戸辺直人、JALのために金メダルへ コロナ禍で大打撃も走り高跳び専念「気持ち強くなった」

並んでポーズ決める(左から)女子短距離・土井杏南、男子走り高跳び・戸辺直人、男子三段跳び・山本凌雅(JAL提供)
並んでポーズ決める(左から)女子短距離・土井杏南、男子走り高跳び・戸辺直人、男子三段跳び・山本凌雅(JAL提供)

 陸上男子走り高跳び日本記録保持者の戸辺直人(28)が、12日までにスポーツ報知の電話取材に応じた。所属のJALは新型コロナウイルス感染拡大により、大型連休中には国内線を65%も減便。国際線も9割超の減便を強いられ、苦境に立たされている。航空会社の看板を背負って競技に打ち込む戸辺は、何を思うのか。五輪延期で「金メダルへの気持ちは強くなった」と静かに闘志を燃やすハイジャンパーに迫った。(取材・構成=細野 友司)

 戸辺は神妙に切り出した。拠点の筑波大の施設が使えず、跳躍の練習ができない不自由な日々。ただ、この瞬間も空の上で、空港で、必死に働く仲間がいる。

 「現在もかなり減便されていますが、どうしても移動が必要なお客さまや医療従事者の方々の移動、医薬物資や食料などの生活必需品などの物流ネットワークを支え続けることにより、公共交通機関としての社会的使命を果たすために飛行機を飛ばしています。こういう状況でも、感染のリスクに身をさらしながら頑張っている仲間もいるので本当に頭が下がる思いです」

 筑波大大学院から昨春入社。名字の「戸辺」が「飛べ」に通じるイメージ。そして、何より飛行機が大好きで航空業界を選んだ。業務は競技に打ち込むこと。社のイベントに参加することはあるが、社業の負担なく陸上に専念できる環境だ。

 「皆さんに応援してもらえますし、声をかけてくださることも多いです。出社はシーズン中は月1回行けるかどうかですけど、オフィスワークしている方が声をかけてくれます。温かい雰囲気で、入ってから、会社がより好きになりました。好きな機材は、最近(国内線に)導入されたA350(エアバス製)ですね。羽の先が少し反っているのがいいなと思います」

 拠点のエストニアへの渡航など、海外遠征時にJAL便を利用することも多い。顧客の目線に立ち、改めて魅力に気づくこともある。

 「会社的には普通のことかもしれませんけど、例えば預けた手荷物が出てくる時に、持ちやすいように取っ手が自分の側を向いて並んでいます。本当に細かいことですけど、外国では絶対ないことで。ぶん投げられてボロボロで出てくるので…。細かいところまで妥協しない姿勢は会社の一員として誇りに思うところです」

 「仕事」の陸上で結果を出す場所がない今は、もどかしさもある。ただ、先を向かないと光は見えない。

 「会社の仲間は収束した時に備え、オンライン研修を全社的にやっています。アスリートの僕も同じ姿勢でいないといけない。いつか試合が再開した時に備えて、やれることを一つずつやりたい。一社員としては、この状況が落ち着いたら皆さん、旅行に来てください、と。そう呼びかけたいです」

 コーチにつかず、自身で練習メニューを構築する。自宅や近隣の公園での練習も日々試行錯誤が続く。

 「筋トレでいえばシンプルにスクワットだったり、腹筋をやったり。スプリントも、公園では競技場のように直線100メートルはとれないので短く70メートルとかです。競技やトレーニングに関することはずっと勉強してきたので、その知識はすごく生かされていると思います」

 博士論文は「走り高跳びのコーチング学的研究」が題材。学究肌のジャンパーは空き時間も無駄にしない。

 「去年は競技も忙しく、なかなか論文を読む作業ができていなかった。なので、たまっていた論文を読み潰しているという感じです。走り高跳び自体の論文もありますけど、そこまで量が多いわけでもないので、トレーニングの方法とか有効性とかについての論文なんかも読んでいますね」

 五輪は1年延期され、今季も日程は不透明。先が見えなくても、頂点への思いは深まっている自信がある。

 「(五輪が)より遠くなったことで、2メートル40を跳んで金メダルの目標に向かう気持ちは強くなった。来年の本番で達成できるように、一つ一つやれることをやりたいです」

 ◆東京五輪の男子走り高跳びの金メダル水準 16年リオ五輪では、ドルーイン(カナダ)が2メートル38で優勝。戸辺が東京で2メートル40を実現すれば、96年アトランタ大会でオースティン(米国)が出した2メートル39の五輪記録を更新し、金メダルも現実味が増す。日本代表の選考要項は未定だが、21年日本選手権が主要選考会となる見通し。海外勢では、世界歴代2位の自己記録2メートル43を持ち、17、19年世陸2連覇のバルシム(カタール)らが有力。

 ◆戸辺 直人(とべ・なおと)1992年3月31日、千葉・野田市生まれ。28歳。野田市立中央小4年から競技を始め、野田二中で全国中学大会優勝。専大松戸高を経て筑波大に進み、10年世界ジュニア選手権銅メダル。15年北京世界陸上代表。18年ジャカルタ・アジア大会銅メダル。19年2月にドイツ・カールスルーエで行われた室内競技会で2メートル35の日本新。同年4月にJAL入社。194センチ、72キロ。

 ◆JALの運航や社員の現状

 需要低迷で5月18~31日の国内線は7割を減便する見通し。国際線も影響は深刻で、同1日~31日の9割超が減便された。社員は原則、テレワーク勤務。やむを得ず出社が必要な場合は時差出退社、土日も活用。会議は極力開催せずにメールで共有し、やむを得ず開催の場合はテレビ会議アプリ「Zoom」を活用している。また、客室乗務員は手袋とマスクを着用し感染拡大防止に努めている。

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