ヒーローも耐えられないSNS上の誹謗中傷…リアリティー恋愛番組に潜む“集団ヒステリー”

武田航平
武田航平

 罵声のシャワーを浴び続けると全身が痺れてくる。震えてくる。次第にすべての力が抜けて、動けなくなる。そんな経験がある。罵声が人格や存在そのものへの否定になると、感情を次第に失い、もういいっか、と真っ白になっていく。

 これでもか、これでもか、と斬り付けては逃げていく顔のない人たち。22歳の若さで自らの命を絶った女子プロレスラー・木村花さんの訃報に接し、胸が痛くなった。そして、同じようなリアリティー恋愛番組に出演した後、SNS上で激しいバッシングを受けて、辛辣な言葉や存在否定の言葉を浴びて苦しんだ1人の俳優を思った。

 彼の名前は武田航平。平成仮面ライダーの2作品で主役級のヒーローを演じたことで“平成仮面ライダーの申し子”と呼ばれ、特撮ファンには絶大な人気がある。ドラマや舞台でも活躍し、正義感や男気あふれる役を演じることも多く、トークもうまいことから、今年は1月から2月にかけてTBS系の恋愛バラエティ番組「ダブルベッド~SEAVEN DAY LOVER」に出演した。初対面の男女がマンションの一室で7日間同棲する様子を見届けるというもので、フジテレビ系番組「テラスハウス」と共通するのは、男女の恋愛模様やプライベートをこっそり盗み見するような感覚で見ることができるから視聴者が感情移入しやすく、あくまで「番組」や「ショー」であったとしても現実世界と錯覚しやすい番組作りになっているということ。「ダブルベッド」で武田は、9歳年下のモデルと同棲する設定で、次第に好意を寄せるようになった相手の思いに応えることができず、同棲最終日の夜に理想の女性像を語って諭すなかで相手が泣いてしまう、というエンディングだった。この放送直後から、武田のインスタはものすごいことになった。大炎上し、辛辣なコメントはエスカレート。過去の関係ない投稿にまで遡って嫌がらせの言葉が書き込まれ、人格否定の言葉が投げかけられた。「キモイ」「消えろ」「サイテー」「死ね」。

 ふだんからインスタなどを通じて「さてやりますか。」というタイトルのもと、ストーリーでファンからの質問を受け付け、交流を深めることを大事にしている武田は、あえてそういう機会を作って質問を受けつけるなど真正面から向き合った。その上で「アンチコメ見てしまって心が痛いです」というファンからの問いかけに対して、こんなことを書き込んで、答えた。

 「人それぞれだからね。アンチしてもよい。みんなが一緒の方が気持ち悪いでしょ? その人が存在してるから一つの意見がある。だから、アンチコメントするのもよい。応援してくれるのはもっと良い。笑。どちらも本当にありがとうです。何かを思ったり感じたり…。感情を出せることってすてきです。(中略)とにかくぼくはダブルベッドやってよかったって思っている。だからもう心を痛めないでね? 心配してくれてありがとう。みんな仲良くしよ」

 武田は野球が好きだ。趣味で自分の草野球チームを持つほどで、熱烈なジャイアンツファンであることから自ら球場などに足を運んで取材。「月刊ジャイアンツ」に連載を持つなど活躍の場を広げ、一緒に仕事をするようになったが、いわゆる芸能人っぽくなく、気さくで心優しいナイスガイ。だから、SNS上で斬りつけられている彼が心配でならなかった。インスタで気丈にふるまうコメントを発してはいたが、実際はやはり、相当落ち込んでいた。ヒーローを演じ、仮面ライダーになった強い男も、現実の世界では生身の人間。当たり前だ。そんな状況にあっても、彼が番組について言及することも愚痴ることも決してなかった。それは、自分自身が演じるという仕事で多くの人に対し、仮想世界を現実世界に錯覚させ、時には夢を与え、時にはヒーローで活躍し、時には悪役としてたたかれる立場であることを分かっているからだ。「あれは演技です」「あれは演出です」なんて言えない表現者だからこそ、特に、カメラというフィルターのかかった「表現」を見て、好きとか嫌いの感想や評論の域を超えて、表現者の人格や存在そのものを否定するなんてことは絶対にあってはならない。

 「テラスハウス」で演じた木村さんは、本職はプロレスラー。リングという舞台での、やはり表現者だった。その闘いの表現で、観る者に対して、現実世界のイヤなことを忘れさせてくれたり、むしゃくしゃするような気分をスカッとさせてくれたりしていた。勇気や笑顔、感動といったものをあげられれば、という思いで試合に臨むのは、アスリートという表現者の多くに共通する点。今回はリングを降りて、恋愛リアリティーショーという慣れない舞台で表現者を務めた。活躍する舞台はまだまだこれからたくさん、あっただろうに。

 今回の件で、多くの著名人がSNSを通じてコメントを発した。武田もツイッターでつぶやいた。「誰も悪くない。してしまった人間もそうさせてしまった人間も。残ったのは悲しすぎる現実と悔しさと虚しさ。ただ一つ言えるのは顔が見えない場とはいえ言葉に責任をもて。エンタメに関わる人間として悲しい出来事であったのと共感した事を経験したので発言させて頂きました。ご冥福をお祈りいたします」。読んだ後、いたたまれなくなって彼に送ったLINEに、こんなメッセージを返してくれた。

 「まだ22歳…。今年の大卒の子たちと一緒です。大きく楽しい未来があるのに…。胸が苦しくて悔しくて涙がとまらなかったです」

 人の痛みを感じ、思いやり、人の悲しみで涙を流せる人間になりなさい。物事や事象の表面だけをみるのでなく、本質を見極められる人間になりなさい。女の子の後ろからスカートをめくって逃げていくような卑怯なことはしちゃいけません。小学生の時、先生に教わったこと。小学生が学ぶこと。もう一度、胸に刻まなければいけない。

  (記者コラム・佐々木 良機)

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