誰が木村花さんを追い詰めたのか?…契約書の存在認めたフジテレビ社長会見であふれ出た疑問

22歳の若さで亡くなった女子プロレス界の「希望」木村花さん。彼女を追い詰めたものはなんだったのか
22歳の若さで亡くなった女子プロレス界の「希望」木村花さん。彼女を追い詰めたものはなんだったのか
「テラスハウス」の問題点を検証する社内組織を立ち上げたフジテレビ
「テラスハウス」の問題点を検証する社内組織を立ち上げたフジテレビ

 1人の将来性にあふれた女子プロレスラーを死に追いやったものとは何だったのか―。集まった記者全員が知りたかったのは、その一点だった。

 3日、東京・台場のフジテレビで行われた遠藤龍之介社長(64)の定例会見。新型コロナ余波のため、記者を入れての開催は3月27日以来3か月ぶり。1社2人までに絞られた記者にも検温、消毒が義務づけられ、前列に並んだ幹部6人もアクリル板越しに返答する厳戒会見の中、遠藤社長が沈痛な表情で言った。

 「改めまして木村花さんの逝去に関して哀悼の意を表したいと思います」―。

 同局系恋愛リアリティー番組「TERRACE HOUSE TOKYO 2019―2020」(テラスハウス)に出演していた女子プロレスラー・木村花さん(享年22)が急死したのは5月23日。都内の自宅マンションのベッドで心肺停止状態で見つかり、搬送先の病院で死亡が確認された美形レスラーは、近未来の米トップ団体・WWE移籍も期待される大器だった。

 リング外でもNetflix(ネットフリックス)で先行配信され、昨年6月からはフジテレビオンデマンド(FOD)でも配信スタート、同年7月からは地上波でも放送されていた「テラハ」に昨年9月から出演。キュートなルックスと歯に衣(きぬ)着せぬ発言で人気者になっていた。

 「テラハ」は東京のシェアハウスを舞台に男女6人の共同生活を描く番組だった。花さんもネットフリックスの世界配信のおかげでプロレスの枠を超えた人気者となっていたが、3月31日に配信、地上波では5月18日深夜に放送された第38話で事件は起こった。

 花さんが「夢の舞台」と表現した今年1月4日の新日本プロレス東京ドーム大会で着用。「命と同じぐらい大事なもの」と言う10万円以上するコスチュームを入れていた洗濯機を男子メンバーが誤って操作。色あせ、縮んでしまったため、着られなくなる「コスチューム事件」が発生したのだ。

 この放送回で、花さんは男性メンバーを強い言葉で叱責(しっせき)。かぶっていた帽子を手で払うなどの言動にSNS上での批判が殺到した。

 放送後、花さんのSNSには1日100件以上の罵詈(ばり)雑言の書き込みが殺到した。花さんは23日未明に「愛しているよ」と愛猫と一緒の写真を投稿した直後に急逝。画像の上には「愛してる、楽しく長生きしてね。ごめんね」と文字を乗せ、更新したストーリーズにも愛猫との別カットの写真に「さようなら。」という文字をかぶせていた。

 今月2日発売の「週刊文春」のロングインタビューに応じた花さんの母で元女子プロレスラーの木村響子さん(43)は花さんが所属事務所を通じて番組出演時にフジと制作会社との間でかわした「同意書兼誓約書」に「(制作側の)演出意図に従う」という文言があったと暴露。「ひとりでも多くのひとに事実を知ってほしいです」と訴えた。母の悲痛な叫びの直後の会見となっただけに記者たちの質問も、この件に対するフジの対応に集中した。

 同局の番組配信の責任者でもある大多亮常務(61)は、まず「テラハ」の打ち切りが発表された5月27日に社内横断の形で構成された検証委員会が設置され、問題点を検証中であることを明かした。

 「現在、検証につきましては事実関係の精査中です。まだ終わっておりませんので、詳細については申し上げられませんが…」と前置きした大多氏は「検証のポイントは3つあります。1つは番組の制作過程において、問題点はなかったか。まったくなかったシチュエーションをあたかもあったかのように作り上げる。今回で言えば、『コスチューム事件』自体を作りあげることはなかったか。ゼロから1を勝手に生み出すようなことはなかったのか。2番目に出演者の意思に反して、行動、言動などを無理強いさせることはなかったか。3つ目が心のケアについてです」と話した。

