃったのですが、ちゃんとハサミがあるか気になって見てくれたような…」

 記録係は重大任務だが、修業の身には最高の勉強機会でもある。特にタイトル戦は頂点のレベルに在る両対局者の将棋を長時間にわたって体感できる場所だ。

 「藤井先生は強気に攻めていく手が多くて、私が別の手を読んでいた局面でも踏み込んで行かれて、結果的に攻めがピッタリ足りていてすごく正確でした。玉頭を一気に攻めた▲4四歩の局面などは、私は手厚く指す▲4六歩などを考えていましたが『こんなに素早く寄せに行くのか…』と驚きました。恥ずかしいのですが、私は終盤でも形勢が判断できませんでした」

 初めて会ったのは中西三段2年、藤井七段1年の時だった。

 「最初から聡太君…藤井先生の方が強かった。最初に会った時、ものすごくかわいい子だなと…。私は人見知りなんですけど、藤井先生はものすごく人懐こくて、ニコニコしながら私の手を引いて将棋を指す場所まで連れていってくれたんです。将棋ではボコボコにされてしまいましたけど…内容も全部覚えてます」

 語り草になっているのは、藤井七段が小2で出場した2010年の「テーブルマークこども大会」東海大会決勝での直接対決。藤井七段は中西三段の角が自陣の角に利いているのを見落として、タダで取られてしまうという初歩的なミスを犯して敗れた。局後の表彰式で関係者の慰めにも耳を貸さずに泣き続けたことは広く知られている。

 「僕にとっても初めての大きな舞台だったので緊張していました。聡太君の強さは知っていたので、逆に動揺したことを覚えています。でも、直後に会った時に『あの手だったらどうだったかな』『こうしたら違う展開だったかな』って話をしていて、本当にすごいなと思ったんです」

 それからは、ずっと背中を追ってきた。練習将棋も含めると「100局にはいかないくらい」盤を挟んだ。

 「ほとんど勝った記憶がないです。研修会では香落ち(上位者が左側の香車なしで指すハンデ)でも負けました。練習将棋でも聡太君は他の人とは厳しさが違った。負ける時の悔しがり方も」

 藤井七段が棋士になってから、自宅に招かれて将棋を指したこともある。

 「もう軽々しくしゃべられるような人ではなくなっていて萎縮してしまったのですが、藤井先生は昔と変わらない様子で接してくれました。『どうしても奨励会で逆転負けしちゃう』と言うと『奨励会は逆転負けする場所だから。大丈夫』と言ってくれて…うれしかったです」

 18歳で三段に昇段。有望なスピードで成長を続けている。四段(棋士)への最終関門である三段リーグに今期から参加し、夢を追っている。

 「自分も棋士になって、同じ土俵で、今の自分が言うのはとてもおこがましいことですけど…いつか大きな舞台で戦えるように僕も頑張っていきたいです」

 立場として「タイトル戦」とは言えない中西三段は「大きな舞台」という表現を控えめに用いた。記録係と対局者が座っている場所の間は距離にして1メートル以上2メートル未満程度。身を乗り出して手を伸ばせば触れられる。近い。でも遠い。一歩ずつ歩んでいく。「遠いから辿り着けない」などとは誰にも言えない。(北野 新太)

 ◆中西 悠真(なかにし・ゆうま)2001年9月29日、三重県亀山市生まれ。18歳。久保利明九段門下。小学6年時に棋士養成機関「奨励会」入会。将棋を始めた頃から振り飛車党。「捌きのアーティスト」こと久保九段に幼少期より憧れ、弟子入りを志願した。「弟子にしていただいた時は、ただただうれしくて」

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