棚橋弘至の涙にオカダ・カズチカの「行くぞ! ニッポン」の雄叫び…新日本プロレス、110日ぶり大会再開の裏側

新日本プロレス110日ぶり大会再開の15日、8人タッグマッチで勝利し、両手を挙げる(右から)棚橋弘至、真壁刀義、レフェリーのレッドシューズ海野、飯伏幸太、永田裕志(カメラ・泉 貫太)
新日本プロレス110日ぶり大会再開の15日、8人タッグマッチで勝利し、両手を挙げる(右から)棚橋弘至、真壁刀義、レフェリーのレッドシューズ海野、飯伏幸太、永田裕志(カメラ・泉 貫太)
15日のメインイベントに勝利し、マイクを握って大会再開をアピールする内藤哲也
15日のメインイベントに勝利し、マイクを握って大会再開をアピールする内藤哲也

 ついに日本最大、最強のプロレス団体が目覚めの時を迎えた。

 15日夜の国内某所。今年1月4、5日に東京ドームで行われた「WRESTLE KINGDOM14」で2日間計7万71人を動員した新日本プロレスが2月26日の沖縄大会を最後に開催を断念してきた大会を110日ぶりに完全無観客、会場も非公表で再開した。

 取材陣も各社記者1人、カメラマン1人まで。まるで地下格闘技の会場のようにシーンと静まりかえり、スモークのきな臭いにおいだけが漂う某ホール。久しぶりに設置されたセルリアン・ブルーのリングに「本隊」の11選手がそろいの新日Tシャツに身を包んで入場してきたのは、午後7時のことだった。

 代表してマイクを握った「エース」棚橋弘至(43)は「新日本プロレス、帰ってきました! 今日は無観客という形ですが、また、いつか、皆さんと会場で会える日を夢見て、一歩ずつ頑張っていきます」と、笑顔で配信サービス「新日本プロレス・ワールド」の生中継でかたずを飲んで見守るファンにあいさつした。

 いまだ入国制限中のため、外国人選手の参加はザック・セイバーJr.(32)とヤングライオンのゲイブリエルキッド(22)の2人だけ。ほぼ日本人選手で構成された大会となったが、出場した34選手は「いつも通り」の新日のファイト全開。53大会の開催を見送ってきたとは思えない絞ってきた肉体、完璧な動きに、私の目は引きつけられた。

 一方で新型コロナの余波は隠せない。入場時にコーナーポストに上って上空に毒霧を噴射するBUSHIのパフォーマンスは自粛。ベテラン・小島聡(50)が連続チョップに入る前の代名詞「行くぞー!」の雄叫びにもファンのレスポンスは当然、ゼロ。会場は静まりかえったままだった。

 中には、矢野通(42)のように手に持った消毒スプレーを相手にかける“タイムリー”な攻撃を披露。「消毒しろよー!」、「ソーシャル・ディスタンスを守れよ! 密集すんなよ」と相手チームを“言葉攻め”し、笑いを誘うレスラーもいたが、どこか、厳粛なムードが漂い続けた。

 第3試合終了後には、透明ビニール製のレインコートにマスクで完全防備の職員が5分間にわたって選手が触れたマット、ロープ、コーナーポストを消毒する光景も見られた。記者たちも選手との接触は禁じられ、バックステージでのコメントも団体側の取材を受け取る形となった。

 初日のメインイベントでは現在、IWGPヘビー級とインターコンチネンタルの2冠王・内藤哲也(37)が6人タッグマッチで「レインメーカー」オカダ・カズチカ(32)組と対戦した。

 体を完全に絞り、16日開幕のシングル最強決定トーナメント「NEW JAPAN CUP2020(NJC)」での復活優勝を狙うオカダは、まだまだ新型コロナに苦しむ国民に向け、リング上で「行くぞ! ニッポン」と絶叫。5月にはコロナと闘う医療従事者に500万円を寄付して話題を呼んだスーパースターは再開のリングでも画面の向こうのファンを勇気づけて見せた。

 必殺技・デスティーノで勝ち名乗りを受けた内藤はマイクを持つと、「3か月半ぶりに帰ってきたぜ。皆様の目で、皆さんの耳で、新日本プロレスの戦いを存分に楽しんで下さい」とあいさつ。スーパースター2人の熱いパフォーマンスで、新日マットが一瞬で時を巻き戻したように私には見えた。

