MLB「新たな日常」へのチャレンジ

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 「ベースボールが戻ってくるぞ!」と、昨年の新人王でホームランキングのピート・アロンソ(メッツ)はTwitterで叫んだ。みんなが待ち望んでいた。何人もの選手がSNSで同様の雄たけびを上げた。7月1日のキャンプは目前だ。わずか60試合のレギュラーシーズンと例年通りの10チーム出場のポストシーズン。金持ち同士の激しい言葉のキャッチボール。その長引く労使交渉にイライラさせられた末にみた決着。ファンにとってはあまりに短いシーズン。しかし、いざキャンプインを迎えるとなると期待感は高まる。

 「何が起こるかわからない」というのはレギュラーシーズン最終盤からポストシーズンにかけての常套句であるが、この、いわば歴史的シーズンでは開幕から使われることだろう。というよりも、このショートシーズンこそが逆に売り物になる。現時点では下馬評で最も高いのはドジャースとヤンキースだが、明らかに戦力的に劣っていても、開幕ダッシュに成功すればミラクルだって起こり得る。記録面での興味はかなりそがれてしまうかもしれないが、延長戦タイブレークの導入などもあって、従来とは違う勝負の楽しみ方ができる。また、最終的には26名になるが、ベンチ入り枠が30名から始まることで、思わぬヒーロー出現があるかもしれない。たった3か月のシーズンではあるが、3週間のキャンプは日を追うごとにワクワク感を高めてくれるに違いない。

 しかし、選手たちにとってはタフな「アジャスト」を強いられるシーズンになる。これはメジャーリーガーとして生き抜くためのキーワードである。「満足のいくボールを投げられないとき、イニングの合間にいかにアジャストしていけるか。それが出来なければメジャーで一流になれない」と、かつてロジャー・クレメンスはいった。この40年間、インタビューした選手から一体何度「アジャスト」というワードを聞いたことだろう。

 選手たちはその「アジャスト」をこれから始まるニューノーマル(新たなる日常)でやっていかなければならない。新型コロナウイルス感染予防のためだ。ニューヨーク・タイムズ紙が入手したMLBのマニュアルは100ページにも及ぶものだ。それによると、朝の検温に始まって球場内での2度の検温、1日おきの感染検査(PCR)が義務づけられる。喜びを共有するハイファイブ、ハグなどから唾吐きはもちろん、ヒマワリの種の禁止。常にソーシャルディスタンスを求められ、球場内でのシャワーは禁止にはならなかったものの勧められないと明記。さらに、攻守交代後の手洗い、消毒など他にも数多くの項目が細かく記載されている。アジャストするのに時間が必要だろう。果たして野球に集中できるのか。

 洋の東西を問わずアスリートはゲン担ぎも多く、メジャーリーガーになるまでには試合に集中するためのルーチンをしっかり持っている。そのリズムが崩れてしまうのではないか。そこでアジャスト力が試されるということになる。

 感染予防策はさらに厳しいものになる可能性もある。アメリカ国内の感染者が再び急増しているからだ。この27日、28日は全米で連続して最多記録を更新、1日で4万人を超えた。メジャーリーガーを含めスタッフなどMLB関連でも1週間のうちに40人が感染した。そして、いま全米で最も感染者の多いホットスポットはヒューストンだ。

 2月のキャンプインのときにはヒューストンといえばアストロズのサイン盗みがセンセーショナルな話題となり、オフシーズンのホットスポットになった。何とも言い難い巡り合わせ。

 いよいよ各チーム60選手がキャンプ地となるフランチャイズに入ってくる。

 しかし、メジャーリーガーの多くは感染者が急増しているカリフォルニア、アリゾナ、テキサス、フロリダの出身者。不安は募る。新たな日常を手に入れるまでタフなチャレンジが続く。

 出村 義和(スポーツジャーナリスト)

出村 義和
 (でむら・よしかず)1971年、ドジャースタジアムでMLB初観戦。ベースボールマガジン社でアメリカ総局勤務、週刊ベースボール編集長などを務める。独立後、ニューヨークをフランチャイズに19年間MLBを中心に多岐にわたるジャンルで取材、執筆を行う。帰国後、JスポーツでMLB中継の解説者も務める。

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