生死さまよった元世界チャンプ、居酒屋店長で奮闘「コロナなんかに絶対負けるか」

2018年7月、WBO世界ミニマム級のV2戦でビック・サルダール(左)と戦った山中竜也さん
2018年7月、WBO世界ミニマム級のV2戦でビック・サルダール(左)と戦った山中竜也さん
北新地で「おにぎり竜」を営む元プロボクシング世界王者の山中竜也さん
北新地で「おにぎり竜」を営む元プロボクシング世界王者の山中竜也さん

 新型コロナウイルスの影響で各地の飲食店が苦境に立たされる中、特に気になった店があった。かつて取材したプロボクシング元WBO世界ミニマム級王者・山中竜也さん(25)が店長を務める大阪・北新地の居酒屋「おにぎり竜」だ。私も何度か利用し、ボクシング談議で酒を飲んだ後、元チャンプが握るおにぎりで締めるのが好きだったが、しばらく顔を見せていなかった。数日前に連絡を取ってみると「お久しぶりです!」と電話の声は明るく、少しホッとした。緊急事態宣言を受けて休業していた同店は9日、約1か月ぶりに営業を再開。「ランチ、始めたんですよ」。18時半から深夜までだった営業時間を11時から20時と大幅に変更し“再起”した。

 大阪市内で仕事が入った11日、ふらりと立ち寄ってみた。ランチタイムが終わった午後2時。カウンターでマスク姿の山中店長は、以前と変わらず愛想よく出迎えてくれた。入り口には消毒液が置かれ、店内には現役時代に所属した真正ジム(神戸市)の同僚ボクサーの試合ポスターなどが貼られてある。元世界王者は、私が注文したテイクアウトのおにぎり10個を手際よく握ってくれた。「もちろん対策はしてますけど、コロナなんかに絶対負けるかと思います。あの時の経験に比べたら…」と自身の現役生活の最後に触れた。

 山中さんは22歳だった2017年8月、熊本で当時のWBO世界ミニマム級王者・福原辰弥(本田フィットネス)に判定勝ちし、世界王座奪取。18年3月、神戸でカジェロス(メキシコ)を8回終了TKOに下し初防衛した。だが同年7月、V2戦でビック・サルダール(フィリピン)に判定負け。王座陥落後の控え室では「また出直します」と現役続行を誓っていたが、その夜に試合会場から神戸市内の自宅に帰る途中で倒れて病院直行。頭蓋内から出血する硬膜下血腫だった。当初は出血がなかなか収まらず、山中さんら6人きょうだいを女手ひとつで育てた母・理恵さんは、病院関係者から「どうなるか分からないので、親族を呼んで下さい」とまで言われ、最悪の事態も頭をよぎった。

 その後、出血は無事に止まり、開頭手術も回避。一命を取り留めた。「頭蓋内出血(硬膜下血腫等)と診断された場合、当該ボクサーのライセンスは自動的に失効する」と定める日本ボクシングコミッションのルールで、現役引退は避けられなかったが、23歳の人生はつながった。仕事を探していたところ、昨年4月オープンの同店の店長に抜てきされ、未知の飲食業界で新たなスタートを切った。

 現在の客足について「以前の10分の1程度。元に戻るには時間がかかるでしょうね」と語ったが、「何とか頑張ります。また来て下さい」と笑顔で見送ってくれた山中店長。直面している現実は決して甘くはないが、リング上で何度もピンチを切り抜けてきた現役時代のように、巻き返してほしい。第二の人生のゴングは、まだ鳴ったばかりだ。(記者コラム・田村 龍一)

2018年7月、WBO世界ミニマム級のV2戦でビック・サルダール(左)と戦った山中竜也さん
北新地で「おにぎり竜」を営む元プロボクシング世界王者の山中竜也さん
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