世界最強“猫レスラー”18歳で涙の誓い「父に金メダルをかける」…担当記者が見た13年レスリング全日本選手権3位・文田健一郎

昨年の世界選手権男子グレコローマン60キロ級決勝で豪快な反り投げを決める文田健一郎(下)
昨年の世界選手権男子グレコローマン60キロ級決勝で豪快な反り投げを決める文田健一郎(下)
父・敏郎さん(左)と肩を組む
父・敏郎さん(左)と肩を組む
13年12月の全日本選手権で父・敏郎監督(左)からアドバイスを受ける韮崎工・文田
13年12月の全日本選手権で父・敏郎監督(左)からアドバイスを受ける韮崎工・文田

 後にレスリング世界王者となる18歳の高校生・文田健一郎(現ミキハウス)が泣きじゃくっていた。五輪の東京開催が決まったばかりの2013年12月21日、全日本選手権男子グレコローマン55キロ級3位決定戦。山梨・韮崎工高の3年生は社会人選手を下し表彰台を死守。両手を突き上げ喜んだ。次の瞬間、セコンドの父・敏郎監督に視線を向けると涙が止まらなくなった。

 「恩返しできた。いや、まだ恩返しは…終わっていませんね。これからのレスリング人生にワクワクしている。“7年後”の表彰台で国歌を聴く。父(の首)に金メダルをかける。見ていてください」

 卒業後は親元を離れ、日体大へ進学。父子鷹で臨むのもこれが最後と分かっていた。代々木第二体育館の裏通路まで無名の彼を追いかけた。息はまだ荒れていた。希望、悔しさ、惜別、そして感謝―。感情が入り交じり、震える声で誓った言葉を今も忘れられない。何よりも「見ていてください」という純粋な訴えかけに思わず引き込まれた。

 何度も韮崎工高レスリング場に通った。12年ロンドン五輪、OBの米満達弘先輩の金メダルを現地で見届けて武者震いしたこと。大好きなプロレスなど、いつも話は止まらなかった。

 東京五輪のスター候補は今でこそ、体の柔軟性から繰り出される豪快な反り投げと、趣味の猫カフェ巡りで“猫レスラー”として注目を浴びる。当時の実家では妹が動物アレルギーのために飼えず。ひそかな楽しみは登下校中の猫観察だった。「柔らかさ、素早い身のこなし、危機察知能力。かわいいけどスゴイ。投げ技の原点ですかね」と明かしてくれた。

 同校に文田を五輪へと奮い立たせた「小石」があった。正門を入ってすぐに米満先輩の金メダル記念碑が建つ。高3の夏、同学年の小柳和也が世界カデット(17歳以下)選手権で日本人初V。世界で先を越されたと思ったある日、黒光りした記念碑の下をよく見ると、数センチほどの平らな小石が置かれているのに気づいた。黒ペンで「優勝 小柳和也」の文字。「自分は五輪で勝ちます。先輩の横にでっかい記念碑を建てる」と意識。ライバルの先約に闘志をかき立てられた。

 東京五輪は1年延期された。運命の巡り合わせか、21年8月に父は60歳。“定年”を見据えた敏郎監督は「いい夢が見たい」とつぶやいた。小5の時、父に連れられた地元レスリング場で、1歳上の女の子に「弱いわね」と投げ飛ばされて火がついた。父子鷹、本当の集大成へ―。18歳当時の涙の答えは五輪のマットできっと出る。(小沼 春彦)

 ◆文田 健一郎(ふみた・けんいちろう)1995年12月18日、山梨・韮崎市生まれ。24歳。韮崎西中で本格的にレスリングを開始した。父・敏郎さんが監督を務める韮崎工では高校生相手にグレコ無敗のまま卒業。日体大を経てミキハウス所属。17、19年世界選手権で優勝。料理も趣味。168センチ。

 ◆小沼 春彦(おぬま・はるひこ)1977年、茨城県生まれ。42歳。独協大から01年入社。整理部、北海道総局、地方部では高校野球、Jリーグ、一般スポーツなどを取材。現在は大相撲担当。

 ◆猫レスラー・文田のグレコ史

 ▽2011~13年 韮崎工で高校グレコ選手権を史上初の3連覇。当時は登下校中の猫観察に没頭していた。

 ▽14~17年 親元を離れた日体大時代、「飼わなくても癒やされる」と猫カフェ巡りにハマる。スコティッシュフォールドとマンチカンがお気に入り。4年時、世界選手権(フランス)59キロ級で初の金メダル。21歳8か月は五輪、世界選手権を通じ日本人グレコ最年少王者だった。大会後「猫島」として有名な福岡・相島、藍島へご褒美旅行。

 ▽19年 日体大卒業後はミキハウスに所属。アジア選手権(中国)で3位に終わり、“猫カフェ断ち”で自らを追い込んだ。続く世界選手権(カザフスタン)60キロ級で優勝。2回制覇は日本人グレコ初。メダル獲得で東京五輪にも内定した。

昨年の世界選手権男子グレコローマン60キロ級決勝で豪快な反り投げを決める文田健一郎(下)
父・敏郎さん(左)と肩を組む
13年12月の全日本選手権で父・敏郎監督(左)からアドバイスを受ける韮崎工・文田
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