「感染防止」と「経済」に揺れるMLB開幕への入口戦略

 7月4日の独立記念日をメドにした開幕への動きが本格化している。しかし、プレーボールまでには複雑で厳しいプロセスが待っている。新型コロナウイルスへの疫学的対処と経済的対処という矛盾。世界のあらゆる国々、地域社会が直面している難問を解決するための効果的な戦略を模索している。

 すでにMLB機構は67ページに及ぶ感染防止対策の実施要項を選手会に提出した。それによると、ユニホーム組、審判員、球団現場スタッフは定期的な検査と、毎日2回以上の検温を義務付けられ、華氏100度(摂氏37・8度)以上の熱がある場合は球場に入ることはできない。クラブハウスの選手ロッカーの間隔や、ベンチでの選手同士の間は可能な限り6フィート(約1・8メートル)離すなど、常にソーシャルディスタンスを意識した行動様式が要求される。もちろん、ベンチ内などグラウンドに出ていない選手や首脳陣はマスクを着用することになる。

 これだけでもビフォアー・コロナの「当たり前」が恋しくなりそうだが、感染予防のための規則はヤマほどある。攻守交代後は手指の消毒、球場でのシャワー禁止などなど。いうまでもなく、ハイファイブやハグ、唾吐き。ヒマワリの種を吐き出すことはご法度だ。アフター・コロナでプレーするためのニューノーマルが本当の日常になるまでには、しばらく時間が必要になるだろう。

 一方で、開幕延期は球団経営を圧迫し始めている。マリナーズが首脳陣、スカウトなど現場組の給与カットを発表したのを始め、レッズやマーリンズでは球団スタッフの一時解雇を決め、エンゼルスなどもこの動きに追随する模様だ。

 開幕から当分の間は無観客試合になる。それがいつまで続くかはあくまでコロナ次第ではあるが、MLB機構の試算では1試合当たり64万ドル(約6800万円)の損失となる。損失額が30球団で最大と試算されたヤンキースは、82試合を無観客で開催した場合には3億1200万ドル(約330億円)」最少のタイガースでも8400万ドル(89億円)にのぼる。選手会は「この試算がどのようにはじき出されたかを確認する必要がある」とはいえ、莫大な金額になることは十分に想像できる。

 こうした状況の中で給与の分配をめぐって労使の対立が勃発。両者は開幕予定だった3月26日から60日間に関して年俸を保証し、その後は試合実施ごとに給与を配分するという内容で合意している。

 だが、球団側は無観客では収益が上がらない、つまり合意通りにはいかないので基本給の折半を新たに提案。これに対して選手会が反発したのである。そうすることによって年俸に上限を定める、事実上のサラリーキャップになってしまうというのがその主張らしい。選手会にとって「サラリーキャップ」というのは禁句のようなもの。何しろ、これを阻止するために1994年から95年にかけて232日間に及んだ泥沼のストライキを敢行したのだから。選手の間からも声が上がっている。

 「約束の金額が受け取れないなら投げるつもりはない」というのは、一昨年のサイ・ヤング投手に輝いたブレイク・スネル(レイズ)で、これにはブライス・ハーパー外野手(フィリーズ)も同調している。両者の話し合いがどうなるのか。

 あのスト当時は「ミリオネア(100万長者)」と「ビリオネア(億万長者)」の金持ち同士の喧嘩といわれ、スト解除したときには観客動員が約20%減となり、メジャーリーグはファンから痛いしっぺ返しを食らった。このコロナ禍にあって、内輪揉めをしている場合ではない。今は欲もエゴもしまい込んで連帯すべきとき。「感染防止」と「経済」との両立を目指す、ファンをうならせるような開幕への入口戦略をみせてもらいたいものだ。

出村 義和(スポーツジャーナリスト)

出村 義和
 (でむら・よしかず)1971年、ドジャースタジアムでMLB初観戦。ベースボールマガジン社でアメリカ総局勤務、週刊ベースボール編集長などを務める。独立後、ニューヨークをフランチャイズに19年間MLBを中心に多岐にわたるジャンルで取材、執筆を行う。帰国後、JスポーツでMLB中継の解説者も務める。

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