 試合後のバックステージコメント。棚橋は「無観客は選手にとって、すごい経験になる。どう伝えるか、どう魅せるか、どう戦うかという、すごい経験値に。応援してくれるファンの存在がどれだけうれしくて、ありがたくて、尊いものかということを今、選手は感じていると思う」と言った後、感極まって涙を流した。

 「ゴールデン☆スター」飯伏幸太(38)は「また、こうやってみんなの前でプロレスができて、ほんと最高です」と笑顔を見せ、ジュニア最強の高橋ヒロム(30)は「ああ、なんて面白すぎるんだ。なんて面白いんだ、プロレスって! こんなに面白くて、こんなに快感なんだ!」と叫び、内藤は「久々のリング、久々の試合。息もあがって、非常に苦しい試合でしたよ。なんかこんなにプロレスってしんどかったかなって。でも楽しかったな、楽しかったよ」と、つぶやいた。

 中でも私が注目したのが、オカダの「こうやって110日ぶりに試合ができたということは、小さな一歩なのか、大きな1歩なのか。それを決めるのはまだ誰も分からない。でも、これから僕たちがしっかりやっていくことによって、今日の一歩が大きな一歩だったねと言えるようになるんじゃないかなと思います。まだまだ大変な状態ですけど、新日本プロレス、さすがだね。スポーツ界やエンターテインメント界みんなから、さすが、新日本プロレス、今日の1日は良かったよって言ってもらえるように、これからもしっかりやっていきたいと思います」という熱い言葉だった。

 そう、他団体が無観客での試合再開に踏み切る中、新日は、じっと我慢した。ファンからは「こんなに長期間、中止して新日は大丈夫なのか?」という声もあがった。

 しかし、2018年に就任したハロルド・メイ社長(56)は5月13日のネット会見で「1月4、5日の東京ドーム2連戦の成功などで幸い今期は年間黒字決算で終われそうです」と明かした上で「選手やスタッフを感染リスクから守るため」、「会場の使用制限」、「企業の倫理的社会責任」の3点を挙げて、「悔しさ、膨大な損失、身を切るような痛みはあるが…」と、53大会中止という決断の裏側を明かしていた。

 そして、5月25日の緊急事態宣言解除をじっくり待っての再開。全レスラー、レフェリー、スタッフに抗体検査を実施した上で7月3日までの9大会については、会場非公表で無観客試合を開催。延期されていた全32選手参加のシングル最強決定トーナメント「NEW JAPAN CUP2020」(NJC)を行う。

 NJCの決勝が行われる7月11日の大阪城ホール大会で初めて収容人員の3分の1の観客を入れての興行を開催。翌12日の同ホール大会のメインイベントでNJCの優勝者がIWGPヘビー級、IWGPインターコンチネンタルの2冠王者・内藤哲也(37)に挑むタイトルマッチが行われる。

 私自身、どこか懐かしさとともに新日の熱い戦いを堪能した3時間。試合後、囲み取材に応じた木谷高明オーナー(60)は「みんな、新しいコスチュームも多かったし、体も仕上げてきましたね」とまず、この日出場した34選手を称賛した。

 木谷氏は今年3月4日、恒例の旗揚げ記念日大会の中止が発表された際は「なぜ、無観客でもやらないのか?」とクレームをつけて話題を呼んだが、この日は「3・4に関しては言い過ぎた。申し訳ない」と謝罪。その上で「現場はちゃんと(した形で)やりたいと言って、試行錯誤してくれた。他団体がやっていたから、焦ったと思うけど、世界中の団体の中で一番、ちゃんと準備した団体だと思う」とスタッフをほめたたえた。

 そう、まさに満を持して、帰ってきた新日の熱い戦い。7月11日以降の大会で、やっと肉眼でそのファイトを見ることになるファンの皆さん、待っていたかいは絶対、ありますよ! 一足先に無観客の会場で選手たちの鍛え上げた肉体を目の当たりにした私は、胸を張って、そう伝えたいと思う。(記者コラム・中村 健吾)

新日本プロレス110日ぶり大会再開の15日、8人タッグマッチで勝利し、両手を挙げる(右から)棚橋弘至、真壁刀義、レフェリーのレッドシューズ海野、飯伏幸太、永田裕志(カメラ・泉 貫太)
15日のメインイベントに勝利し、マイクを握って大会再開をアピールする内藤哲也
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