1968年、堀内恒夫の「失態」を消した2つの歴史的事件‥プロ野球取材歴40年超 名物記者がつづるレジェンド秘話

1968年9月18日の阪神・巨人戦第2試合の4回2死二塁 バッキー投手(上左)の投球をめぐって両軍が乱闘。荒川博コーチ(背73)も応戦(甲子園球場)
1968年9月18日の阪神・巨人戦第2試合の4回2死二塁 バッキー投手(上左)の投球をめぐって両軍が乱闘。荒川博コーチ(背73)も応戦(甲子園球場)

 前回から中10日。ロートルの登板としては、これくらいがいいでしょう。さて、今回は21歳の堀内恒夫投手がやらかした“新幹線乗り遅れ”の失態を消してくれた2つの歴史的事件を―。

 1968年9月17日からダブルヘッダーを含め、3日で4試合。首位・巨人と阪神の差は2ゲーム。まさに天王山だった。その大事な甲子園決戦に備えて東京から当日移動した新幹線に、先発投手が乗り遅れた。巨人は初戦、堀内に代わって急きょ高橋一三が先発、好投したが打線が沈黙。延長12回、相手の先発・江夏豊にサヨナラ安打を打たれて惜敗した。江夏は投げて、打っての独り舞台だった。

 だが、これだけなら球史の中の1試合でしかない。実はこの試合、江夏を歴史のヒーローに押し上げたもう1つのドラマがあった。09年7月22日、スポーツ報知の「主役再び」を参考にして再現する。

 この試合の前まで西鉄・稲尾和久が持つシーズン353奪三振の日本記録にあと8個に迫っていた江夏。4回、王貞治から三振を奪ってついに稲尾に並んだ。

 ところが、本人はこの三振を日本新記録だと勘違いしていた。ベンチで捕手の辻恭彦から「ユタカ、今のでタイ記録だぞ」と声を掛けられると苦笑した。試合前から「新記録は王さんから取る」と公言していたからだ。さてどうする。江夏のすごさはここからだ。再び王に回るまで、8人の打者からあえて三振を取らないと決めるのだ。

 「ウーンとなった。ゲームは0―0だし、巨人と阪神は優勝争いをしてる。点を取られるわけにはいかん。考えたけど、やっぱり王さんまで回そうとなった」(江夏氏)

  • 1968年9月17日、阪神・巨人戦7回、王貞治を三振に打ちとった江夏豊(背28)を迎える村山実、バッキー、吉田義男ら阪神ナイン(甲子園球場)
  • 1968年9月17日、阪神・巨人戦7回、王貞治を三振に打ちとった江夏豊(背28)を迎える村山実、バッキー、吉田義男ら阪神ナイン(甲子園球場)

 6回には投手の高橋一三に打席が回った。1ボール2ストライクになったが、ど真ん中に「ソーッと投げて」二ゴロ。そして、公約通り、7回に王から新記録の三振を取った。

 一方、川上哲治監督から“恐怖の無言説教”を食らった堀内は18日のダブルヘッダー第1試合で先発。打線が前夜に続いて沈黙する中、8回まで無失点の好投をしたが、9回、辻佳紀にサヨナラ2ランを打たれた。

 ゲーム差なし。勝敗次第では首位が交代する緊迫したムードの中で行われた第2試合。事件は4回に起きた。バッキーが王に対して投げたビーンボールまがいの球を巡って、両軍が乱闘。巨人・荒川博打撃コーチが頭を切り、バッキーは右手親指を骨折。そのケガが元で、バッキーは選手生命を絶たれた。

  • 1968年9月18日、阪神・巨人戦第2試合の4回2死二塁、権藤の3球目が王(左)の頭部にあたる(甲子園球場)
  • 1968年9月18日、阪神・巨人戦第2試合の4回2死二塁、権藤の3球目が王(左)の頭部にあたる(甲子園球場)

 事件はそれだけで終わらない。王が代わった権藤正利から頭部に死球を受けて昏倒。病院送りになった。騒然とする球場。ここで打席に立った長嶋茂雄が3ランを打って巨人が大勝。巨人党は“正義の味方”の登場で溜飲を下げた。翌日の試合は再び江夏に完封されてゲーム差はなくなったが、この年、最後は巨人が逃げ切ってV4。悪太郎の失敗は、球史に残る事件と優勝のおかげで“小さなミス”として、いつの間にかファンの記憶から消えていった。

 それた話を元に戻しましょう。次回は“普通の人”に戻った晩年の川上さんと堀内さんの触れあいを。 (洞山 和哉)

1968年9月18日の阪神・巨人戦第2試合の4回2死二塁 バッキー投手(上左)の投球をめぐって両軍が乱闘。荒川博コーチ(背73)も応戦(甲子園球場)
1968年9月17日、阪神・巨人戦7回、王貞治を三振に打ちとった江夏豊(背28)を迎える村山実、バッキー、吉田義男ら阪神ナイン(甲子園球場)
1968年9月18日、阪神・巨人戦第2試合の4回2死二塁、権藤の3球目が王(左)の頭部にあたる(甲子園球場)
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