 響子さんが明かした契約書については「契約は事務所を通じてかわしましたが、出演者にこうしなければならないと無理強いすることはなかった。損害賠償もマネジメントの方がいる場合、事務所を交えて同意した上でやっている。ゼロから一をつくる、こうしたことをして欲しいという(出演者の)感情表現、行動を曲げるということはなく、演出上の全てに従うという契約ではないです」と説明した。

 「一部で報じられているスタッフによるビンタの強要などの事実は出てきていません。一方で『テラスハウス』という番組は出演者とスタッフが多くの会話をして作り上げる撮影の中で出演者への提案やお願いはあります。あくまで相談してやっています。ただ、感情表現をねじ曲げるような指示は出していないということです」と強調した。

 花さんが番組をやめたがっていたのに、やめさせてもらえなかったという疑惑についても、大多氏は「卒業に関してもスタッフから、こうしてくれという話はない。ただ、本人への相談、提案はありました。こんな時期がいいのではないかという形で花さんの意向も踏まえて検討していたというのは、(調査の)ヒアリングを通じて上がってきました。無理強いしたことはないです」とした。

 さらに匿名で投げつけられる言葉の数々に深く傷ついていただろう花さんへのケアについても「もちろん、いろいろな形でスタッフが心のケアはしておりました。彼女の方から相談もあり、SNSも炎上していたので、こうした方がいいのではないかなど、何人かのスタッフで話を聞いていたという実態が出てきています」と答えた。

 明らかにされた契約書の存在、番組制作の現場での動き、出演者の心のケアについて現時点で判明している事実について、大多氏は、あくまで“現在、話せる範囲”ながら、真摯に答えていると、私は思った。しかし、一点だけ、どうしても聞くべきことが残っていた。

 それはテレビ局の根幹である番組編成上の問題。ネットフリックスでの配信直後から花さんの言動に多くの批判が集まっていた「コスチューム事件」の動画を番組の公式YouTubeに2か月経過した5月14日にアップし、4日後の18日には地上波でも放送。火に油を注いだ形となったことにこそ、フジの大きな責任があると思っていたから、そのまま聞いた。

 「ネットフリックスの段階で、すでに炎上が起こっていたのに、その2か月後に、はるかに影響力の大きい地上波での放送に踏み切った点に問題はなかったのか?」―

 こちらをじっと見た大多氏は「少なくともネットフリックスで配信して炎上したことは事実でありますが…」とした上で「木村花さんご本人とスタッフがいろいろな話し合いをして配信、放送したものです。(放送を)『やめてくれ』と言われたものを無理矢理、放送したわけではありませんし、話し合いの中で配信も行われたと聞いています」と答えた。

 そう、あくまで花さんの意思を確認した上で地上波放送に踏み切ったとする答えだったが、私の胸には一つの疑問が浮かんだ。

 果たして、所属するプロレス団体「スターダム」、もっと大きく言えば、女子プロレスの知名度向上も目指して、「テラハ」出演を決めた花さんに「放送をやめてくれ」という言葉が口にできただろうか。リングを離れれば、22歳の一人の女の子に過ぎない花さん。その心の揺れは「リアリティー番組」という売り文句のもと、1日中、密着して撮影を続けるスタッフこそが気づき、ケアすべきだったのではないだろうか。

 さらに言えば、「スターダム」側にも看板選手として送り出した花さんの悩みを常にすくい上げ、心の危機を察知する存在がいなかったのかと言う疑問も残る。正直、フジだけの責任とするのには無理がある。

 ただ、1人のスーパースター候補生が、その名のごとく、はかなく散ってしまった今、何をいってもむなしい。花さんの死をきっかけに政府がネット上での悪意のある投稿を抑制する制度づくりの議論をスタート、発信者特定手続きの簡素化や厳罰化へ舵を切ったという動きについても「遅きに失した」という思いしかない。

 今はただ、花さんの死から41日が経ったこの日、フジテレビの会議室で大多氏が口にした「近々、この検証結果はまとまります。ご遺族の気持ちも踏まえながら公表していく予定です」という言葉の結果を、じっと待ちたいと思う。(記者コラム・中村 健吾)

22歳の若さで亡くなった女子プロレス界の「希望」木村花さん。彼女を追い詰めたものはなんだったのか
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