「麒麟がくる」は悲劇の大河となってしまうのか…思い出す4か月前のNHK制作トップの笑顔

「麒麟がくる」で明智光秀を熱演中の長谷川博己(右)と斎藤道三を演じ、序盤の“主役”となった本木雅弘
「麒麟がくる」で明智光秀を熱演中の長谷川博己(右)と斎藤道三を演じ、序盤の“主役”となった本木雅弘

 ついに、この時が来てしまった。NHKが15日、長谷川博己(43)主演の大河ドラマ「麒麟がくる」(日曜・後8時)の放送休止を発表した。

 6月7日放送予定の第21話まで放送し、翌週からは、いったん休止となる同作。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため4月1日から収録を休止していたが、同月7日の安倍晋三首相(65)による緊急事態宣言発令で休止期間を延長。ついに収録再開の見通しが立たないまま、撮影済みのストックがなくなってしまった。

 「放送の再開時期については収録再開の状況を見極めながら検討し、決まり次第、お知らせします」としたNHK。今月中に撮影を再開できなければ、6月14日以降の放送に間に合わないための苦渋の決断。過去、報道特番などでの休止はあった大河だが、撮影が間に合わないための中止は異例中の異例の事態となった。

 私自身、長引く外出自粛の中、とっくに覚悟はできていたはずだったが、いざ中止がアナウンスされると、思ったよりショックは大きかった。

  • 沢尻エリカの代役として準ヒロインの帰蝶を演じ、抜群の存在感を放っている川口春奈
  • 沢尻エリカの代役として準ヒロインの帰蝶を演じ、抜群の存在感を放っている川口春奈

 1月19日放送の初回から「王道の戦国大河が帰ってきた」と思って見続けてきた。明智光秀を演じる長谷川の凜(りん)としたたたずまいに、西村まさ彦(59)ら脇役陣の醸し出す絶妙の雰囲気。中でも今月10日放送の「長良川の戦い」で息子・高政(伊藤英明)に討たれた斎藤道三役の本木雅弘(54)の色気、義理の息子の暗殺も辞さない非情な演技に圧倒され、食い入るように見てきた私にとって、“麒麟ロス”で心にポッカリ穴が空いた感じもした。

 思えば、初回も当初予定の1月5日から2週遅れのスタートと出足からつまづいていた。準ヒロインの帰蝶役で出演予定だった沢尻エリカ(34)が昨年11月16日、麻薬取締法違反罪で逮捕され、急きょ代役に川口春奈(25)を起用。序盤の大幅な撮り直しを余儀なくされたためだった。

 それでも「麒麟」は頑張った。初回の平均視聴率19・1%を記録。前作「いだてん~東京オリムピック噺」の初回15・5%を3・6ポイント上回るロケットスタート。近年では16年の「真田丸」初回の19・9%に次ぐ高い数字だった。

 思い出す笑顔がある。今年1月22日、東京・渋谷の同局で開かれた木田幸紀放送総局長の定例会見。NHKの製作・編成の最高責任者は、会見の3日前に放送された初回の手応えについて聞かれると、「大変いいスタートが切れたなと思っています」と満面の笑みを浮かべた。

 「ただ、今までも振り返ってみると、1回目が一番良かったということが何回もありますので、これで気を抜かずに2回目、3回目と内容の充実したものを期待したいなと思っています」と気を引き締めたが、喜びは隠せず、「放送開始が2週間遅れたにも関わらず、こんなにたくさんの方に見ていただいた。制作者、出演者、みんなホッとしているし、ありがたいなと思っているのではないかと思います」と正直に続けていた。

 1977年の入局後、90年の大河「翔ぶが如く」演出、97年の「毛利元就」制作統括など一環して制作畑を歩んできた“NHK放送全体の顔”と言っていい木田氏の月に一度の会見をこの4年間、ずっと取材し続けてきた。しかし、ここ数年は心からの笑顔を見たことがなかったと、その時、思った。

 木田氏は昨年の会見では毎回、初回から最終回までの期間平均視聴率8・2%と大河ワーストを記録、昨年2月10日放送の第6回から同12月15日の最終回まで42回連続1ケタを続けた前作「いだてん」について、いやと言うほど聞かれ続けた。

 「いだてん」が史上最短で1ケタ視聴率を記録してしまった時も「物語の山場に合わせてプロモーション番組なども増やしたい」とエールを送り、「視聴率が全てということではない」という視聴者の受信料で制作しているNHKのトップとしては、やや波紋を呼ぶ発言までして擁護し続けた。

 昨年12月の会見では「いだてん」終了にあたり、「まず、お詫びなのですが、この1年間、いろいろなことがあって、ご心配をおかけたことを申し訳なかったなと思っています」と頭を下げる一幕まであった。

