押し出す“スマッシュ”伊藤美誠の「みまパンチ」…一撃必殺技を徹底解説

ボールを呼び込む動作を入れずにコンパクトに押し込むように放つ、伊藤美誠の「みまパンチ」
ボールを呼び込む動作を入れずにコンパクトに押し込むように放つ、伊藤美誠の「みまパンチ」
みまパンチ
みまパンチ

 卓球女子で東京五輪代表の伊藤美誠(19)=スターツ=が、4月16日に発表された世界ランキングで日本勢初の2位に浮上した。活躍を支える多彩な技術の中でも、代名詞と言えるのが「みまパンチ」だ。伊藤の言葉や、2012年ロンドン五輪女子団体銀メダルの平野早矢香さん(35)の解説をもとに、打倒・中国の鍵を握る必殺技に迫る。(取材・構成=林 直史)

 「みまパンチ」は、フォアハンドでカウンター気味に放つスマッシュ系のボールだ。大きなバックスイングを取って叩きつけるように打つ通常のスマッシュとは異なり、速い打球点から押し込むように放つ。

 伊藤は以前に「普通に(スマッシュを)打つ時は、腰をひねって少しボールを待ってから打つ。みまパンチは腰をひねらず押し出す感じ」と表現していた。相手は予期せぬタイミングでの返球に反応が遅れ、驚いたような表情を浮かべるほどだ。

 名前の由来は、初出場で団体銅メダル獲得に貢献した16年リオ五輪前。取材で技の名前を聞かれた時に命名したものだ。「“猫パンチ”みたいな技術の使い方。私の名前を付けてほしいと言われたので、そのまま“みまパンチ”にしました」。試合での使いどころについては「相手が何をしてくるのか分からないのが私らしさ。相手が絶対、みまパンチをしてこないだろうというボールをしたりします」と明かす。

 五輪銀メダリストの平野さんは、どう見ているのか。「全身を使って規則正しく打つというよりは、パッっと打たれたところからタイミング、回転量、立ち位置が合った時に、とっさの判断で手先を器用に使って、パンと押し込むイメージ」。通常はカウンターを狙う際、相手のボールを利用して回転をかけ返すカウンタードライブや、角度を合わせて跳ね返すブロックで対応する選手が多い中で、「ひと工夫を付け加えられる技」だ。

 技術的な難易度は高い。基本的にはボールをこすり上げて回転をかけ、弧を描くドライブの方が台の相手側には入れやすい。直線的な軌道のスマッシュはスピードや威力に優れるが、コントロールしづらい。さらにスマッシュは「直線的に飛んでいくボールだからこそ、高いところから打った方が安定する」(平野さん)とボールをバウンドの頂点付近で捉えるのに対し、みまパンチはそれよりも手前の中間点で決めにいく。相手のボールや回転を見極める時間は短く、打つポイントが早すぎればネットにかかる恐れもある。

 ハイリスクだが、相手にとっては視覚的な対応の難しさもあるという。通常のスマッシュと違い、ボールを呼び込む動作を入れずコンパクトにスイングすることで、平野さんは「相手は(通常の)呼び込んだ時の体勢やタイミングでリズムを準備する。そこでバックスイングがなくパンと来る。打点の早さと視覚的な要素でタイミングがずれる。そのため逆を突かれたり、軌道のイメージができずにボールに対応しなければいけないという感覚になる」と解説した。

 精神的な面でも、みまパンチで奪った得点は通常の1点以上の重みを持つことがある。「相手がかなり優位な展開のラリーで逆に不利になったり、『ここでこんなボールが来るの?』という意外性もある。自分が主導のラリーで点が取れると思っていたところで、取れなければダメージがすごく大きい」と分析する。

 それだけ効果的な技なら多くの選手に広がっていくはず。だが、平野さんは「練習すれば、練習ではできるようになるかもしれませんが、試合の中でその場の判断で使いこなしたり、相手にダメージを与えるまでに持っていくのは難しいと思います」との見方を示した。

 平野さんによれば、1980~90年代にルーマニアやドイツで活躍したオルガ・ネメスが似た技術を用いていたという。ただ、守備的な技術として使っていたため、「相手にすごくダメージを与えるかといえばイメージが違う」という。では、なぜ伊藤は一撃必殺の技として使いこなせるのか。そこには技術面はもちろん、的確な選球や思い切りの良さなど多くの要素が絡んでいる。

 伊藤はドライブとスマッシュを高いレベルで打ち分け、サーブやレシーブの種類も豊富だ。戦術の多彩さは大きな強みであると同時に、それだけ返ってくる球質もさまざま。「普通は迷いが生じるはずですが、それがない。いろんな技をやっても自分が混乱しない技術力の高さとメンタルのコントロール。もちろんミスすることもありますが、すぐに切り替えられる伊藤選手のメンタルがあるからこそ、成り立つ卓球だと思います」と目を細めた。

 試合の中で多用はしないが、要所で流れを変える唯一無二の必殺技は、ドライブを主体に正確性を重視する中国選手に対しても、これまでの対戦で威力を発揮してきた。東京五輪でも、金メダルを導く1点につながることが期待される。

 ◆伊藤 美誠(いとう・みま)2000年10月21日、静岡・磐田市生まれ。19歳。2歳で卓球を始める。世界選手権は団体で16年銀、18年銀、女子ダブルスで17年銅、19年銀メダル。16年リオ五輪団体戦で史上最年少の15歳300日で銅メダル獲得。18、19年全日本選手権で女子初2年連続3冠。今年4月の世界ランクで日本勢初の2位。150センチ、45キロ。

 ◆卓球の希少価値の高い技術や愛称を持つ技と主な使い手

 ▼チキータ 台上のボールに対するバックハンドドライブ。攻撃的なレシーブで、現在は多くの選手が取り入れており、張本智和も得意とする。ボールがチキータバナナのように曲がることから名付けられた。

 ▼ミユータ 加藤美優(みゆ)が使い始めたとされ、チキータとは逆方向の回転をかけるレシーブ技術。加藤の名前から命名され、逆チキータとも呼ばれる。

 ▼カットブロック 斜めに切るようにしてブロックする技術。丹羽孝希が世界屈指の使い手。

 ▼アップダウンサーブ 同じフォームから上回転と下回転を繰り出すサーブ。吉村真晴が得意とし、回転の判別が極めて難しい。

 ▼ひなバズーカ 早田ひなのパワフルな両ハンドドライブ。指導する石田大輔コーチも「大砲」「バズーカ」と表現している。

 ▼王子サーブ 大阪・王子卓球センターで指導する作馬六郎氏が考案。トスを高く上げ、しゃがみ込みながらラケットを縦に振り下ろして強烈な回転をかける。福岡春菜が大きな武器とし、福原愛も愛用した。

 ▼YGサーブ 肘を支点に手首を内側から外側に返し、主に逆横回転の強烈な回転をかける。平野友樹が得意とする。YGはヤングジェネレーションの略。

 ▼横入れ ネットを迂回(うかい)させ、相手の台に返球する技術。小塩遥菜が実戦でも活用している。

 ◆卓球女子の五輪メダル争い シングルスは各国・地域で最大2枠。伊藤にとって、最大のライバルとなる中国勢は代表が確定していないが、世界1位の陳夢、3位の孫穎莎、4位の劉詩ブン、6位の丁寧らが代表を争う。陳夢とは過去4度対戦して未勝利。8位の鄭怡静(台湾)、ともに9位の馮天薇(シンガポール)、石川佳純もメダル候補に挙がる。

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