新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、高校野球の活動は広く制限されている。全体練習ができない状況で、指導者はどのように選手の気持ちを束ねているのか。昨年の春、夏、秋の埼玉県大会で、いずれも8強入りした昌平(杉戸町)の黒坂洋介監督(44)は、社会人野球・シダックスで、故・野村克也監督のもと「考える野球」を学んだ野球人。携帯電話やパソコンを駆使して目的意識を共有することで、厳しい状況を乗り切ろうとしている。
政府が緊急事態宣言を発令した7日、黒坂監督は素早くアクションを起こした。無料の通話・メールアプリであるLINE(ライン)で、部員全員がグループをつくってコミュニケーションを取っていることに着目。監督、コーチも加わった野球部としてのもう一つのグループを開設した。
《1》ラインでの体重管理 在宅でも規則正しい生活を、と最初に考えたのは、ラインを利用しての体重管理だった。「以前は週に3回ウェートトレーニングをやっていて、目標の数値を定めたうえで体重を量っていました。だから、体重は大切なんです」。学年(2、3年)と守備位置(投手、捕手、内野、外野)でグループ分け。午前8時までに、それぞれのリーダーが数値を監督に送信する決まりをつくった。
《2》ウェブ・ミーティング 気持ちの共有という意味で13日から始めたのが、ウェブ会議のアプリを利用してのミーティングだ。3月1日の全体練習以来、久々の“対面”となった初日。パソコンの画面に次々と現れる部員に、黒坂監督が声をかけていく。通常は丸刈りの頭を見て「ずいぶん髪の毛長くない?」「めっちゃ伸びちゃってます」と雰囲気は和やか。指揮官は「やはり、顔を見て話すと全然違います」と笑顔を見せたが、体重報告で増えすぎていた部員には「食事制限するように」と指導が入る場面もあった。
《3》アプリで甲子園ロード 全体での練習ができない今、最も重要視しているのは動機付けだという。「気持ちを切らさないように、皆でチャレンジできるものを」とランニングアプリを利用したトレーニング「甲子園ロード」を座主(ざす)隼人、岩崎優一両コーチとともに発案。5人でチームをつくり、緊急事態宣言の期限の目安とされる来月6日までに、学校から甲子園球場までの約540キロを走り抜くイベントを15日にスタートさせた。各自、自宅の近所を走り、走行距離はアプリで集計され、日々競い合っている。
シダックスで学んだ「ノムラの教え」を分かりやすく説いたミーティング資料も、ラインで部員全員に送付した。「この機会に、自発性を身につけてほしい。いい習慣がつけば、いざ練習が再開した時に各自が自覚を持った行動ができる」と黒坂監督。多様な取り組みを通じて逆境に立ち向かい、成長した姿でグラウンドに戻ってくることを願っている。(浜木 俊介)
◆昌平 1979年に東和大昌平として開校。2007年から現校名。埼玉県北葛飾郡杉戸町にある私立の男女共学校。野球部は学校創立と同時に創部され、現在の2、3年生部員は50人。夏の最高成績は18年北埼玉大会のベスト4。
◆黒坂 洋介(くろさか・ようすけ)1975年6月15日、東京都生まれ。44歳。東和大昌平(現・昌平)卒。駒大、シダックスでは外野手として活躍し、故・野村克也監督のもと2003年の都市対抗で準優勝。05年春に母校の監督に就任し、08年まで務める。会社員を経て、17年秋に監督として復帰。