 そんな1年が終わったとたんにやってきた「麒麟がくる」の時代。大河ドラマ59作目。第29作「太平記」を手掛けた池端俊策氏(74)のオリジナル脚本のもと、長谷川演じる明智光秀を大河初の主役に据え、その謎めいた半生にスポットをあてる物語。1540年代、まだ多くの英傑たちが「英傑以前」だった時代から始まり、それぞれの誕生を丁寧に描く作品の今後について、木田氏は「不安材料は全然、持ち合わせていません」と胸を張った。

 会見の最後には自ら「視聴率のデータの分析ですが…」と話し出すと「裏でやっている番組もそんなに大きな変化はなかった。まだ、この先どうなるかは分からないんですが、『麒麟がくる』は比較的若い世代、40~50代まで含めた現役世代に多く見られたのではないか。HPなどアクセス数も過去2作品よりはるかに多い。単純に『戦国、久しぶりだね』ということだけではない魅力を受け止めてもらえたのではないか。全力で制作にあたってくれている制作陣、出演者だけでなく、僕自身も手応えを感じています」と、正直な思いを明かしていた。

 その言葉通り初回の同時間帯のライバル番組との横並び視聴率もテレビ朝日系「ポツンと一軒家」(日曜・後7時58分)16・1%、日本テレビ系「世界の果てまでイッテQ!」(日曜・後7時58分)15・6%などを抑え、トップだった。大河のメインターゲットのF3層(女性50~64歳)、M3層(男性50~64歳)、M4層(男性65歳以上)で最大のライバル「ポツンと一軒家」超えを1放送回に過ぎないものの達成したと、私も思った。

 「いだてん」が42回連続1ケタだったため、大河ドラマの2ケタ視聴率自体が昨年2月3日の10・2%以来11か月ぶり。大河ドラマという“看板ドラマ”の復活が、元気のなかったNHKを明らかに明るくしていた。各局には、この番組の視聴率だけは譲れないという看板枠がある。NHKが大河なら、フジテレビは「月9」、TBSなら日曜劇場。この時間帯が好調だと局全体が一気に活気づく。2年前、「月9」ドラマの低迷で局全体が活気を失っていたフジが「コード・ブルー―ドクターヘリ緊急救命―」のヒットで息を吹き返し、一線の社員まで元気になったのを昨日のことのように思い出す。

 しかし、NHKにとって、幸せな“麒麟とのランデブー”の時間は新型コロナの脅威によって、突然、断ち切られた。放送自体の越年の可能性すら浮上しているが、来年の大河としては吉沢亮(26)が渋沢栄一を演じる「青天を衝(つ)け」が待機中。再来年も三谷幸喜氏(58)が「真田丸」以来の脚本を手がけ、小栗旬(37)が主演する「鎌倉殿の13人」の放送が決定済み。まさに“ケツカッチン”の状態だ。

 そもそも7月24日開幕予定だった東京五輪の間5週間分の放送休止を予定していたため、例年より5話少ない設定だったが、新型コロナ余波で東京五輪は来年7月23日開幕と1年延期が決定。放送枠が空き、ここで5回分の不足も解消。例年通りの放送回を確保する思惑まであったという。

 しかし、今回の放送中断で、全ては白紙に戻された。越年となれば、1~12月の暦年制で放送する大河ドラマとしては初のケースとなってしまう。

 物語は10日放送の第17話で描かれた主君・道三の死によって、光秀が“第二の人生”を歩み始めたばかり。今後も比叡山焼き討ち、長篠の戦い、そして、物語のクライマックス・本能寺の変まで描かれるべき光秀の人生のトピックは数多い。

 一視聴者としての願いは、池端さんの脚本を1行も削ることなく、最終回までを見届けたいと言うこと。長谷川演じる光秀の、そして、沢尻の代役として、まぶしいまでの輝きを放つ川口演じる帰蝶の運命はどうなっていくのか、その詳細を見届けたい―。

 もう「麒麟がくる」に魅了されてしまった視聴者に登場人物たちの運命を、その人生模様を最後まで届ける義務が、NHKにはあると思う。だからこそ、大河制作チームよ、新型コロナなんかに負けるな! 私は今こそ声を大にして、そう叫びたい。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆「麒麟がくる」平均視聴率の推移

 ▽第1話 19・1%

 ▽第2話 17・9%

 ▽第3話 16・1%

 ▽第4話 13・5%

 ▽第5話 13・2%

 ▽第6話 13・8%

 ▽第7話 15・0%

 ▽第8話 13・7%

 ▽第9話 15・0%

 ▽第10話 16・5%

 ▽第11話 14・3%

 ▽第12話 14・6%

 ▽第13話 15・7%

 ▽第14話 15・4%

 ▽第15話 14・9%

 ▽第16話 16・2%

 ▽第17話 14・9%

「麒麟がくる」で明智光秀を熱演中の長谷川博己(右)と斎藤道三を演じ、序盤の“主役”となった本木雅弘
沢尻エリカの代役として準ヒロインの帰蝶を演じ、抜群の存在感を放っている川口春奈
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