永田裕志と鈴木みのる、東京ドームを超えた無観客打撃音合戦…金曜8時のプロレスコラム

永田裕志(左)にエルボーをぶち込む鈴木みのる(新日本プロレス提供)
永田裕志(左)にエルボーをぶち込む鈴木みのる(新日本プロレス提供)

 6月19日、今季のプロ野球が開幕する。無観客とはいえ、東京ドームに公式戦の球音が響くことをどれだけの国民が待ちわびたことだろう。これに歩調を合わせるように、新日本プロレスも無観客試合(会場非公表)を15日から17日まで3連戦で開催した。

 格闘技界は新型コロナウイルスの観戦拡大の渦中で、興行の強行や早期の無観客試合実施などで、批判の矢面にさらされてきたが、業界の盟主・新日本プロレスは慌てず騒がず慎重に対応し、53大会を中止にして、110日ぶりの再開となった。

 主役はIWGPヘビー級、インターコンチネンタルの2冠王・内藤哲也(37)、“レインメーカー”オカダ・カズチカ(32)、“エース”棚橋弘至(43)だが、昭和プロレス少年の私が注目したのは、鈴木みのると永田裕志の52歳対決。史上最多32選手参加のシングル最強決定トーナメント「NEW JAPAN CUP2020」の1回戦として鈴木の誕生日である17日に組まれた。

 高校2年の関東高校選抜レスリング選手権で初対決してから、好敵手ではなく、すれ違い、いがみ合い続けている両雄。高校卒業後に新日本に入門した鈴木に対して、永田は4年後に日体大を経て入団。その頃には、鈴木はUWF、藤原組に移籍していた。鈴木がパンクラスから、2003年に新日本に参戦した時は、永田はIWGPヘビー級王座を10度防衛する存在になっており、プロレスでは、先輩・後輩という線引きが難しい複雑な関係なのだ。

 2013年8月1日の「G1クライマックス」開幕戦(静岡・アクトシティ浜松で永田がエクスプロイダーで勝利)以来7年ぶり、50歳を超えて初の一騎打ちだ。獣神サンダーライガーと鈴木が最後の対決を行った昨年10月14日の両国国技館大会「KING OF PRO-WRESTLING」のように、この1試合だけでも取材しようと思ったが、記者は1社1人という制限が設けられ、「なるべく、会場にお越しにならず、提供素材にて取材対応いただけますと幸いです」(新日本プロレス広報宣伝部)という状況だった。

 これまで、2007年、11年、13年と東京ドームで3回も組まれたことのある永田VS鈴木。4万人の観衆の前で行われた“客の呼べるカード”が、非公表の名も無き会場で、無観客で行われる。あえて配信動画で何が見えてくるのか、ステイホームならぬステイデスクで見ることにした。

 英国でも大合唱になるテーマ曲、中村あゆみの「風になれ」に手拍子がなくても、大合唱がなくても鈴木はいつものようにリングイン。ブーイングよりも滅入る無音にも、かつて“世界一性格の悪い男”と呼ばれた男は、動じない。以前、このコラムで入場について「クライマックスまで時間がかかりすぎる」と書いて鈴木に「お前の好みなんか知らねぇよ。オレの歌なんだからオレに合わせろ」とリツイートされたことがあったが、メンタルの強さは半端ないのだ。

 会場に音がなければ、自分たちで作る。ゴングの後、にらみあって、エルボー合戦だ。前腕を頬に打ち付け、バチンという音を響かせ合った。「来い鈴木。カモン」と永田が言えば、「あっはっはっはー」と大げさに笑う鈴木。鈴木は一本足でエルボーを打ち、受ける時は手を後ろに組んであごを出した。数えると両者合わせて80発。手のひらを使う張り手や逆水平と違って、音が鳴りにくいエルボーが、無観客でバチンバチン響いた。

 脳の揺れ方は尋常じゃなく、足がふらついたところで、張り手に変えて、42発。パチンではなく、これもバチン。空気の入る手のひらではなく、硬い掌底を当てているのだ。鈴木は「効かないんだよ」と叫んだ。

 さらに鈴木は、膝十字、ヒールホールドの関節技、場外でイス、バケツ、ペットボトルの反則攻撃で追い込み「終わりか? 第3世代」と永田を挑発し続けた。ゴッチ式パイルドライバーをこらえられると、鈴木は再びエルボー合戦に誘う。合わせて20発。そして張り手28発。

 そして、これぞ無観客打撃音という一発が出た。鈴木は一本足頭突きを2発かました後、足を上げずに正面から頭をゴツン。頭蓋骨がぶつかる音だ。一本足打法では下ろした足がリングの衝撃音を誘い、頭の音は聞こえない。無観客でノーステップだからこそ聞こえる、リアルな頭突き音。大相撲の立ち合いで頭同士がぶつかる時の音。館内が静まりかえる立ち合いの一瞬だからこそ聞こえるあの音だ。これがプロレスで聞けるとは。

 さらに鈴木がエルボーを連発しようとしたところで、永田がかわしてエクスプロイダー。鈴木がスリーパーにいこうとしたところを、永田がバックドロップホールドでピンフォール。20分35秒。ロープワークはほとんどなし、リング中央で足を止めて打ち合った20分だった。無言でリングを去った両雄。現場取材した記者もバックステージには行けなかったそうだ。

 鈴木はノーコメント。広報から届いた永田のコメントを全文載せよう。

 「負けられない戦いだったですよ。年に数少ない俺の身体に大きな刺激、しっかり吸収して勝ち上がった。やったぜベイビー。俺はまだまだ退いてない。まだまだ自分の力を十分メインどころに通用する。今日はそれを証明したかったし、しっかり証明できただろう。良い刺激をくれたよ、鈴木は。まだまだたった1回戦勝っただけ。次、そして次勝ち上がって9年ぶりの『NEW JAPAN CUP』制覇、目指す」

 永田は2回戦でオカダ・カズチカと対戦する。ライガーが引退する2か月半前に、鬼のエルボーを注入し、獣神を東京ドームの花道へ送り出した鈴木。中西学(53)が2月に引退し、炎が消えかけた第3世代の永田に力水をつけたのもまた鈴木だった。(酒井 隆之)

 ◆東京ドームで3回行われた永田裕志VS鈴木みのる

 ▽2007年1月4日・東京ドーム(観衆2万8000人)三冠ヘビー級選手権

 〇鈴木みのる(17分22秒、裸絞め)永田裕志●

 ▽2011年1月4日・東京ドーム(観衆4万2000人)

 ○永田裕志 16分15秒、バックドロップホールド)鈴木みのる●

 ▽2013年1月4日・東京ドーム(観衆2万9000人)

 ○永田裕志(17分3秒、バックドロップホールド) 鈴木みのる●

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