在宅テレワークが続く今だからこそ響くKENTAの「言葉力」…そこにあるプロレスラーのもう一つの戦い方

2014年から居住する米フロリダ州オーランドから新型コロナの危険性を訴え続けているKENTA(本人提供)
2014年から居住する米フロリダ州オーランドから新型コロナの危険性を訴え続けているKENTA(本人提供)
1月5日の東京ドーム大会のメインイベント後に乱入。2冠王に輝いたばかりの内藤哲也をKOし、3万人から大ブーイングを浴びたKENTA
1月5日の東京ドーム大会のメインイベント後に乱入。2冠王に輝いたばかりの内藤哲也をKOし、3万人から大ブーイングを浴びたKENTA

 誰にでもこんな経験があると思う。第一印象は悪かったのに、じっくり話してみると、意外といい人で見直した―。私にとっては新日本プロレス参戦中のKENTA(39)が、まさにそんな存在となった。

 出会いは昨年8月のこと。世界最大の団体・WWEの舞台でヒデオ・イタミのリングネームで活躍した人気者は盟友関係にあった柴田勝頼(40)に導かれ、新日真夏のビッグイベント「G1クライマックス」に緊急参戦。打撃中心の荒々しいファイトに加え、リング内外のふてぶてしい態度で一躍、新日マットを席巻した。

 私も男臭いマスクと、その強烈なキックに最初こそひかれたが、すぐに柴田を裏切り、ヒール(悪役)ユニット「バレットクラブ」入りした時には「あれ、迷走しだしたかな?」と興味は半減。その行動に「なんなんだ?」という疑問符までついたのが、今年1月5日、日本最大のプロレスの祭典「WRESTLE KINGDOM14 in 東京ドーム」で起こった“あの出来事”だった。

 メインイベントでIWGPインターコンチネンタル王者・内藤哲也(37)がIWGPヘビー級王者・オカダ・カズチカ(32)を激闘の末下し、史上初めてIWGPヘビーとインターコンチの2冠を獲得。会場を埋めた3万63人の大観衆はこの日の主役・内藤とともに勝利の雄叫びを上げる瞬間を今か今かと待っていた。

 2つのベルトを受け取った内藤が「さあ、あれをやりましょうか。東京ドームで初めての大合唱。皆さん、用意はよろしいですか。東京ドーム、ロス・インゴベルナブレス…」と言いかけたところで突然、リングに駆け上がってきたのが、KENTAだった。ハイキックからの必殺技「go 2 sleep」で内藤を一発KOしてしまうと、その体の上にあぐらをかき、歯をむき出して笑った。

 試合後の会見場でも机やいすを蹴り飛ばすと、記者をにらみつける。「何が2冠だよ。史上初? やらせるかよ、そんなもん。2020年、俺の年だよ、俺の年!」と目を血走らせて叫ぶ、その姿はヒールそのものだった。

 2日間で7万71人を動員した日本最大のプロレスの祭典のクライマックスでファンから最大のカタルシスの瞬間を奪った、あまりにも空気の読めない行動。私は「東京ドーム史上最悪のバッドエンド」という見出しの元、速報記事を書き、多くのファンの共感を得たことを覚えている。

 しかし、そんなヒールレスラーの印象が、この2か月で一変した。

 KENTAは新型コロナウイルスの感染拡大が日本列島を暗く覆う中、WWE入りした14年から居住する米フロリダ州オーランドの自宅から日々、ツイッターを駆使。3月28日には、小池百合子都知事(67)による外出自粛要請にも関わらず、出歩く若者を一喝。「結局、俺が何を言いたいかっていうと…」という決めゼリフを枕詞に自身が試合後の会見で絶叫している写真をアップ。口元に「家にいろって事!」という吹き出しをつけてツイート。この投稿にファンが「すみません…。ゲーセンにおります」と書き込んだとたん、怒り爆発。「バカか! さっさと家に帰るんだ」と一喝。大きな話題を呼んだ。

 4月2日、安倍晋三首相(65)が全世帯に布マスクを2枚ずつ配布する方針を明らかにすると、「結局、何が言いたいかっていうと」の後に大文字で「欲しいのはマスクより補償って事!!」と強調。21日にも自粛要請の中、神奈川・江ノ島などに人があふれる様子に「おい!江ノ島はずっとそこにあるぞ!今じゃない!」と警鐘を鳴らした。

 4月29日のゴールデンウイーク初日にも「パチンコとか沖縄とか変な覚悟いらないから、家にいる覚悟を決めてくれ。ちゃんとやってる人に迷惑だ」と営業自粛要請にも関わらず、パチンコ店に行列ができていたり、沖縄への航空券予約が殺到している現状を踏まえて叱責した。

 そんな言葉の数々にファンも即座に反応。ツイートのたびにコメント欄には「言動がヒールじゃない、もはやヒーローだよ」、「コメントの端々に男気を感じる」、「著名人がこうして警告することにこそ意味がある」などの称賛の声が集まった。

