タイガーマスクに続いてブッチャーがやって来た…金曜8時のプロレスコラム

“黒い呪術師”アブドーラ・ザ・ブッチャー
“黒い呪術師”アブドーラ・ザ・ブッチャー

 BS朝日が4月から金曜夜8時に「ワールドプロレスリングリターンズ」の放送を開始した。番組は現代の新日本プロレスだが、金曜夜8時のプロレスという番組が復活したことで、かつての金曜夜8時のプロレス中継に熱狂した世代が盛り上がっている。テレビ朝日の新日本プロレス中継「ワールドプロレスリング」が金曜夜8時に放送されていた1972年から1986年までの約14年間で、今年の日付と金曜日が合致するのは、初代タイガーマスク(佐山サトル)がデビューした1981年だけだったことを先週に紹介した。

 初代タイガーマスクがデビューした1981年4月23日の東京・蔵前国技館大会が放送されたのは5月1日だった。タイガーマスクは、ダイナマイト・キッドとのデビュー戦で、ジャーマン・スープレックス・ホールドで勝利を飾り、メインイベントで、アントニオ猪木がスタン・ハンセンとのNWFヘビー級選手権王座決定戦に勝利し、タイトルを返上して封印し、世界統一のIWGPヘビー級王座構想をぶち上げたことも先週書いた通り。

 翌週の5月8日放送分では、さらなる仕掛けが用意されていた。1981年5月8日付報知新聞のテレビ欄をひもといてみると、「アントニオ猪木、長州力×S・ハンセン、B・ダンカン」「藤波辰巳×マイク・マスターズ」と、それほど興味のそそるカードではなさそう。翌週の5月15日は「アントニオ猪木×ハルク・ホーガン」「タイガーマスク×クリス・アダムス」だから、テレビ欄だけ見ると、谷間の放送回と言ってもいいかもしれない。

 5月8日は神奈川・川崎市体育館からの生放送だった。今となっては地上波でプロレスが生中継されることはないが、当時はゴールデンタイム全盛期。生中継するための夜8時枠だったのだ。そこで事件が起きた。全日本プロレスの看板外国人選手だったアブドーラ・ザ・ブッチャーが、新日本プロレスのリングにやって来たのだ。

 テレビ欄表記の2カードの前に、「第4回MSGシリーズ」の入場式が行われた。WWF(現WWE)のビンス・マクマホン・シニアが黄金のトロフィーを披露し、入場したアントニオ猪木、坂口征二、藤波辰巳、長州力、スタン・ハンセン、ハルク・ホーガン、ボビー・ダンカン、サージャント・スローター、マイク・マスターズ、クリス・アダムスの出場10選手がサインボールを客席に投げ込んだ(11人目のタイガー・ジェット・シンはこの時点で未来日だった)。

 その後、猪木が解説者席に座り、MSGシリーズ4連覇に向けて抱負を語っていると、実況の古舘伊知郎アナウンサーが「カメラはアブドーラ・ザ・ブッチャーをとらえました」と黒い開襟シャツに白いジャケットをまとったサングラス姿のブッチャーがリングインした。

 全日本で使用していたテーマ曲「吹けよ風、呼べよ嵐」が流れ、「黒い呪術師」と筆書きされた黄色いテロップがテレビ画面に出た。ブッチャーは、カリビアンヘビー級王座を返上し、IWGPへの参加を宣言。リングに上がった猪木と向き合ったのだ。猪木は「ブッチャーが戦ってきたようなファイトでは私には勝てません」と対戦に応じた。過激な興行戦争がもたらした引き抜き劇だった。

 この時、リングでブッチャーを呼び込んだ当時新日本プロレス営業本部長の新間寿氏に、この時のことを聞いたことがある。「因果応報ですよ。馬場さんの仕返しもすごかったんですから」新日本プロレスはブッチャー、タイガー戸口、ディック・マードックを引き抜いたが、ジャイアント馬場率いる全日本プロレスは、タイガー・ジェット・シン、上田馬之助、そしてスタン・ハンセンを抜き返した。だからこの1981年は面白かった。

 さて、ブッチャーが初登場した5月8日の視聴率はどうだったか。ビデオリサーチ社調べの関東地区の数字を見てみると9・7%。前週が18・3%、翌週が13・1%だから、データで見ても谷間の回だった。生放送とはいえ、テロップやテーマ曲を流すなど予知はできていたはずで、テレビ欄に「ブッチャー初登場」と一言でも触れられていれば…。

 昭和のテレビ欄のわずかなスペースが、いかに視聴者動向を左右していたか。地上波、BS、CS、インターネット放送とあらゆる情報があふれて迷う“ステイホーム”のご時世にあって、テレビ欄の行間に夢を見たあの時代が懐かしい。(酒井 隆之)

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