五輪&パラ一丸指導、100メートル最速を追究する仲田健トレーナーの指導哲学

仲田トレーナーに師事し、来年の五輪・パラリンピックに挑む(左から)山県亮太、井谷俊介、福島千里(セイコー提供)
仲田トレーナーに師事し、来年の五輪・パラリンピックに挑む(左から)山県亮太、井谷俊介、福島千里(セイコー提供)

 自国開催となる来年の東京五輪・パラリンピック。実施種目は異なるが、両大会の選手を支える関係者が存在する。陸上男子100メートルの山県亮太(27)、同女子の福島千里(31)=ともにセイコー=と、パラ陸上男子100メートルの井谷俊介(25)=SMBC日興証券=を指導する仲田健トレーナー(50)もその一人。オリパラのスプリンターと向き合い、100メートル最速を追究する指導哲学の一端を明かした。(取材・構成=細野 友司)

 “代打の神様”こと桧山進次郎氏(元・阪神外野手)ら、多様な競技の選手を指導してきた仲田トレーナー。21年東京大会では、オリパラのスプリント界を代表するトップ選手と世界に挑む。

 「パラだから、五輪だからという区別は自分の中で全くないです。これまで指導してきたプロ野球選手やプロゴルファーと同じように、個々の選手を支えて力になるということに集約されますから。ただ他と違うのは、五輪は4年に1度だということ。さらに東京で自国開催される。特別な感情や、より一層、意識する部分はありますよね」

 五輪陸上と、義足を使うパラ陸上。2つのスプリント競技を指導して、必要以上に差を感じることはない。

 「基本的に、あまり違いはないんです。井谷選手は義足のジョイント(装着部分)が擦れて痛くなることはありますけど、他の(健常の)選手だってもともと足を捻挫しやすいとか、腰に気をつけなければいけない、とかがあるでしょう。それと同じ感覚です。山県選手と福島選手は(男女で)メニューが違いますが、井谷選手を指導する時も、2人のメニューをアレンジするのと、ほぼ同じようなものです。変に気を使うようなことは全くないです」

 100メートルを誰より速く走る。五輪陸上もパラ陸上も、究極のテーマは同じだ。必要なのは「理想の走り」を正確に体現することに他ならない。横浜市内で練習をともにすることも多い3選手は、互いに刺激を与え合えるというメリットもある。

 「義足の場合は、バネをいかにうまく使うかというのは少し違いますけど、理想とする走りは同じです。上下動がなく、左右のぶれがなく、山県選手のように水平移動していくイメージですね。井谷選手はトップ選手2人の走りを見て、勉強して力を伸ばしている部分も大きいなと感じます」

  • 3選手を指導する仲田トレーナー
  • 3選手を指導する仲田トレーナー

 仲田トレーナーは、2015年秋からまず山県の指導を開始。腰や足首、背中などに痛みを抱えて苦しんでいたスプリンターを16年リオ五輪の舞台に導いた。男子400メートルリレーでは第1走者を務め、過去最高の銀メダルに貢献することになった。

 「15年の10月でした。最初に見た時、この状態ならいけるんじゃないか、と確信や自信がありました。体を客観的に見て、どこが強くてどこが弱いのか。スプリントの競技特性に応じて強化していくという形です。彼は本当にまじめな選手で、練習もついやり過ぎてしまう部分がある。適切な量や強度でやっていくことも大切にしています」

 井谷の指導を始めたのは18年1月。レーシングドライバーの脇阪寿一から紹介された。16年2月にバイク事故で右膝下を切断し、当時、陸上歴はまだ3か月ほど。まさに伸びしろの塊だった。

 「当時まだベストが13秒台と言っていたけど、義足の使い方や意識を練習させて1本走らせてみたら、手動計時で11秒6が出た。彼は素直でスポンジのように吸収していきます。義足の扱いもすごく上手で、他の子なら1~2年かかる技術を、すぐにやってのけてしまうのも強みですね。もともとカーレーサーを目指していて、運動神経も良いです」

 東京五輪&パラリンピックは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で丸1年の延期が決まった。競技歴の浅い井谷にとっては、力を伸ばす上で追い風になる。

 「経験も少ないし、課題も多い。やりたいことはたくさんあります。例えば、両脚の筋力の左右差をなくすだけでもタイムは全然違ってきます。今はまだ(義足側が)8割くらい。リズムが良くなれば、ピッチもストライドも上がります。それから、義足を踏み込んで、たわませた反力で推進力を得るわけですが、踏み込む力も海外勢に比べると足りない。パワーを補えば、(パラ表彰台が狙える)10秒台に入れると思います」

 ともに五輪出場歴があり、経験豊富な山県と福島は、1年でさらに技術を進化させて臨むことになる。

 「福島選手は百戦錬磨で経験も長く、勝ち方も調整もすごく上手。(昨季の)両アキレス腱(けん)痛が良くなって、ようやく走れるようになってきた。時間があることはプラスに考えていいんじゃないかと思う。山県選手も試行錯誤できることは多い。山県選手は9秒台、福島選手は日本記録(11秒21)を更新して本大会に向かってほしいですね」

 仲田トレーナー自身、東京五輪・パラリンピックは節目の一つだ。

 「(知識を)インプットする時間がないと、自分の身をすり減らしていく感覚があるんですよね。出せるものがなくなってくる。選手の成長に合わせてより高いものを提供したいなら、自分もインプットが必要。五輪後は仕事のペースを少し落とし、大学院に入り直そうと思っています。(将来的には)自分と同じ意識や感覚をもった後進を育てられたらいいな、と思いますね」

 ◆仲田 健(なかた・けん)1969年6月8日、京都市生まれ。50歳。嵯峨野高を経て立命大に進み、大学在学中は陸上部で円盤投げや砲丸投げに取り組んだ。順大大学院医学部医学研究科卒業。30歳を過ぎてからは競技チアリーディングに取り組み、2001年世界選手権金メダルを獲得。ホリプロ所属。

 ◆“共闘”の効果大!気づき刺激成長に手応え

  • 仲田トレーナーが指導する3選手比較
  • 仲田トレーナーが指導する3選手比較

 指導を仰ぐ3選手は、成長の手応えを胸に五輪・パラリンピックへ向き合う。日本勢4人目の100メートル9秒台突入が期待される山県が「練習以外のことも含めて仲田トレーナーとの対話を通じて視野が広がりました」と言えば、福島は「トレーニングの結果、体が変わってきたと思っています」。井谷も「間違った考えをしている時は、親のように厳しく教えてくれます。仲田トレーナーが『大丈夫』と言えば、何があっても大丈夫だと安心できる。心の底から信頼しています」と言い切る。

 オリパラの3選手が練習をともにする効果も大きい。福島は「練習に対する姿勢や取り組みに、人として尊敬できて、一緒に切磋琢磨(せっさたくま)できる」。山県も「いろいろな気づきや刺激をもらえる」と話す。史上初の延期に揺れる東京五輪・パラリンピック。井谷は「仲田トレーナーをはじめ多くの仲間とともに頑張り続けます! 来年のパラリンピックでメダルを取り、仲田トレーナーを最高の笑顔にしたいです」と約束した。

仲田トレーナーに師事し、来年の五輪・パラリンピックに挑む(左から)山県亮太、井谷俊介、福島千里(セイコー提供)
3選手を指導する仲田トレーナー
仲田トレーナーが指導する3選手比較
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