 もちろん、90年代からプロレスを取材してきた私もズブの素人ではない。KENTAの本質がリング上で見せる横暴な横顔にあるのか、熱いツイートを連発する正義感にあふれた姿こそ素(す)なのかと言う議論に意味がないことも「実はいい人なのか?」なんて想像しながら、その素顔を追うことがプロレスラーにとって営業妨害以外の何ものでもないことも十分、分かっている。

 それでも今や「プロレス界一のSNSの使い手」と言われるレスラーへの強烈な興味に突き動かされ、4月中旬、国際電話でのロングインタビューを試みた。

 最初から「そもそも本来、そんなにSNSとかに向いてない人間なんだから。この仕事をやってなかったら、やってないよ」と言う言葉に驚かされたが、「その言葉に励まされるファンも多い」と伝えると、「そういう(前向きな)風に受け取ってもらえるなら、言った甲斐があるんじゃないかな」と正直にポツリ。

 続けて「『ヒールじゃない。ヒーローだ』というファンの言葉はどう思うか?」と聞くと、「今、ヒールがどうとか、ベビーフェイス(善玉)がどうとか言ってる場合じゃない。(感染拡大の)状況が状況だし」と危機感をあらわに。

 その上で「それにプロレスファンほどいい加減な生き物はないよ。今、『応援してます』って言ってくれるヤツらだって、こないだ(1・5東京ドーム)まで俺に『帰れ!』って言っていた人でしょ。でも、それがプロレスのいいところだよ。ガンガン手のひら返すから。プロレスファンは手首が柔らかくないとね。まあ、でも、そんなヤツらだとは言え、今、こういう状況だからね。みんな安全第一で。ブーイング一つだって、一人いなくなったら寂しくなるわけだし…」と、本音を漏らしてくれた。

 最後には「そう。だから、結局、俺が何を言いたいかって言うと…。本当にしっかり、これ(感染拡大)を乗り切って、誰1人欠けることなく、また会場に来て、ブーイングして来いってこと!」と、いつもの決めゼリフでまとめてくれた。

 37分間のインタビューの中で、私の心をがっちり捉えた言葉がある。「確かに昔からプロレスが好きな人やファンには自分の憧れのプロレスラーが言う言葉というのは少なからず、時として何かしらの力になったりするとは思うから、(自分の言葉も)何かになればいいとは思うけど、それは受け取る側の解釈だから」―。

 どうだろう。受け答えの端々から伝わる聞く者の心を決してそらさない頭の良さとレスラーとしての自分の言葉への使命感。だからこそ、新型コロナとの戦いが続くこの2か月の間、その言葉が若者の言葉を捉え続けていると、私は思う。

 そして、もう一つ。長々と続く外出自粛の中、その言葉の数々に教えられたことがある。それは的確かつまっすぐな言葉こそが人の心を捉え、励まし、前向きにさせるということ。

 私自身、在宅勤務が続き、同僚とのやり取りはメールなどを通じての形を余儀なくされている。だが、これがなかなか、やっかいだ。本来、顔を突き合わせての会話なら生じないはずの誤解や受け取り方の違いが時に起こり、いらない軋轢(あつれき)を生むことがある。

 そこに綴(つづ)られた、ふとした言葉が乱暴に響いたり、時にはくどく感じられたり―。面と向かって直接、耳に届くのではなく、タイピングされた文字で届けられる言葉は、時に相手への刃(やいば)にもなる。

 現在、教師をしている知人は在宅オンライン授業を実施中だが、パソコン画面を通じてのやり取りについて「生徒の反応を体で、肌感覚で感じにくいのが一番の欠点。生身の人間同士が実際に会って会話する際に発している何かが目に見えないと、本当のコミュニケーションは取りにくい」と、こぼしていた。

 在宅勤務が続く読者の皆さんも同じような悩みを抱えているのではないかと思って、長々と書いてみたが、どうだろう。

 そんな現状を見るにつけ、短い言葉でフォロワーやファンの元に的確に言葉を届け続けるKENTAの「言葉力」に、私は感心する。その決めゼリフ「俺が何を言いたいかっていうと…」を拝借するなら、コロナ禍の中、その独特の「言葉力」で戦い続ける「KENTAはすごい!ってこと!」。心の底から、そう思う。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆KENTA(ケンタ) 本名・小林健太。1981年3月12日、埼玉・草加市生まれ。39歳。東京・修徳高時代にプロレスラーを目指す。99年、全日本プロレス初の一般公募オーディションに合格。00年、デビューも同年、三沢光晴氏らが旗揚げしたノアに移籍。丸藤正道とのライバル関係などで人気を呼ぶ。14年、米WWEと契約。ヒデオ・イタミのリングネームで活躍後の19年6月、盟友関係にあった柴田勝頼とともに新日のリングに登場。同年のG1クライマックスに参戦。8月、ヒールユニット・バレットクラブ入りを表明。同月の英国大会で石井智宏を下し、NEVER無差別級王座を奪取も今年1月5日の東京ドーム大会で後藤洋央紀に敗れ陥落した。174センチ、85キロ。

2014年から居住する米フロリダ州オーランドから新型コロナの危険性を訴え続けているKENTA(本人提供)
1月5日の東京ドーム大会のメインイベント後に乱入。2冠王に輝いたばかりの内藤哲也をKOし、3万人から大ブーイングを浴びたKENTA
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