コロナ感染爆発“予言の書”…2010年発表の小説「首都感染」騒然重版10万部

「大切なのは教訓を次に生かすこと」と話す高嶋哲夫氏
「大切なのは教訓を次に生かすこと」と話す高嶋哲夫氏
高嶋哲夫著「首都感染」
高嶋哲夫著「首都感染」

 作家・高嶋哲夫さん(70)が2010年に発表した小説「首都感染」(講談社文庫、1045円)が「予言の書」として話題を集めている。中国発の新型ウイルスの脅威、極限状況に立ち向かう首相や専門医の姿を描いた本作。新型コロナウイルスの感染が拡大した2月以降、版を重ねて累計約10万部に。電話インタビューに応じた高嶋さんは「目に見えないウイルスは放射能と似ています」と警鐘を鳴らしながら「大切なことは教訓を生かすことです」と見据える。(北野 新太)

 ―虚構であるはずの小説が現実と重なって注目されています。作者としてはどんな気持ちなんでしょう。

 「いや~、文庫化された7年前に読んだきりだったので、細かい所なんて全然覚えてなかったんですよ。登場人物の名前なんて全然。コロナでみんな大変な時に『自分の本を』なんて言いたくなかったんですけど、3月中旬に読み返してみたら案外ちゃんと書いていて(笑い)。今、読んでもらうのはいいことかもしれないと思って、取材も受けるようにしたんです」

 ―予言の書と言われています。中国発のウイルスという点まで一致しているのは驚きだったんじゃ…。

 「正直言うと、1月までは新作のことで頭がいっぱいだったんです。でも2月に『武漢封鎖』なんて聞いて、『ええっ!? 首都感染と同じじゃないか』と思いましたよ。『TSUNAMI』の時も予言と言われたんですけど、全然違うんです。歴史と科学を調べれば災害は起きるものだと分かります。これから首都直下型地震も南海トラフ地震も必ず起きます。いつか、規模がどのくらいかは分かりませんけど。ウイルス感染も災害の一つと考えれば、過去にペストやスペイン風邪も流行しましたから」

 ―10年前、なぜウイルスに着目されたのでしょう。

 「2002年に『ペトロバグ』という細菌についての作品を書いた時、パンデミックという言葉を知ったことが発端になりました。交通網が発達して世界中の人が行き来する現代にヒトからヒトに感染する新しいウイルスが現れたら必ず感染は拡大する。いつかは起きると思ってましたよ」

 ―あらゆる災害を描いてきた作家として、ウイルスはどのようなものと考えているのでしょう。

 「目には見えないものですから、ある意味では放射能と似ていますよね。恐ろしさの種類として。見えないけど必ず存在しているもの。正しく理解することで恐れからはある程度は逃れられるものだと思います。体内に入れちゃいけない、ならばウイルスのいそうな場所には行かない、手洗い、うがいのような基本的なことをやる、ということですよね」

 ―読んで面白かったのは、小説の方が現実よりも政治家や責任者の対応が早い印象があることでした。

 「WHOの反応は初期段階から鈍くて、役割を果たせていませんでしたよね。グローバル化した世界と言いながら、国家間の連携も取れなかった。日本についても、決断する上でどうしても法律にこだわりすぎる印象を受けます。災害対策は迅速、公平が最優先されるべきですから。もっと合理的、超法規的な対応というのはあり得ると思います。もちろん薬に関して言えば国として薬害問題の経験もありますから、慎重さも大切ですけど」

 ―終息後の「アフターコロナ」の世界は以前とは何かが違う世界になると思いますか?

 「大切なことは次のために教訓を生かすこと。私は1995年の神戸で阪神・淡路大震災を経験していますけど、2011年の東日本大震災の時、日本人は残念ながら経験を生かすことができなかった。だから、今回のことを国の形を変えていくための機会にしてほしいとは思います。江戸時代から脱していない首都一極集中の問題も今回影響していますし、南海トラフ地震は100%来ます。日本発の世界恐慌という事態もあり得ると思うんです。世界の話をすれば、年内くらいにコロナは終息するとは思うんですけど、それぞれの国がいかに経済を立て直すかという問題を抱えます。そんな中でも、例えば、今後さらに深刻化する温暖化の問題にもっと向き合う契機にもしてほしいです」

 ―ちなみに小説家は元々、巣ごもり生活を送る職種のような気がするのですが、日常は変化したのでしょうか。

 「正直…あんまり変わっていないんですよ。元々、外出自粛生活のような感じなので。でも、毎日お昼に坂を30分下ってスポーツジムに行ってお風呂に入って、坂を30分上って帰ってくるのが日課だったんです。できなくて困ってますよ。最近、家の外に出たのは2回くらいです」

 ◆高嶋 哲夫(たかしま・てつお)1949年7月7日、岡山県玉野市生まれ。70歳。慶大工学部卒、同大学院修了。核融合研究を専門とし、日本原子力研究所を経てUCLAに留学。79年、日本原子力学会技術賞受賞。94年に「メルトダウン」で小説現代推理新人賞。99年に「イントゥルーダー」でサントリーミステリー大賞。著書に「ミッドナイトイーグル」「M8」「TSUNAMI」「首都崩壊」「電王」など。神戸市在住。

 ◆「首都感染」 中国でのサッカーW杯開催中、雲南省で致死率60%の強毒性インフルエンザが出現。中国政府は封鎖に失敗する。元WHO職員の感染症専門医・優司は危険を察知して対策を打つが、感染は都内に拡大。首相は国家の生存のために空前絶後の対策を発動する。「中国」「新型」「パンデミック」「首相」など多くのキーワードが現実を想起させる。

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