「幸せじゃん。売れたまま、いなくなっていくんだから」…ビートたけしの志村けんさん追悼コメントにあふれ出た本音

お笑い界の「戦友」志村けんさんの突然の早過ぎる死を悼んだビートたけし
お笑い界の「戦友」志村けんさんの突然の早過ぎる死を悼んだビートたけし

 それは18年2月のこと。93年の監督作品「ソナチネ」から始まり、17年の「アウトレイジ 最終章」まで全10作品でコンビを組んできた俳優・大杉漣さん(享年66)が急性心不全のため急死した。盟友とも言える個性派俳優の死の直後、生出演した「新・情報7daysニュースキャスター」で、たけしはこう言った。

 「すごい不謹慎だけれど、一番いい時に死んだんじゃないかなと思うんだよね。(売れなくなっての)芸人の末路は嫌だなと思うし、一番、輝いて忙しくていい時に漣さん、いい思い出でいたって感じがして。それを言っちゃうと怒られるんだけれど。自分のことを考えれば…。うらやましいって言っちゃえば失礼だけれど、良かったねって言っちゃうね」。亡くなる日の午後まで出演ドラマ「バイプレイヤーズ」を撮影していた大杉さんの現役バリバリでの急死を、独特の表現で悼んでいた。

 ここで、たけしの死生観を象徴するエピソードとして何度か紹介している私の思い出話を、もう一度聞いて欲しい。

 「俺は映画で成功してもお笑いは一生、絶対にやめない。笑いとシリアスは最大のテーマ、生と死ということでもあるんだよ」―。たけしのそんな言葉を聞いたのは、97年9月6日の深夜。「HANA―BI」でベネチア映画祭の最高賞・レオーネドールに輝いた直後のベネチアの中華料理店でのことだった。日本人として39年ぶり3人目のグランプリ監督となった「世界のキタノ」は受賞パーティーの行われたベネチア・リド島唯一の中華料理店に密着取材をしていた私を招いてくれたのだった。

 テーブルの正面に座った、たけしが、しこたまワインを口にした後、ポツリとつぶやいたのが「笑いとシリアスは最大のテーマ、生と死ということでもあるんだよ」という言葉だった。

 23年前のベネチアの夜から全く変わらず、たけしの心の中核には常に「メメント・モリ(ラテン語で『死を想え』)」という言葉が横たわっている。たけし語録の中でも有名な「振り子の理論」もそうだ。すなわち、映画監督・北野武とお笑いタレント・ビートたけしは笑いとシリアスの両極端を振り子のように連れ動く。両方に振り切れながらも絶妙にバランスを取っているというものだが、「生の喜び」の裏には常に「死の恐怖」が隣り合わせに存在しているという意識の裏返しでもある。

 多くの北野作品で、たけし演じる主人公は最後には心のバランスを崩し、自死を選ぶ。「ソナチネ」では自分たちを利用したヤクザ組織の大物たちを皆殺しにした上で拳銃自殺、「HANA―BI」では対立組織を根絶やしにした末に、ともに逃避行した不治の病の妻を撃った上で心中自殺。「BROTHER」では、追い詰められた末に取り囲んだ無数の敵の前にたった1人で飛び出し、無数の銃弾を浴びるという事実上の自殺を遂げている。大杉さんとの最後の仕事となった「アウトレイジ 最終章」のラストシーンも、また…。

 自身監督作品のラストシーンのほとんどで、格好悪く生き延びるくらいなら潔い死を選ぶという独自の死生観を描いているのは事実。そして、86年のフライデー襲撃事件に自殺未遂説まである94年のバイク事故。自身の生死のはざまでさえ不安定に揺れ動く等身大のたけしが、そこにいる。

 この日もそうだ。新型コロナの感染拡大で日本中、いや世界に不穏な空気が充満する中、大杉さんの死から2年後に訪れた志村さんの死をほぼ同じ「幸せじゃんって。売れたままいなくなっていく」という言葉で悼んだ、その表情。そこには死の直前の3月17日まで冠番組「志村でナイト」収録に参加していた志村さんの現役バリバリでの急死を、どこかうらやましく思っている一人の弱い男がいた。

 確かに志村さんのファンから見たら、不謹慎な言葉かも知れない。それでも、ともにお笑い界のトップを走ってきた「戦友」のあまりにもショッキングな死に、そうつぶやくしかなかったんだと、私は感じた。

 それを73歳になったたけしの衰えと思う人は思えばいい。私はそんな弱さと、それを隠そうともしない真っ正直な生き方こそが、この超大物タレント最大の魅力だと思っている。(記者コラム・中村 健吾)

3歳違いのお笑い界の超大物2人。ビートたけしと志村けんさんは「戦友」のような存在でもあった(01年の紅白歌合戦、氷川きよしの応援に登場)
3月29日、新型コロナ感染による肺炎で急死した志村けんさん
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